ある穏やかな晴れた日、奴良邸は厳かな雰囲気に包まれていた。
今日は珱姫の命日で、朝から総大将やリクオ、そして珱姫と面識のあった一ツ目などが、順に仏前に手を合わせていた。
その後の年寄りの昔話についていけるはずも無く、またそもそも入る気も無いリクオは、仏間からそそくさと退散すると、縁側でつららと共にのんびりとお茶を楽しむことにした。
そして今、暖かい日差しが刺し込む縁側で、リクオはつららが淹れたお茶とお茶菓子を楽しんでいる。
「そういえば、お婆ちゃんが亡くなった後、お父さんにとってつららのお母さんが母代りだったって聞いたけど、本当?」
「ええ、お母様から直接聞いた訳ではありませんが、皆からはそう聞いております。」
「ふーん、つららのお母さんがボクのお婆ちゃん代わりってことになるのか・・・そうなるとつららはボクにとって叔母さん?」
ぶーーー!
あまりの言葉に、つららは盛大にお茶を噴き出した。
そんなつららをリクオは面白そうにニコニコしながら眺めている。
「な、何てこと言うんですか!リクオ様!」
乙女に向かって!とつららは目を吊り上げリクオを睨みつける。
「うーん、たしかに若すぎるよね。あ、でも妖怪って見た目の年齢って当てにできないからな~。」
「リクオ様!!」
さらに詰め寄って来る氷麗に、リクオは『まぁまぁ』と両手の掌を向け宥めようとした。
「ははは、ごめんごめん。なんとなくふと思っちゃってさ。つい、ね。」
「もう!またイタズラですか!?
お茶をこぼしちゃったじゃないですか!」
ぷうっと頬を膨らませながも、それ以上文句を言う訳でもなく、つららは布巾を取り湯呑についたお茶を拭う。
「あー、でも従姉弟ならともかく、叔母じゃ駄目だよな~。」
「・・・何がです?」
もう一度お茶を淹れようと、急須を持ちお茶を注ぎながら、つららはリクオを見上げ首を傾げる。
「つららをお嫁さんに出来なくなるでしょ?」
がちゃーん!
盛大に前のめりになったつららが、そのまま湯呑セットをひっくり返した。
「ななななな、何を言っているんです!?」
顔を真っ赤にさせ慌てふためくつららとは対照的に、リクオは落ち着いた様子でお茶を一口すすると、のほほんと独り言のように呟いた。
「ん、ああ、そういえば『みたいなもの』だから関係ないか~。」
「いえ、だから先ほどから何を・・・ひゃあ!」
リクオは自分の湯呑を縁側に置くと、突然つららの腕を掴み自分の懐へと引き寄せた。
「リリリリ、リクオ様!?」
「ほら、つらら。着物にお茶が染み付いてる。」
恥ずかしさにリクオの胸を両手で押し抵抗していたつららだったが、リクオの視線を追って自分の着物を見てみれば、言われたとおり幾つものお茶の滴の跡がはっきりと残っていた。
「ああ~~~~!!もう!誰のせいですか!?」
リクオの懐から逃れようとする事も忘れ、つららは涙目になって緑色の斑点を手に取る。
その隙を逃すことなく、リクオはつららを抱きかかえると立ち上がった。
「リクオ様!?」
「うん、僕のせいだよね。
だからちゃーんと新しい着物を用意して、着替えさせてあげるから。」
「はい?」
リクオはニッコリと微笑むと、つららを抱きかかえたまま、スタスタと彼女の部屋に向かって歩き出す。
「あの、リクオ様?着付けは自分で出来ますから・・・って、それ以前にええと・・・。」
あまりの展開につららの思考は既に付いていけず、抵抗することも忘れ、目をぐるぐると回す。
「うん、知ってる。だからそっちは任せるよ。」
「へ?でも今着替えさせるって・・・」
「安心して。脱がすのは得意だから。」
笑顔のまま放たれたリクオの一言に、ようやくその意図を理解したつららの顔がサーーッと青くなり、そしてリクオがちゅっとつららの額に軽いキスをした途端、真っ赤に変わった。
「リクオ様!?まだ昼間ですよ!?」
「ん~~~、昼で無いと、夜のボクがしゃしゃり出てくる事があるからね~。」
「どちらも同じリクオ様でしょ!?」
「まぁそうなんだけどね~。・・・なんとなく?」
ニコニコと微笑みながらそう答えたリクオはつららの部屋へと滑り込むと、その昔つららが使っていた『絶対入ルナキケン』と『KEEP OUT』の張り紙を襖に張り付けた。
「リクオ様~~~~~~!!」
その後、リクオは約束(?)通り、つららの着替えを手伝ったそうな。
・・・2時間ほどかけて。
end
お婆ちゃんの命日に何やっているんですかリクオ様(笑)。
2連続で年齢ネタというのもどうかと思いましたが、けっこう楽しく書けました(^^)。
第百五十幕で雪麗さんが出てきて、他所様の感想サイトで見た『母代り』というキーワードが元になって、この話を思い付いたのですよ。
時期的には大学生ぐらいかな~、と思うのですが、なんか今のままの姿でも十分行けてしまいますね。
しかし、染みはすぐに取らないと残ってしまいますよ~。
もっとも別の染みまで付いげふんげふん・・・ここは健全サイトのつもりです。