匂いたつ君

ここの浮世絵町奴良邸。
奴良組若頭である奴良リクオは、何時ものような喧騒の中での朝食を終え、何時ものように下僕たちに世話を焼いてもらいながら身支度を終え、そして何時ものように学ランを身に纏った。

ふわっ・・

それと同時に、何時ものようにリクオはつららの匂いを感じ取っていた。

「ん・・・」

安堵の溜息を洩らしながらも、リクオはそんな自分自身に戸惑っていた。

「はぁ・・・もう重症かも・・・。」

リクオの制服の準備はつららがやっているのだから、つららの移り香があっても不思議ではない。
だが、それは昨夜付いた物のはずだ。
移り香が残っていたとしても、普通は匂いを感じ取れる事も無いほど微かなものとなるはずだと、リクオは思う。

「やっぱりつららだからかなぁ・・・」

それほどまでに、自分はあの美しい側近に参っているというのだろうか。
特に今日は、何時も以上にはっきりとつららの存在を感じてしまう。

「若?呼びましたか?」
「うわぁあ!!」
「ひゃあ!?」

いつの間にか側まで来ていたつららに不意を打たれ、リクオは素っ頓狂な叫び声を上げてしまう。
その叫び声に驚いたつららもまた、大きな叫び声を上げてしまった。

「あ、い、いや、何でも無いよ、つらら。」
「そ、そうですか?」

何処から聞かれたのだろうと、リクオの心臓がバクバクと激しく脈打つ。
つららはつららで、落ち着き無げにモジモジしながら、上目遣いでリクオをじっと見つめている。
その頬は心なしか赤く染まっており、リクオは先ほどの自分の呟きを全て聞かれてしまったのではないかと、顔を真っ赤にしながらつららの顔を凝視してしまう。

「朝から二人で何やっているんですか。学校に遅刻しちゃいますよ。」

毛倡妓の言葉に、見つめ合っていた二人はハッとなって、互いに視線を逸らした。

「そ、そうだね、今日も日直なんだから、急がないと。」
「は、はい。今日も頑張りましよう。」

互いに相手を意識して顔を赤くし、目も合わせずに言葉を交わしている。
そんな二人のやり取りを、毛倡妓はニヤニヤと笑いながら眺めてる。

「仲が良いのもほどほどにして下さいよ。特に雪女は、変な事しないようにね♡」
「な!なななななな!?何言ってるの毛倡妓!?」
「さあ?うふふふふ。」

毛倡妓の言葉に、つららが顔を真っ赤にして両手を振り上げ抗議する。
それを含みのある言葉でさらりと交わし、ほほほと高笑いする毛倡妓。

「ほら、つらら、急ぐよ!」

何とか言い返そうとつららが口を開くより先に、リクオがつららの手を取り、玄関へ向け走り出した。

「あ、はい!リクオ様!」

慌ててつららがその後に続き、二人仲良く奴良邸の中を走って行くのを、毛倡妓はジト目で見送っていた。

「言った傍から・・・いいわねぇ~~~、若いって。」

 

 

 


ぬら孫小説第二弾のカバー裏を見て、妄想が爆発して書いた作品です。如何でしたでしょうか?
時間帯はカバー裏事件の翌朝。

リクオがつららの匂いを感じるようになったのは、つららが5秒ほど妄想に耽っている(笑)間、制服を抱きしめているはずだから、という設定からです。
で、ついにカバー裏の事態になって、より強く感じるようになっていたと。
つららは知らず知らずのうちに、若に暗示を掛けていたのかもしれませんね(笑)。

つららの方も、毛倡妓に見つかってしまった為、リクオに対し過剰反応してしまっていた、という訳です。
いや、どうも御馳走様でした(^^)。


しかし、ほんと、あのカバー裏の本文を書いてほしいですね(笑)。

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