清明戦対策会議

新年もとうに迎え終わり、春の息吹が京の町にも感じられるようになったある日、花開院家のお堂を思わせるような広間に於いて、月例会議が開かれていた。
ゆらや竜二、秋房たちはもちろん、魔魅流、雅次、破戸、そして各分家の当主達が集まり、現時点での鍛錬や研究の成果を報告し合い、そして来るべき清明との決戦への備えの為、様々な意見を出し議論しているのだった。

 


「今回は、清明と対峙した時に遅れをとらない為に、新たに考えだした案があるのだが・・・。」
「ほう、さすがは竜二だな。どんな案だ?」

秋房は素直に感心し、竜二の言葉を待つ。
竜二は魔魅流に顎で合図をすると、魔魅流がホワイトボードに大きな紙を張った。

「まずは清明についてだが、前回の事を踏まえて・・」
「ちょっと待ってや、竜二兄ちゃん。」

竜二が説明を始めて直ぐに、ゆらが手を上げ強い口調で竜二の言葉を遮った。
その目は竜二を睨んでいるようにしか見えず、心なしか顔が赤い。

「なんだ、ゆら?」

口元を歪ませながら竜二が返事をしてきたことに、ゆらはムッとしてさらに語気を強める。

「『なんだ』とちゃうわ!なんやねんその絵!」
「ん?どこかおかしいか?ちゃ~んとあの時の清明の姿が描かれているだろ?」

魔魅流の広げた紙には、確かに弐條城での清明の姿が描かれている。
そう、あの時の清明の姿が、しっかりと正確に・・・

「なんでイラストなんに裸!?しかもそのモザイク生々しいわ!!」
「何を言っているんだゆら、次の戦いの時もこの姿である可能性は十分にある。
 もしそうなったときに慌てないようにしよう、というのが今回の趣旨だ。」

竜二の顔は明らかにゆらの反応を楽しんでいる時のそれで、実に嬉しそうな眼をしている。
さすがのゆらもその事に気が付き、ホワイトボードに駆けよってイラストを引き裂こうと身を乗り出したのだが、秋房の言葉に出鼻を挫かれてしまった。

「なるほど、予め心構えをしておけば、呑まれる事も無いという事だな。さすがは竜二だ。」
「騙されたらあかん!あかんで義房義兄ちゃん!」
「まぁゆらが照れるのは無理もない。我々の中では一番近くで凝視していたのだからな。
 ま、年頃というやつか。思い出してしまって恥ずかしいんだろ?」

厭らしくニヤリと笑う竜二の顔に、ゆらは顔を真っ赤にして叫び声をあげた。

「凝視しとったんはアイツの顔やろ!」
「何当たり前のこと言ってんだ、ゆら。
 あれほどの美丈夫なら、年頃の女の子なら照れても仕方が無いと思ったんだがなぁ。
 それとも他に何かあるのか?」
「ぐ・・・」

あのシーンでそれはあり得ないと思うのだが、竜二が言うと本当のことを言っているように聞こえてしまうから不思議なものだ。
それもまた竜二の陰陽師としての才能というものかもしれないが、ゆらにとっては実に迷惑な話だ。

「さっきから何を言っているんだゆら、これは理に適っている。
 だが竜二、イラストと実物ではインパクトが違うのではないか?」
「ま、雅次義兄ちゃんまで!って話進めんといて!」

このまま話しが進めばろくでも無い事になるのは間違いない。
そもそも心構えの問題なのだから、口頭で伝えれば済む話で、イラストなどの類を使う必要などないはずだ。

「ああ、そう言うだろうと思ってな、準備はしてある。おい、魔魅流、やれ。」
「わかった、竜二。」

竜二の合図とともに、魔魅流がいつも羽織っているロングコートをバサッと勢いよく脱いだ。

「む・・・。」
「ぶはっ!」
「へぇ~~~。」
ぎゃ~~~~~~~!!!何しとるん!魔魅流くん!!」

両手で顔を覆ったゆらの視線の先には、素っ裸になった魔魅流が恥ずがしがる様子もなく仁王立ちしていた。

「雅次、これが本番なら、お前畏れに呑まれているぞ。
 この程度の事でコーヒーを吹き出すんじゃない。」
「す、すまない竜二。」
「アハハ~~~、しょうがないよ。いきなりだったしさ。」

 

冷静な方がどうかしとるやろ!
とツッコミたいゆらではあったが、それをすれば今雅次の側に立っている魔魅流のアレを、まともに見てしまいかねない。

「どうしたゆら。そんな事では、出鼻で遅れを取るぞ。
 妖との戦いは機制を先ぜられれば負けだ。
 そんな事で奴に勝てると思っているのか?」
「あ、アホか!清明と魔魅流くんとはちゃうやろ!?」
「それもそうだな・・・破戸、お前は人間型のゴーレムも作れと聞いているが。」
「そりゃあもちろん、造れるけど?」

少しはまともな方向に話しが戻りそうだと、ゆらはホッと息を吐いたのだが、それは非常に甘い考えだったと、その後すぐに思い知らされた。

「清明にそっくりなゴーレムを作るんだ。もちろん裸で。」
「はぁ!?」
「あ、それなら模擬戦用のをもう作ってあるよ。」
「へぇ!?」
「ほう、それは話しが早いな。」
「アソコを取り付ければ直ぐに完成するから、今夜から特訓できると思うよ。」
「そいつは楽しみだ。」
「どこが!?」
「ああ、皆で使う為のと、ゆら専用のを用意しろよ。」
「なんで!?」
「そりゃあ、お前が一番驚いていたからな。
 お前にとっては辛いかもしれないが、これも清明に勝つためだ。
 お兄ちゃん、心を鬼にして特訓に付き合ってやるからな。」
「いらん!特訓も私専用のもいらんわ!」
「ゆら、竜二はお前の為を思って言っているんだよ。」
「そうだぞゆらよ。」
「違う!絶対違う!竜二兄ちゃんの策略やってこんなん!」

 

 

結局、分家当主達の「ゴーレムとはいえ裸の男が花開院家の中をうろつくのは好ましくない。」との意見から、清明ゴーレム(裸Ver.)の作成は中止されたという。


end

 

 

下ネタで本当に申し訳ありません。
最初はもっと凄いシーンがありましたが、さすがに度が過ぎるので削除しました。
いくらなんでも掲載できないな~、と思いましてね。

花開院家では、嬉々として悪巧みする竜二とその先兵魔魅流、竜二にいいように使われる秋房や雅次、そして私の中では天然の破戸に、唯一のツッコミ役&一番の犠牲者ゆらによる、愉快で楽しい花開院ライフが営まれているのだろうと、信じて疑いません(^^)。

 

 


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