『立派』の条件

「立派な人間って何だろう?」

カナに『立派な人間になればいい。』そう教えられたのだが、まだ小学生のリクオにとっては抽象的すぎて、どうすればいいのかまるで分らなかった。

「うーん。」
「若、どうされましたか?」
「あ、雪女。」

悩んでいたリクオを見て、何事だろうかと心配そうにつららがやってきた。

「そうだ、ねぇ、雪女なら解る?」
「何をですか?」
「立派な人間。」
「立派な人間・・・ですか?」
「そう。」

目をキラキラ輝かせながら質問してくるリクオに、つららは『うーん』と考える。

「さあ・・私は人間の事は良く知らないので。」
「なんだ、駄目じゃないか。」

自分が解らない質問を出しておいて、このような物言いとは理不尽なものなのだが、それは子どものやる事。
つららは気にも留めずに真剣に考え続け、ふといい答えを見つけたとニッコリと微笑みながらリクオに語りかける。

「若菜様は立派な方ではありませんか?」
「お母さんが~?」

つららとしては、咄嗟に思いついたにしてはいい回答だと思ったのだが、リクオにとっては不満いっぱいだ。
なにせ若菜はリクオにとって、あれやこれやと五月蠅い母親である。
それに確かに好きではあるが、母を手本にしたいとは思えなかった。

「お母さんのような人が『立派な人間』なの?」
「うーん、『立派』にも色々あると思いますが、少なくとも、皆の為に働かれる若菜様は、立派な方だと思いますよ?」

ゆっくりと教え諭すように話すつららに、リクオも『ふーん』と納得したようで、顎に手をやり何やら考えだした。

「それにしても、突然どうなされたのです?このような質問などされて。」
「ううん、何でもないよ。ありがと、雪女。」
「いいえ、どういたしまして。」

リクオは笑顔でつららに礼を言うと、ててててて、と駆けていった。

 

それから数日間。
若菜を観察するリクオの姿に、一体何があったのだろう?と奴良組の妖怪たちは首をかしげていた。

 

「よし、決めた!」

そしてある日突然、洗濯物を干すために運んでいたつららの前に、リクオが立ち塞がるように飛び出してきた。

「わわわ、若!?」

びっくりしたつららが、リクオを避けようとしてバランスを崩し、洗濯物をばら撒きながら縁側へと倒れ込む。

「あ、ごめん雪女。」
「へ?」

雪女が驚くのも無理はない。
これも何時もの悪戯で、『ははは、これぐらいで転ぶなんて、雪女はトロいな。』と笑いながら去っていくとばかり思っていたからだ。
ところがリクオは笑うどころか謝り、しかも散らばった洗濯物を、慌てて集めて洗濯かごに詰めている。

「・・・あの、リクオ様。これはどういうつもりの悪戯で?」
「え?ち、違うよ雪女。僕は立派な人間になるって決めたんだ。」
「はあ・・・それとこれに、何の関係が?」

リクオの言わんとしている事がさっぱり解らず、つららは頭の上に『?』マークを幾つも浮かべながら頭を捻る。

「今回はこんな風になっちゃったけど、これからは違うからね。見ててよ、雪女。」
「はあ・・・」

これは何か新手の遊びだろうか?
そうとしか思えず頭を捻るばかりのつららとは対照的に、リクオはキラキラと顔を輝かせ洗濯物を片付けながら、つららをじっと見ていた。

 

それからというもの、頻繁に誰かの手伝いをするリクオの姿が、小学校で見られるようになったという。

 

 

 

 

あれ?当初の目的と全く違ったほのぼのが出来てしまったのですが・・・・

たしか、「リクオがつららを『手本』に選び、本編の名シーン(思い付いたのは牛鬼編と京都編)をギャグで描こう」だったはずなのですが。
そのプロローグ的な話を書こうとしたら、なんか普通の話になって終わってしまいました。

あ、ちなみに初期設定では『若菜を観察していた』のではなく、『実は若菜と一緒に働いているつららを観察していた』となっていたんですよ。
うーん、まだまだ未熟ですね。

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