つらら、リクオを誑かす

チュンチュン  チュンチュンチュン

「ん・・・朝か・・」

朝日がリクオの部屋を障子越しに明るく照らして来ている。

「ん~~、もう少し・・・」

まだ夏休みという事もあって、リクオはもっと寝ていたいと寝返りを打つと、冷んやりとしたモノを感じ取りそこに手を伸ばした。

「ああ・・・良い気持ち・・・」

今年は異常な暑さの夏だけあって、陽の光が入ってくれば、障子越しであれ部屋の温度はあっという間に上がってきている。
その中で、リクオは自然とその冷んやりとした大きなモノに、両腕と両足を回して抱き着いた。

(ああ~~、極楽・・・柔らかくて・・・冷たくて・・・まるで・・・まるで!?)

自分が抱き着いているモノの正体に思い当たった途端、リクオの意識が急速に覚醒しガバッと跳ね起きる。
同時に跳ね上げた布団の下からは、リクオの予想通り、つららが気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「・・・つ、つらら?」

リクオの声に反応してか、それとも布団を跳ね上げた為か、つららは眠そうに目を擦りながら体を起こすと、キョロキョロと周囲を見回した。
そしてリクオと目が合うとニコリと微笑み、軽くぺこりと頭を下げた。

「おはようございます、リクオ様。」

そんなつららに、リクオは埴輪のような顔をしてダラダラと冷や汗を大量に掻いていた。

(え、ええ~~~~!いったい何があったんだ!昨日!)

そういえば、昨日はつららの酌で酒を飲んだはず・・・とリクオは思い出すが、そんな事が初めてという訳でも無いのに、つららが何故ここにいるのか思い出せない。
確かに昔は夏の暑い夜につららに添い寝してもらったことはあるが、それは大昔の事だ。

リクオが何とか昨夜の事を思い出そうとつららを見ながら思案にふけっているのを、当のつららは自分をじっと見つめていると勘違いしたのか、ぽっと頬を赤らめると口元を隠しながら視線を逸らした。

「そんなに見つめないで下さい、リクオ様。思いだして照れてしまいます。」

(な、な、な、何を~~~~!?)

リクオは既に言葉を出す事も出来ないほど混乱しており、目を白黒させながらつららを凝視するしかない。

「昨夜はまさかあんな事をされるとは、思ってもいませんでした。」

(あんな事って何!?)

完全に固まってしまったリクオに、つららはリクオからは見えない角度で、してやったりと微笑んでいた。

(毛倡妓に教えてもらった通りやってみたけど、こんなに上手くいくなんて)

 

以前、側近達で飲みに行った時の事である。
酒に酔った勢いというのもあって、つららは「たまにはイタズラをやり返してみたい。」と皆の前で言ってしまったことがあった。

酒の席の話という事もあり

『ワシもやってみたいのう』とか
『フフフ、仕返しするのも一興だな』とか
『面白そうだよね~』とか

皆好き放題言って笑っていたものだ。

普通ならばそれで終わるはずだった。
だが、毛倡妓が『こういうのはどう?』とつららに持ちかけてきた所から様相が変わる。
驚くつららだったが、毛倡妓の『これなら確実よ。』という誘惑の言葉に負けて、具体的な方法を二人でヒソヒソと話合ったのであった。

もし首無が酔い潰れていなければ、あるいは首無が下戸でなければ、具体的な話にまで発展する事など無かっただろう。


「つ、つらら・・・その・・・あんな事って?」

ようやく落ち着き始めたリクオが、なんとか言葉を紡ぎ出す。

(確かこの場合は・・・)

つららは毛倡妓に教えられた事を実行に移すため、ぎこちなく体をしならせ、俯き加減の顔に流し目でリクオを見る。

「もう、女の私から言わせるつもりなのですか?」

「!!!」

これで顔を赤らめる事が出来れば完璧なのだが、そこまでの演技は氷麗には出来なかった。
おまけに、毛倡妓は簡単にできると言っていたのだが、こういう演技に慣れていないつららでは、流れるように体を動かす事も出来ていなかった。
だが再びパニック状態に陥ってしまったリクオには、照れて顔を伏せているようにしか見えず、ますます頭が混乱してしまう。

(確かに酒は飲んでいたけど!そこまで酔った覚えは無んだけど!)

夜の自分をしっかり受け止めていなかった頃ならいざ知らず、夜の姿の自分が何をやったか覚えていないなんて、そんなバカな。ともリクオは思う。

(ああ、でもそういえば、今夜も暑いから添い寝して欲しいって、つららをからかったような気が・・・)

だが、それをつららが承諾した覚えは無い。
むしろ何時ものように、顔を真っ赤にして断わってきたはずだ。
いや、それとも実は相当酔っていて、本当は添い寝をしてくれたし、酔った勢いでつららにとんでもない事をしてしまったんじゃないだろうかと、そう思うと全身から汗が噴き出てくる。

「・・・・」

「リクオ様?」

「ごめん、つらら!昨夜の事、何も覚えていないんだ!」

もうこうなったら謝るしかないと、リクオは頭を布団に擦りつけるように土下座してつららに謝った。

「ええっ!?リクオ様!?」

突然の主の行動に、つららは大慌てで手をバタつかせる。

毛倡妓には、きっと『覚えていない』と言うだろうと教えてもらっており、そしてその通りになった。
そうしたら『初めてだったのに、酷い!』といって部屋を飛び出せばイタズラ完了。

そうなるはずだったのに、まさか土下座されるなんて・・・とつららもパニック状態に陥ってしまう。

「そ、そんなリクオ様、顔を上げて下さい。私などの為に頭を下げられるなんて、そんな畏れ多い。」

「そういう訳にはいかないよ。ボクにも男としてのケジメをつけなきゃ。」

両手を着いたままの姿勢で顔を上げるリクオに、益々慌てるつららはもはや涙目で、様々な考えがごちゃ混ぜになってしまう。
そしてついには『こんな事をさせてしまうなんて』と居ても立ってもいられなくなり

「(イタズラで)私の言った事は忘れて下さい!リクオ様~~~~!」

と泣きながら逃げて行ってしまった。

「つらら!」

追いすがるように片手を上げたままの姿勢で固まってしまったリクオは、つららの目から涙を流していたのをはっきりと見ていた。

「本当にナニかしてしまったんだ!
 ああ、なのにボクは何で覚えていないんだよ!どうしよう!?」

 

二人の叫び声が響き渡った奴良邸で、何事かと妖怪たちが噂し合っている中、毛倡妓だけがニヤリと笑っていた。

「あら、上手くいったようね。
 でも、ほんとうになやるなんて、つららも大胆になったわねぇ。」

ふぅ、と毛倡妓は溜息をつくと、ニコニコと笑いながら

「さーて、今のうちに楽しめるだけ楽しんじゃおっと。」

と首無の所へとイソイソと歩いて行った。


それからしばらくの間、互いにに気まずそうにしている二人の様子と、噂を聞きその様子を見て驚愕する首無と、それを傍で楽しんでいる毛倡妓の姿が見られたという。

 

 

 

後書き

どんだけ性質の悪いイタズラですか、つららさん(笑)。
もうイタズラで済むような話じゃないと思うのですが。

自分で考えておいてなんですが、毛倡妓に教えてもらったからって、素直にその通りにやるもんかな~、と思ってしまいます。
それと、イタズラの為とはいえ、リクオの布団に潜り込むのも如何なものかと。
まぁ、「イタズラの仕返しが出来る」と思ったら、それ以外の事にまで思考が回らなかったのですよ、きっと。
今度アニメ化されるどこぞの王子様のように(笑)。

夜のリクオがつららを布団に引き摺りこむ、というお話は他所様のサイトで何度も楽しませて頂いているのですが、つららから潜って、しかもそれがイタズラだったら面白そうだな~、とふと思って考えた話です。
やはりつらら単体では結局リクオに喰われそうだなと思ったので、黒幕として毛倡妓姐さんに出張ってもらいました(笑)。
二人をいじるならこの人しかいないな~、と思ってしまうんですよね~。


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