それは禁句です

ある日突然、何の前触れもなく、一人の妖怪が奴良邸に訪れた。
その妖怪が門をくぐっただけで奴良邸全体の気温が数度下がり、それだけで奴良組の多くの者は、誰が訪れたのかを理解した。

「ほほぅ、珍しい客人が来たようじゃな。」
「そのようですな、総大将。」

自室で茶を啜っていたぬらりひょんが懐かしい気配を感じて呟くと、共にいた烏天狗が相槌を打つ。

「まぁ、ここでのんびり待つとするか。」
「はい。すぐにやってくるでしょう。」






だが、何時まで経っても、誰もぬらりひょんの元を訪れる気配がない。

「ぬぬぬぬ、いったいどういう事じゃ。」

いい加減痺れを切らしてきた所で、すっと襖から影が現れた。

「おお、やっと・・・」
「あれ?総大将、こちらでしたかい。」

期待していたよりもずっと低い背、しわがれた声、そして・・・鼻をつく匂い。
現れた納豆小僧に、ぬらりひょんはあんぐりと口を大きく開け、茫然と納豆小僧を凝視した。

「ああ、雪女でしたら、雪女のところに・・・ええと、娘の所に行ってますよ。」
「総大将を差し置いて何を考えとるんじゃ、あやつは!」

二人も雪女がいるとややこしい、と納豆小僧は冷や汗を掻きながら説明し、その上を烏天狗が声を荒げ飛びまわる。
だが、当の本人は『よいよい』と烏天狗を宥めながら立ち上がると

「まったく、素直じゃないのう。」

と言って笑うと、リクオの部屋へと向かった。

 

 

ぬらりひょんが向かった先・・・リクオの部屋に隣接する縁側で、リクオと雪女二人・・・氷麗と雪麗が楽しそうに談笑していた。
その様子にぬらりひょんは目を細めつつ、明鏡止水を使って声がはっきりと聞こえる所までこっそりと近付く。

(ふふふ、ワシもまだ捨てたもんでも無かろう)

そしておもむろに『畏れ』を解き、驚く3人にニヤリと笑いかけた。

「ワシに会いにでも来たのか?」

昔の事を思い出しながら、そう雪麗に『粋』に話しかけたつもりだったが、当の雪麗はジト目でぬらりひょんを見ると、ハァーっと深い溜息を吐いた。

「なんじゃい。」

その態度にぬらりひょんは子どものように口をとがらせ、雪麗のすぐ側にどかっと腰を下ろす。
だが雪麗はぬらりひょんを避けるようにすうっと立ち上がり、心配そうな顔をしながら氷麗に詰め寄った。

「氷麗。自分でしかけといてなんだけどさ。あんた、ほんとにいいのかい?」
「何がですか?」

突然何を言い出すのかと、つららが顔を傾げて雪麗に聞き返す。
その横では、自分の祖父が見事にシカトされた事に、リクオがハハハと苦笑いしていた。

「3代目・・・いや、まだ若頭だったね。若頭は、総大将の若い頃にそっくりなんだろ?」
「はい。そう聞いております。」

それはもうカッコいいんですよー、と嬉しそうに話す氷麗を見て、雪麗は再び溜息を吐く。

「ということは、今は可愛らしいあんたの大好きな若頭も、将来はあんなちんちくりんのハゲになるって訳さ。
 それでもいいのかって聞いたんだよ。」

わざとハッキリ聞こえるよう、ハゲの部分を強調する雪麗の物言いに、ぬらりひょんは座ったままの姿勢で固まり、正面を凝視しながらワナワナと震えてる。
リクオはというと、ショックを受け真っ白になっていた。

「そ、それは・・・大丈夫です!若、私は気にしていませんよ。」

つららはそんなリクオをギュッと胸元に抱きよせて、雪麗をじっと見つめ答える。

「あ、ありがとうつらら。」

リクオが頬を染めながらつららを見上げると、つららもまたリクオに視線を向けて、互いに見つめ合う。

「ふーん。」

いちゃつく二人を雪麗が目を細めジロジロと見ていると、ぬらりひょんが両手を振り上げて立ち上がった。

「おい!なんという言い草じゃ!」
「ふん、見たまんまの事を言っただけじゃないか!」

両腕を組み、ぬらりひょんを見下すような姿勢で雪麗は答えると、『他にも挨拶する相手がいるから』と立ち去って行く。

「なんじゃい、ワシの所には来なかったくせに!」
「そっちから来て手間が省けたわ。」

ぬらりひょんもまた雪麗に続き、二人は口喧嘩を繰り広げながら去っていった。

残されたリクオとつららは、揃ってポカーンと開け二人の去っていった方をじっと見ていた。

「えーと・・・なんていうか、あれって、仲が良いの・・・かな?」
「はぁ・・・そう見えなくもありませんが、良く解りませんね。」
「そうだね。」

その後も、二人はそのまま縁側で、つららの昔話に花を咲かせ続けた。

 

「それでですね~、雪麗様は長い髪を振り回して・・・」
「うん・・・・」

リクオは先ほどから、つららが時折自分の顔・・・いや、なんとなくもう少し上を見ては、小さく溜息を吐いているように見えるのが、気になって仕方が無い。
もしかして、さっきの事を気にしているのではないか・・・
リクオはその事が気になって気になって仕方がなかった。

「そういえば、二代目は400年ほど生きてられて、もうオジサマって感じでしたけど、まだ長かったですよね。」
「え?」

突然何?とリクオは怪訝な顔でつららを見る。

「あ、いえなんとなく。」

とは言うものの、またつららが小さく溜息を吐いたのをリクオは見逃さなかった。

「もしかして、やっぱりさっきの事、気にしてる?」
「い、いいえ!?き、気にしていませんよ!?」

どう見ても気にしているようにしか見えないんだけど・・・
そうリクオは思いながら、自分の頬が引き攣るのを感じる。

「それにリクオ様は1/4だから、たぶんまだ百年か二百年は大丈夫だと思いますよ。」

じっとリクオの頭・・・いや、髪を見てそう言うと、つららはニッコリと微笑む。
そして、袖口で口元を覆うと、視線を逸らし盛大に溜息を吐いた。

(やっぱり気にしている~~~~!!)

大量の冷や汗を掻きながら、リクオは早くこの話が終わる事を祈り続けた。

 

 


根なし草様より2万8千Hit記念にリクエスト頂いた、『本家に来た雪麗さんと奴良一家+氷麗の談話』でした。・・・・談話?(笑)
こんな話になってしまい、申し訳ありませんでした。
私自身、ふと気になってしまった、というのもあるのですがね~。


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