鴆の受難

激しい抗争の日々から数年。リクオは高校生となり、既につららとも想いを通じ合わせ付き合っていた。
ただ、つららの希望でリクオが人間として成人するまでは奴良組の皆には秘密にするということになり、その事を打ち明けたのはリクオの義兄弟である鴆にだけだった。

もっとも、二人が所構わずのイチャついて・・・いや、以前からそうなのだが、さらに輪をかけて・・・いたため、あっという間に皆の知るところとなり、公然の秘密として皆に暖かく見守られていた。
リクオ自身が秘密にするつもりが無かったという事もあるのだが。

既に知れ渡っている事に気が付いていないのは、つらら本人ぐらいなものである。

そして表向きは「秘密」であるため、自然と二人は何か相談事があると、鴆と話すようになっていた。

 

「鴆様、夜分失礼します。」
「おう、雪女か。遠慮なんていらねぇよ、なんせお前はリクオの・・」
「わわわ!言わないで下さい!誰かに聞かれたらどうするんですか!」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。」

本当にまだ秘密にできていると思っているのかと、鴆は少し呆れた溜息をつきながら、つららを部屋に招き入れる。

『この前いい酒のつまみを見つけたんだ、見回りついでにちょいと手に入れてくるよ。』

と言って、すぐ帰ると出かけていったな、と鴆はリクオの姿を思い浮かべる。
そして自分の目の前に正座したつららを見て、再び溜息を吐いた。

こういうタイミングでやって来た時は、決まってリクオの事での相談だ。
それも、大抵はあまり聞きたくないような内容の。
いや、内容以前の問題と言うべきか・・・

「で、話があんだろ?今度はあいつ、何したんだ?」

大抵は浮気疑惑。
まぁあいつの態度に問題があるんだが、やはり雪女ってのは情が深い分嫉妬深いんだな、と鴆はうんざりする。
あとは、度の過ぎたイタズラや、プレゼントなどの相談事というのもあった。

前に一度、流石にリクオを叱り飛ばした事があって、それ以来かなり踏み込んだ事まで話してくれるようになった。
それは自分を信頼してくれているという事なのだから、リクオの義兄弟としては喜ばしい事なのだが・・・
それが運の尽きだったと、鴆は今では後悔していた。

「それが聞いて下さい、鴆様。」

つららが身を乗り出し鴆の手を取って涙目で話し出す。
ああこれをリクオが見たら、それだけで殺されそうだと思いながら、鴆は早く終わらないかと適当に相槌を打ちながらつららの話を聞き続けた。

 


それからおおよそ10分。
ヒートアップしたつららが、日頃溜めこんでいる不満まで吐きだし始めていた。

「また新しい女妖怪に手を出したんですよ。体をしな垂させてもたれかかってきた相手の胸の谷間を見て鼻の下のばしちゃってホントにもう病気だと思いませんか?そういえば学校でも選り取り見取りで相変わらず家長と二人でいたし巻の胸に見惚れていたしそりゃあ私のはあそこまでありませんけどそれなりにはあるんですよ?ああでもそういえば凛子さんの胸にも見惚れてたんだから胸の大きい人なら見境ないのかしら。胸は無いけど陰陽師娘とも相変わらず文通しているし遠方と言えば遠野の淡島さんとだってくっつき過ぎだしまさか冷麗さんは無いと思うけどけっこう仲良いみたいだしもしかしたら同じ雪女だからっていうだけで手を出していたらどうしよう。この前なんて男の妖怪をタラシ込んでいたんですよ信じられます?もう私どうすればいいのか分かりません。ああでもどこかのトリとだってよく二人だけで一緒にいて私を除け者にしていますよね氷漬けにしてやろうかしら。ああもう何の話していたんでしたっけ訳わかんなくなっちゃいました。」

「・・・そうか。」

何かとんでもない事まで言われたような気がするが、マシンガンのように捲し立てられた言葉のほとんどは右から左である。
そもそもまともに聞いていては、こちらの身が持たない。
鴆は息をハァハァと切らせるつららをしっかり座らせ、まずはお茶を飲むように進める。

「お前も大変だな。俺の方からそれとなくリクオに言っといてやるよ。」
「は、はい!ありがとうございます!本当にいつも申し訳ありません。」

全くだ。
と言いたいところだが、それは心の中にしまっておくことにした。
下手な事を言えば、さらに数十分のマシンガントークを聞かされるのは目に見えている。
こういう時は、とにかく相手の話に合わせて良く聞く事が大切なのだと、今までの経験から骨身にしみていた。

 

その後、機嫌の良くなったつららが酒とつまみを用意してくれて、しばし晩酌を楽しんだ。
先ほどの剣幕はどこへやら。
こうしていると、淑やかに酌をしてくれる清楚な美女にしか見えない。
鴆もやはり男というものか、リクオと三人の時よりも、二人だけの時の方が酒が美味く感じてしまう。
もちろん義兄弟の女に手を出すつもりなど毛頭ない・・・というより、素振りを見せただけで恐ろしい事になりそうだと、考えただけで身震いするのだが、これぐらいの役得があってもいいだろうと、鴆はつららに見惚れながら思った。

 


そのうちリクオが帰ってくると、つららは嬉しそうに主を迎えに行き、やがてリクオが新しい酒とつまみを持って部屋へとやってきた。

「鴆・・・先につららと飲んでたか。」
「ああ、楽しませてもらったよ。俺をほっといてこんな遅くに出かけるお前が悪ぃんだぜ。」
「ちっ、分かってるよ。」

ドカッと自分の前に腰を下ろしたリクオを見て、鴆は冷や汗を掻き始めた。

つららが横に控えていない。
このパターンは、リクオが相談事を持ちかける時のものだ。それもつららの事で。

(同じ夜に2人ともかよ・・流石にキツイぜ)

さてどうしたものかと思案していると、鴆がいいアイデアを絞り出す前に、お決まりの文句をリクオが口にした。

「鴆、聞いてくれ。つららの事なんだがな・・・」

鴆は小さく溜息を吐くと、覚悟を決めてリクオの話を聞く事にした。

 

それからおよそ10分。
酒が入ったという事もあってか、ヒートアップしたリクオが、日頃溜めこんでいる不満まで吐き出し始めていた。

「氷麗の奴また学校の中一人で歩いてやがったと思ったら男と楽しそうに話をしていたんだぜ?いろんな男から言い寄られて島は相変わらず及川及川うるせぇし学校じゃ気が休まんねぇから行かせたくないんだが居なけりゃもっと心配なんだ。本家じゃ牛頭丸の野郎がちょっかいだしてくるし喧嘩するほどなんとやらって言う奴がいたがなんとやらってなんだよはっきり言えってんだふざけやがって。それに猩影だって俺に下手で従順なのが気持ち悪ぃあいつ牛頭丸の二の舞にならねぇように俺と仲良い振りして氷麗に近付いているんだぜそうだと思わねぇか?遠野の奴らも変な目でつららを見やがって淡島なんて体が女ってのを利用してべたべたつららの胸まで触ってりやがった俺だって滅多に触れねぇのに許さねぇ。アイツら絶対いつかまとめて締めてやる。ああでもどこかのトリもよくつららと二人きりで部屋にいるよな俺に話せねぇような事でもしてんのかよもしそうなら焼き鳥にしてやろうか。ああもう何の話だっけもう何だっていいやとにかくムカつくんだ。」

「・・・そうか。」

なんだかまたとんでもない事を言われたような気がしたが、鴆は気のせいだと思う事にした。
だいたい、これでもう二度目なのだ。まともに相手などしていられない。

「そんなに心配なら、さっさと公表して結婚でも婚約でもしちまえばいいんだ。」
「それができりゃあ苦労しねえよ。」
「ま、そりゃそうだな。俺からもその気になるよう、上手く言っとくよ。」
「いつも迷惑掛けてすまねぇな、鴆。」

ああ迷惑だ。
と言いたいところだが、そう言う訳にもいかない。

それに今回は酒があるのだ。
適当に相槌を打ちつつどんどん飲ましてしまえば、そのうち話がコロリと変わるか、寝ちまうだろう。
そう判断した鴆は、こういう事もあろうかと用意しておいた、深酒をする時の為の薬をリクオの目を盗んでさっと口の中へと放り込んだ。

(はぁ・・俺の体、いつまで持つかね。別の理由で早死ににしそうだぜ。)


鴆の苦難はまだまだ続きそうである。


end

 

 

突発的に湧いたリクつら痴話げんか(?)ネタです。
捉えようによっては、お互い自分の嫁(主)はモテモテだと自慢しているとも言えますね。

鴆はきっと二人の良き相談相手になるだろうなぁ、と思って何か書きたいと考えたら、真っ先に思い浮かんだのがこのネタです(笑)。
キャラ崩壊はもちろん、読みにくい文章で申し訳ありませんでした。
マシンガントークを表現する為に、あえて読点と改行を省略したため、あのような長セリフになってしまったんですよ。

ちなみに、つららが男子生徒と楽しそうに話をしていたのは、単なる社交辞令です。
リクオの円滑な学校生活の為にも必要だと学習したつららが、愛想良くかつしっかりと距離を置く為に見に付けた渡世術というやつですね(笑)。
高校では、つららも学校に席を置いてリクオのクラスメイトになっている、という裏設定もあります(^^)。


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