花見酒・雪見酒?

散り始めた夜桜を肴に、今日は花見酒といこうか。
そう思ったリクオは、つららに晩酌を命じると、お気に入りのしだれ桜の枝へと飛び移った。

「へぇ・・・半月だってぇのに、随分と明るいな。」

今夜は空気が乾いているためか、半月であるにもかかわらず、月が煌々と輝いている。
目を細めその月に見惚れていると、『ステテテテ』と聞き慣れた足音が近付いてきた。
それが誰であるかをよく知っているリクオは、桜と月を眺めたままの姿勢て、やってきた人物に声を掛けた。

「おう、つらら。こっちだ、持ってこい。」
「え?・・・あの、こちらに降りないのですか?」

つららの疑問ももっともだ。木の上に片口と盃を載せた盆を持ったまま上がろうとすれば、十中八九、落としてしまうだろう。
もちろんリクオは、それを承知の上で言っている。

「ここから眺める桜と月の組み合わせがいいんだよ。ほら、上ってきな。」
「うう~~~~~。」

困っているつららの様子を、嬉しそうに目を輝かせながらリクオが眺めている。
その顔は、いたずらをして喜んでいる子供そのものだ。

「これで酒がありゃあ最高なんだが・・・ああ、あそこだっけか。」

そろそろ悪戯も止めて、つららをここに引き上げようか、と腰を上げて再び下を見ると、つららの姿が何処にも無い。

「分かりました!今からそちらへ行きます!」
「あ、おいちょっと待て!」

いつの間にか助走距離を取ったつららが、勢いよくしだれ桜へと向かって走りだしていた。

「おいおい、まさかそのまま駆け登ろうってんじゃねぇだろうな・・・」
「え~~~~い!!」

庭石を踏み台にして飛んだつららの体を、ビュウッと吹雪が纏い体を舞い上げる。

「ずげぇ・・・」

予想外に飛び上がったつららの体が、リクオの目の前まで迫ってきた。
問題なのは、このままだと間違いなくリクオにぶつかる事だろう。

「若!!退いて下さ~~~~い!!」
「おっと。」

リクオはつららを避けると同時に、手に持っていた盆をひょいと取り上げた。

「うわわわわわ!」

やはりというか、枝に飛び乗るのは成功したものの、勢いが付きすぎて、いまにも落ちそうな所で辛うじてバランスを取っている。

「何やってんだよ、つらら。」

さっとつららの肩に手を掛けると、リクオは自分の懐に抱き寄せて、そのまま幹にもたれかかって座り込んだ。
つららの体がすっぽりリクオの懐に収まり、体が密着する。
ひんやりとした抱き心地が気持ちいいな、とリクオは思った。

「リ、リクオ様!?」
「このままつららに酌をしてもらうのも、粋ってもんだな。」

そう言ってニヤリと笑うと、つららは顔を真っ赤にして顔を伏せた。
そんなつららを見て、リクオは楽しそうに目を細める。

「さあ、酌でもしてもらおうか?」
「はい、リクオ様。」

つららが片口を手に取り、リクオの手にある盃へと傾ける。
それを桜でも月でもなく、つららの顔を見ながらぐいっと傾けると・・・

「ブハァ!」
「きゃあ!」

思いっきりつららの顔へと酒を吹き出した。

「あ、すまねぇつらら、大丈夫か?」
「大丈夫じゃありません!!顔に思いっきりかかったじゃないですか!!」

あ~~~、とつららの顔をしげしげと眺めるリクオ。
幸い(?)量が少なかったためか、髪やマフラーにはほとんどかかっていない。

「すまねぇ、酒があんまりにも冷たくってな。」

水ならば確実に凍っているような冷たさに、思わず吹き出してしまったという事だ。
普段ならば凍った食事でも平然と食べるリクオなのだが、つららに見惚れて油断していた為か、不意を打たれてしまった。

「はっ!?もしかして飛び上がった時に!?
 す、すみませんリクオ様!すぐ代わりをお持ちします!」

『これがつららで遊んだ報いってやつかね。』とリクオは思いつつ、慌てて飛び降りようとするつららを、ぐいっと強く抱きしめて押し止めた。

「あ~~いいって、懐に入れときゃ、すぐ飲めるようになるさ。」
「あう・・・スミマセン・・・。」

そもそもの原因はリクオにあるのだし、一番の被害者はつららであるのだから、リクオが謝るのがスジというものだ。
それでも謝るつららを見て、リクオはつららの頭を撫でながら、ふと悪戯心が湧きあがってきた。

「ほら、まだ酒でびしょびしょだぜ。俺が拭いてやるよ。」
「そ、そんな事リクオ様が為さらなくとも・・・え?ええっ!?」

つららが答えるより早く、リクオの顔がつららの顔にどんどん近付いてゆく。

べろん

「きゃあ!」
「ん~、酒のシャーベットって感じか?うん、悪かねぇな。」

リクオはつららの頬を舐めると、酒の味を堪能する。

「わ、若!?」
「ほら、動くなよ。」

そう言うとリクオは頬からこめかみ、額、瞼、鼻、と次々とつららの顔に着いた酒を舐め取っていく。

「ちょ、わ、若!?い、悪戯が過ぎ・・・ん・・・止め・・・あ・・・」

つららは顔を真っ赤にし目を白黒させながら慌てふためき、そんなつららを見てリクオは益々調子に待ってつららの顔を舐め回す。
つららの声に色がかかってきた事が、さらにリクオを興奮させた。

「や・・・皆・・・がぁ!」

首筋まで全て舐め終わった所で一息つくと、リクオはじっとつららの顔を見て、もう一度首筋に口をつけ始めた。

「若!?ん・・・い・・・いい加減に・・・・」

リクオの頭の中のどこかで警鐘が鳴ったような気がしたが、興奮しているリクオには、それが何かを認識する事が出来なかった。

「いい加減にしなさ~~~~い!!」

ゴウッと吹雪が舞うと同時に、バアッと桜吹雪がリクオの周囲を舞う・・・いや、リクオも宙に飛ぶ。

「よっと。」

一瞬何が起きたか判らなかったリクオだったが、うまく着地し『何をするんだ』とつららの方を向いた。
そこには、ズゴゴゴゴゴゴゴコ・・・と黒いオーラを出すつららの姿が。

(・・・ああ、ヤバイ。あれは本気で怒っている。)

「申シ訳アリマセンデシタ。」

自然と庭に正座して謝るリクオの姿は、本当に若頭なのかと疑いたくなるような、なんとも情けないものだった・・・・

 

 

 


若が変態でスミマセン。酔っ払っているのであればまだしも、シラフでこれってどんなん。
『しりとり』のプロローグ的な部分として書き始めたはずなのに、裏に突入しそうな勢いになって、しかもどう考えてもこの後『しりとり』には続きそうに無いので、別の話にしてしまいました。

つららとしては、烏はもちろん、他にも複数の仲間が見ているはずのこの場所で情事に走るなどとんでもない、という理由で怒っているのですが、じゃあ若の部屋ならどうなっていたのかな?と思った所で考えるのを止めました。
裏にするつもりは無いので。どなたか書いていただけませんかね?(笑)

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