夜祭

夜祭り

つらら「若!二人で夜祭りに行きましょう!」

このつららの一言で、リクオはつららと夜祭りに出かけることとなる。

今夜は地元の夜祭りがあり、つららが自分の着物の準備をしているのを見て、リクオは清継達が来て一緒に行くことになるだろうと思っていた。
が、つららは二人で行こうと思っていたらしい。

  人間の行事=清十字団と一緒に行動

という図式がいつの間にか自分の中で固着していた事に、リクオはショックを受ける。

『うう・・・すっかり清継くんに毒されてしまったみたいで、なんだか怖いよ。』

そう落ち込んでいる所に、つららの元気な声が聞こえてきた。

つらら「リクオ様、お待たせしました。さあ、行きましょう!」
リクオ「あ・・ああ、うん。行こうか。」
つらら「はい!」

 

人間の姿のリクオと、同じく人間の姿をしたつららが、二人仲良く着物を着て並んで歩いている。
リクオはありふれた紺の草模様の着物に対し、つららは濃いピンクの牡丹をあしらった華やかな着物。
つららの着物を着こなす様は、牡丹の名に恥じぬ美しさを持っていた。
もちろんリクオも、普段から着物を着て過ごしているだけあって、見事に着こなしている。
そんな二人は、夜祭りに来ていた人々の中で、かなり目立つ存在だった。

つらら「それでですね、リクオ様。青ったら・・・・」
リクオ「うん・・・そうだね・・・・うん。」

つららはリクオに常に話しかけ続けているが、リクオの方はどうにも上の空といった感じだ。
適当に相槌を打っているだけなのだが、『二人でデート』だと思って浮かれたつららは気付かない。
そんな二人に、そっと近づく影があった。

清継「おお、奴良くんに及川さんじゃないか。
   なんだ、やっぱり二人で先に来てたんだね!仲がいいのはいい事だ!」
島「お、及川さんの着物姿・・・。」

そこにやはり着物を着た清継と、いつもの変わらぬ島が現れる。
島は、着物姿のつららを見て喜ぶと同時に、リクオと一緒にいることにショックを受けるという器用な事をしている。

リクオ「あ、清継くん、島くん、こんばんは。」
つらら「清継くん達も、いつも一緒で仲がいいですね、ふふ。」
清継「ああ、ファミリーだからね!もちろん、他のメンバーもそこにいるよ!!」

げげ、とつららは二人に見えない角度で焦った顔をする。
この二人だけならともかく、他のメンバーまでいるとなると、一緒に行動せざるを得なくなるのではなかろうかと、心配になったからだ。
つららの心配を他所に、4人が姿を現す。

巻「よう、リクオ~~~。」
鳥居「やっほー。」
リクオ「あ、巻さん、鳥居さんこんばんは~。」
つらら「こ、こんばんは・・・。」
巻「げっ、及川さん、すごい恰好じゃないの!」
鳥居「ほんと、すっごい綺麗!」

本格的な着物姿のつららを見て、鳥居と巻が目を光らせながら騒ぎ始めた。
カナとゆらは、無関心というか、騒ぎの輪に入りたくないのか、リクオと挨拶をしていた。
着物の事を褒められるのは、つららとしては悪い気はしないのだが、やはりデートはここまでかとしょんぼりとなってしまう。

巻「ん?なんか元気ないねー。」
つらら「え?いや、そんなことは・・・」
鳥居「ははーん、さては奴良の奴、その着物のこと何も言ってないでしょ。」
つらら「ギクッ」

二人の鋭い指摘に、ギクリと体を強張らせるつらら。
鳥居と巻の二人は、互いの目を合わせるとキラーンと輝かせる。
二人は一斉にリクオに詰め寄った。

巻「奴良~~、お前ってほんと、女心が分かんないんだな。」
鳥居「他の事は気が利くのに、どうしてだろうね~~。」
リクオ「え?え?」
つらら「ちょ、ちょっと二人とも、別にそんなこと・・・」

慌てて止めようとしたつららを、こんどは鳥居と巻の二人がクワっと目を見開きながらつららに迫った。

巻「何いってんの!大事なことだよ!」
鳥居「『そんな事』じゃないでしょ!遠慮してどうすんの!」
つらら「は・・・ハゥワ・・・」

二人の勢いに圧倒され、つららはまともに言葉を発する事も出来ない。
それはもちろんリクオにも言える事で、どうこの場を切り抜けようかと焦っていた。

巻「さあ、言っちゃいなさいよ。『この着物姿はどう?』って。」
鳥居「奴良も、きちんと答えなさいよー。」

元々聞きたかった事でもある。
もはやつららには、二人に従うしか選択肢が無かった。

つらら「あ、あの・・・リクオくん、この着物、どう思いますか?」

照れながら上目遣いにこちらを見るつららの姿に、リクオの顔があっという間に真っ赤に染まっていく。

巻「ほら、ちゃんと答える!」
リクオ「え・・・えーと、その・・・と、とっても似合っていて・・・綺麗だよ、つらら。」
鳥居&巻「きゃーーーーーー!!」

真っ赤になるリクオとつららを肴に、鳥居と巻が歓声をあげ騒ぎ始めた。

巻「聞いた、夏実!?『綺麗だよ、つらら』だってさ!」
鳥居「うん!聞いた聞いた!こりゃこっちが思っていたより、進展してんじゃないの!?」
清継「ほう。」
島「がーーーーん。」
カナ「・・・・」
ゆら「夜店にはいつになったら行くんや・・・」

二人の騒ぎに、周りも注目し始める。
リクオは居ても立ってもいられなくなり、つららの手を握ると駆け出してしまった。

リクオ「ごめん、皆!もう帰る時間だから!また明日ね!!」
つらら「り、リクオ様?!」
清十字団「「「「「え?」」」」」
ゆら「なんや、もう帰んのか。」

着物が乱れないギリギリの速度で掛けていく二人を、清十字団一同(ゆら除く)はポカーンと見続けていた。

 

つらら「り、リクオ様っ。そろそろ止まって・・・止まって下さらないと・・・着物が・・・」

いくら着物に慣れているとはいえ、長い時間走れば当然着物は乱れる。
辛うじて乱れを最小限に止めていたが、そろそろ限界だ。

つらら「り、リクオ様!・・・きゃあ!」

突然リクオが立ち止まったために、つららは逆に前につんのめって転びそうになる。
そこをふわりとリクオが受け止めた。

つらら「リクオ様、突然立ち止まるなんて・・・ええっ!!」

いつの間にかリクオは、夜の姿に変化していた。
夜の姿になったリクオは、遠慮なくじろじろとつららを見る。

つらら「な、なんですかリクオ様。そんなにじろじろ見て。」

リクオは自分とつららを見比べ、ニヤリと笑いながらつららに話しかける。

リクオ「この先でやってんのは妖怪の夜祭りだ。
    妖怪らしい風情でいってみねえか?お前だけ人間の格好じゃ興ざめだ。」
つらら「くす・・・ならこれでどうです?」

つららはするりとリクオの腕から退くと、ぼわん・・・と本来の姿に戻る。
ただ、着物は先ほど着ていたものと同じで、柄は色が淡くなった寒牡丹。
それにリクオとお揃いの『畏れ』の羽織を羽織っている。

リクオ「・・・・」

リクオは呆けたように、つららの姿に見とれていた。
ただ、綺麗なだけではない。
つららの髪の色が、いつもと違うのだ。
それは白髪というよりは、青味がかった透明色。
良く見ると、つららの髪の毛一本一本が、ごく細の澄みきった氷のようになっている。
それが、夜祭りの景色と重なって、幻想的な魅力を醸し出していた。

つらら「どうですか、若?何も言ってくれないのですか?」

つららが艶やかに微笑む。
その様子に、リクオは喉をごくりと鳴らした。

リクオ「へ・・・最高じゃねえか。
    今夜はお前と二人で、とことん楽しもうぜ。」
つらら「・・・はい。」

 

この時、実はつららは少し期待していたのだが、リクオはまだ子供だったためか、文字通り夜祭りを楽しむだけで終わってしまった。
もちろんリクオに悪気は無く、本気でとことん楽しんだつもりだったのだが・・・
しばらくの間、つららの機嫌が微妙に悪くなった理由を、リクオが気付く事は無かった。

 

 


WJ8号の扉絵を見て思いついたネタを、どんどん膨らまして書いた話です。
最初は最後の方の変化の所と『つららの髪の毛一本一本が、ごく細の澄みきった氷のようになっている。』というシーンしか考えてなかったのですが・・・
気が付いたらけっこうなボリュームになっていました。
清十字団のキャラ達、描き方大丈夫でしたかね?

話の都合上、以前書いた『つららと呼び捨て』と『リクオ様と呼んでる』とは設定が異なっています。
この話では、人前では「リクオくん」と「及川さん」または「つららちゃん」のつもりで書きました。
実際の所、人前ではどう呼んでいるんですかね?
作中では「リクオくん」「リクオ様」の二通りなんですが、つららに関しては「つらら」しか無いんですよね(ひそひそ話で「雪女」ならありますが)。

そうそう、ネットで調べたのですが、牡丹の花ことばに「王者の風格」というものも入っていました。
王者って、リクオを差し置いて!とも思いましたが、だからこそ奥さんに合っているのかもw
ちなみに、寒牡丹は、たまたま写真で見た寒牡丹の色が淡かったので、作中でそう描いただけで、実際のところはよく知りません。
花言葉は「高貴」だそうです。
 

戻る