ドタタタタタ・・・・
夜の奴良邸を、慌ただしく駆ける足音がする。
その騒音の主が誰か直ぐに気が付いたリクオは、その理由にもまた心当たりがあるのか、ニヤリと口元を緩ませると勉強の手を休め体の向きを変え、襖を開け放ち飛び込んで来るであろう人物を待ち構えた。
「リクオ様!大変です!!」
予想通り普段からは考えられない勢いでスパーンと襖を開け放ったつららが、やはり普段からは考えられない勢いでそのままズカズカとリクオの部屋に入り込むと、リクオに詰め寄るように手に持っていたソレを掲げ上げた。
「こ、こんな物が発売されるそうなんですよ!リクオ様、ご存知でしたか!?」
「ん?えーとつらら、それ、何?」
わざと判らないフリをして、興奮したつららとは対照的に、リクオは冷静に話しかける。
「抱き枕ですよ、抱き枕!それも私のこ、こんな、こんな姿がプリントされた抱き枕ですよ!?」
「どれどれ・・・うん、凄い恰好だね。」
抱き枕の表には、足元がはだけた格好で寝そべったつららが、まるで誘うような表情をしてこちらを見ているようだ。
そして裏には人間に化けたつららが、スカートが怪しげに捲れあがった恰好で、やはり悩ましげにこちらを見ているかのようである。
どちらも普段のつららからは考えられないような姿であるのは、言うまでもない。
「凄いなんてもんじゃありませんよ!前のクッションの時だって恥ずかしかったんですから!
それに私、こんな格好の写真なんて取られた覚えありませんよ!」
「まぁ、そりゃそうだろ。ボクが写真提供したんだし。」
「は?」
何か今とんでもない事を言ったような・・・とつららの思考が一瞬止まる。
そういえばリクオ様がやたらと冷静であるという事にようやく気が付いたつららが、さてはこれもまたイタズラなのかと全身をプルプルと震わせ始めた。
「まさかイタズラですか?」
「違うよ。ほら、3Dマウスパッドの件があったでしょ?
次は抱き枕だろうなと思って、先手を打ったんだ。」
「せ、先手をって・・・えぇ!?どうしてですか!?それにこんな写真どうやって撮ったんです!?」
つららの言葉にリクオはふぅ、と溜息をつく。
どうしてこの下僕は、自分が騙され商品にされ売られているのだという事に気がつかないのだろうかと、不安になってしまう。
自分がやらなければ、本当にこれと同じ格好をさせられていたかもしれないというのに。
さすがに表情までは違っていただろうが・・・
「いいか、つらら。これからボクの言う事、だまって良く聞くんだよ。」
「は、はい、リクオ様。」
リクオの説明を要約するとこうなる。
まずつららの寝顔の写真をリクオが撮る(この時点でつららは怒ったのだが、リクオの巧みな話術で見事にスルーされた)。
首から下は、つららと同じ身長の別人につららと同じ衣装を着させ、その写真を撮り鴉天狗がパソコンで合成する。
最初はこれで行くつもりだったのだが、リクオが寝顔を晒すのは面白く無いと、別のつららの顔写真を取り出して鴉天狗にCG加工させて、ふっくらさを強調する為に顔に丸みを帯びさせ、この手の商品の定番だからと艶っぽい表情にする。
そうして出来上がったのが、この抱き枕のプリントらしい。
「・・・ほとんど別人じゃないですか、それ。」
「それでいいんだよ。」
「へ?どうしてですか?」
リクオは横を向いてポリポリと頬を掻くと、ちらりとつららの目を覗き見る。
「だってつららはボク専用の抱き枕なんだし、例えニセモノでも似た代物が出回るなんて許せないだろ。」
「へぇっ!?リクオ様専用って!?」
リクオの言葉に顔を真っ赤にしたつららは、リクオの顔をまともに見れず枕を抱きかかえて自分の顔を隠した。
「それに第一・・・」
どこからともなく桜の匂いがしてきたたかと思うと、つららの腕が強引にぐいっと引っ張られる。
「り、リクオ様!?」
「ニセモノは抱いてりゃそのうちあったかくなっちまうが、本物はずっとヒンヤリしてて気持ち良いからな。
こんな風に。」
いつの間にか夜の姿に変身していたリクオが、つららを懐に引っ張りこむと、そのままギュッとつららを抱きしめた。
「ちょ、お、お放し下さい。今はそういう事をしている場合ではなくて、この抱き枕の事を・・・」
慌てて体を捩って懐から抜け出そうとする下僕をリクオは不満げに見下ろすと、片腕で力強く抱きしめて身動きが取れないようにし、空いた手でつららの顔を強引に自分の方に向けさせた。
「ああそうだな、抱き枕の事だったな。
なかなかいい出来だろ?体の方の身代わりは世の中の需要に合わせて手配したしな。」
「需要?なんですかそれ?」
「そりゃお前、こういうの買う奴ってな、大概片手サイズじゃ満足しねぇだろ?」
リクオがつららの目の前で手を大きく開くと、ワキワキと何かを掴むように動かした。
ピキッ
何か大きな音が立ち、つららの顔に青筋が立ったことに気が付いたリクオは、しまったとハッと息を呑む。
慌てて次の言葉を紡ぐよりも早く、つららの畏れが爆発した。
「か、か、か、片手サイズで悪かったですね!!
どうせ私には大人の色気なんて無いですよ!!」
ビュオッと猛吹雪が舞い、回避不能な至近距離で雪女の畏れをまともに食らったリクオは、翌朝つららの抱き枕を抱えたまま枕ごと凍りついた状態で、不機嫌なつららの代わりに起こしに来た首無に助けられたいう。
end
抱き枕事件勃発でございます(笑)。
他のサイト様でもきっとネタにしていると思いますが、ウチのサイトだとこういう話になってしまいました。
だってどう見てもニセモノにしか見えなかったもので、つい(笑)。
他所様のサイトでネタにした所がないか、これを掲載した後に探しに行くつもりです。
もっと甘いのにしても良かったのですが、それだと裏に突入しそうな勢いだったので諦めました。
一応健全サイトのつもりですから(^^)。
まぁ、リクオが完全に変態な時点で、健全というのもどうかと思いますが。
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