冬とは言っても、関東平野で雪が積もる事などそうある事ではない。
もしあったとすれば子どもたちは大はしゃぎし、大人たちは交通マヒと転倒の危機に悩まされる事だろう。
ここ最近も良く晴れた日が続いており、朝特有の冷え込みこそあれ、雪の積もる気配などどこにも無い、いつもの冬が訪れている。
だが、ここ浮世絵町の一角では、そんな常識などお構いなしだった。
「若、若。起きてください。」
「んー、なんだよ雪女~。」
まだ5歳のリクオにとって、早起きはあまり得意ではない。
昨日もイタズラの為に夜更かししていたのだから、猶更の事であった。
「ほら、庭をご覧になってください。すごいですよ~」
「んーー?」
眠たい目を擦りながら、リクオは開かれた障子の向こうに見える庭を見つめる。
そこは、一面の雪景色となっていた。
「うわー!!すごいや!!雪だよ、雪!!」
「くすくす。はい、リクオ様。」
リクオは、さきほどまでの眠気など一挙に吹き飛び、寝巻のまま庭へと駆け出す。
「うわっ!つめたい!!」
「若っ!霜焼になってしまいますよ!この深靴を履いて下さい!」
つららは慌ててリクオに駆け寄ると、深靴(雪国で使われていた冬用の草履)をリクオに履かせる。
「ねぇ、雪女。なにこれ?」
見慣れない履物に、リクオは首を傾げる。
「くすっ。こういう雪の日に履くための草履ですよ。
今日の為に、準備しておいたのです。」
「へぇ~~、雪女って、こんなものまでもっているなんて、すごいな~~~~。」
「さあ、これでもう大丈夫ですよ。一緒に何して遊びましょうか?」
「雪がっせん!!」
リクオの提案に、首無や青・黒、河童、それに納豆小僧や一つ目、小鬼までもが参加することになった。
「よーーーし!いくぞーーーー!!」
「ガハハハハ!若が相手とはいえ、手加減しませんぞ!!」
そう言いながらも、明らかに手加減している青田坊。
その青田坊の隣で、河童が雪合戦を楽しみながら、つららに話しかけていた。
「この雪、雪女がやっただろ。」
「あら、分かっちゃった?」
「とーぜん。だって池の方じゃ、氷も張って無いじゃん。」
「だって凍らせたら困るでしょ?」
「まあねー。」
つららもまた、手加減しながらリクオと雪合戦を楽しむ。
つららの手加減はまだ子どもには分かりにくい物であったが、さすがに青田坊の手加減は、幼いリクオにも分かってしまう。
「こらー!てかげんしちゃダメだろー!ほんきを出してよ!ほんきを!!」
こういうのは子どもならではの感覚というもので、本気を出せば敵うはずもないのに、本気を出してもらったと感じなければ不満にしか思わないのだから、厄介なものである。
だからと言って本気を出せばとんでもない事になると、皆なんとか『本気を出しているフリ』に苦心していた。
もっともこういう時には、遊びに夢中になって羽目を外してしまう者が、一人は入るものである。
「よ~し若!手加減しませんよ~~!」
そう言ったつららの一言に、リクオ側で参戦していた首無がギクリとする。
「ちょっと待てつらら!お前は少しぐらいじゃ駄目・・・」
「いきますよ~!え~~い!!」
つららの気合いと共に、大量の巨大雪玉が空中に現れ、リクオ達に降り注いだ。
「「「「ぎゃーーーーーーー!!」」」」
もちろんつららにとっては十分『手加減』したつもりなのだが、いかんせん雪の妖怪の行う雪合戦である。
多少の加減など、手加減に入らないのは当然と言えるだろう。
「若ーーーーーーー!!」
雪に埋もれたリクオを、青田坊を始め難を逃れた者たちが助けようと、慌てて駆け寄った。
「うわわ、雪女、何やってんだよ!」
「リクオ様~~~~~!!す、すみません~~~~!!」
その日、つららは首無たちにこってり絞られたが、その後も雪合戦は度々行われたという。
もちろん、つららはリクオ陣営であることを条件に。
当然、リクオ(つらら)側が常に圧勝でw
毛倡妓がいないのは、単にこういう遊びには参加しないんじゃないかなー、というのがありまして。
それと、つららが朝食当番で無い時は、毛倡妓が当番なのだろうと、勝手に思い込んでいますし。
これには続編があります。
順次UPしていきますね。