雪女大作戦

平成の世を迎えて数年、その号にも人々が慣れてきた頃の事。
浮世絵町から少し離れた丘の上にある古びた家の中から、ちゃぶ台をひっくり返す音が盛大に響いてきた。

ガッシャーーーン!!

「もーいやだ!あのロリコン共の相手なんかしてられるかい!!」
「雪羅さま、お、落ち着いて下さい!」

そこは雪女である雪麗が、しなびていく(笑)ぬらりひょんの姿を見たくないと移り住んだ家だった。
その中では、同じ雪女で無ければ一瞬で凍え死んでしまうような猛烈な冷気が渦巻いている。

「なんでこの妾が!またしても小娘なんかに負けるのよ!!」
「お、大人の魅力が分からないのですよ、きっと。そうでなければ雪麗さまの魅力に敵うはずが・・・」
「結局ロリコンってことじゃないか!!」
「ひ、ひいぃぃぃ~~~」

荒れ狂う雪麗を宥めようとした幹部が、逆に油を注いで怒りをさらに駆り立ててしまっている。
なぜこうなったのか?
それはずっと結婚しようとしなかった(衆道の噂さえたった)二代目が、つい最近、女性を連れてきて『彼女と結婚する』と宣言したからだった。
それが年端もいかない女子高生だったのだから、ぬら組が大騒動になったのは言うまでもない。

もっとも、雪麗の場合は二代目を狙い続けて、あの手この手で迫っていたのに相手にされなかったのだから、キレるのも当然と言えるだろう。

「氷麗!氷麗はいるかい!」

周囲にあったもの(幹部含む)を一通り凍らせて気がすんだのか、雪麗はつららを呼ぶ。

「はい、なにかご用ですか?」

現れたのは、まだ小学生ぐらいにしか見えない雪女のつららだった。

「うちの一族の中じゃ、あんたが一番ちんちくりんな顔らしいね。」
「う・・・は、はい。雪女として恥ずかしいです。」

雪女達にとっては、妖艶な美女というのが最も美しいと評されているのだから、同じ年齢の頃の他の雪女と比較しても背が低く目がクリクリしているつららは、雪羅のようにな立派(?)な雪女になる事を期待されていなかった。

「それがいいのさ。」
「??」

雪麗の言葉に、つららが首を傾げる。

「年もけっこう近いしね。側近にしてもらうには丁度いい。」
「あの、どういうことですか?」
「妾はもう隠居するってことさ。つらら、あんたが妾に代わって、3代目の側近になるんだよ。」
「え?えええええーーーーーー!!!」


それから数日後・・・
雪麗の家に首無が呼び出され、雪麗とつららと首無の3人が対峙していた。

「という訳で首無。この娘の躾、頼んだわよ。」
「・・・は?あの、どうして私が教育係なのですか?」

雪麗はつららの側近としての礼儀作法を身につけさせるため、首無につららを預けると言ってきたのだ。
首無としては突然の事に戸惑いを隠せない。
何より女性としての躾なら、自分よりは雪麗の方がずっと上ではないかと不思議になる。

「方向転換さ。若の相手をするなら今風の言葉を知った方がいいし、ロリ・・じゃなくて『可愛い』雪女にして欲しいからね。」

雪麗の言葉に、首無はピーンと来る。

「ははぁ、二代目が小娘と結婚しちゃうからって、それは・・・・はっ!」

目の前から湧きあがってきた冷気に、首無は『失言した』と後悔するが、もはや手遅れだ。
ドスの利いた有無を言わせない声が、雪麗の口から紡ぎ出される。

「いい、首無。あなたは妾の方針通りに氷麗を育てればいいの。」
「いや、あの、姐さん・・・」
「確か昔、『どんな女にだって躾けてみせる』って、豪語していたわよね。」
「あ、あれはちょっと意味合いが・・・」

首無はとんでもない地雷を踏んでしまったことにビクビクしている。
いつの日か自分の氷の彫刻が発見される、というような事が起きないよう、願うばかりだ。

「ロリコンにはロリっ娘が一番なのよ!いい、氷麗!あんたはロリっ娘で、ドジっ娘な妹キャラになるのよ!」
「そ、そんな無茶な!つららは年上だし、それにドジっ娘なんてものは、狙ってなれるようなものじゃ・・・」

しごく真っ当な反論だが、今の雪麗にそのような言葉が通じるはずもない。
首無をギラリと睨むと、般若のような形相になって髪を振り回し、首無を威嚇しながら睨みつける。

「うるさい!やれるの?それともやれないの?」

断っても出来ないと言っても殺される。
そう感じた首無は、もはや頷くしかなかった。

「ハイ、ヤラセテイタダキマス。」

突然、二人のやり取りをぽーっと見ていたつららが、楽しそうに笑いながら手を叩き始めた。
首無は、自分のふがいない姿をみて喜んでいるのかと、キッとつららの方を見る・・・が、つららは首無の方など見ていなかった。


「わぁ・・・すごいです、雪麗さま。新しい変化を覚えられたのですね。」

首無は唖然とした顔でつららを見る。
この娘は、いったい何を思いながら今までのやり取りを見聞きしていたのだろうか?

「・・・素質あるかも。」

ぼそりと、首無は呟いた。

 

首無に預けられたつららは、それから本家住まいとなる。
これでも女性の扱いには長けているという自負があるし、何より目的に沿って一人の女性を育て上げる、というのが今までにない楽しさを感じさせていた。

「まぁ、ようは3代目をモノにできるような女性に育てればいいわけだから、少しぐらい、私の趣味を入れてもいいよね?」

首無は本家の庭で遊ぶつららを見ながら、誰となく呟いていた。

 

 


ジャンルとしては首つらになるのかな?
つららがかなり妙な子ですが、まだ子どもですので勘弁願います。
雪麗に至っては、完全に壊れてますけどね。
あと、話の都合上つららは雪女の中でも子どもっぽいと決めてしまいましたが、まぁねつ造ネタなんでご容赦ください。

本誌では雪麗が『何代かけても』と言っていたシーンがあったので、雪女は鴆のように妖怪としては短命で、つららは雪麗の数代後なのかなー、なんて思ってたりするのですが、オリキャラを出すよりもこの方が面白そうだったので、雪麗にご登場頂きました。
首無が教育係なのは、キャラ的に合いそうなのと、首無に仕込まれてたんだとすれば面白いな~、と思いまして。
自分で書いてて、首無がつららを自分の好みも含めて仕立て上げる、というシチュエーションに、けっこうドキドキしてしまいました。
誰か躾の話を書いてくれませんかね?w

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