情愛に絡む糸

シュル・・・シュル・・・

暗闇の中、絹が擦れる音がする。

シュル・・・シュル・・・

「ねぇ、手を縛ってやる気なの?変わった趣味ねぇ。」

艶のある声が暗闇から聞こえてくる。

「ああ、一度はそういうのをやってみたいと思ってね。」

シュル・・・シュル・・・

音のする方から、若い男の声がした。
悪戯っぽく、それでいて妖艶な、若い男の声。

「ふふ・・・本当に初めて?慣れてる様にしか感じないわよ?」

シュル・・・シュル・・・

女の声は、別に嫌がっているものでもない。むしろ楽しんでいるようだ。

「初めてだよ。」
「嘘ばっかり。」
「嘘じゃないさ。君に対しては初めてなだけ。」

男の言葉に、女性はクスクスと声を抑えて笑いだす。
それにつられて、男もまたフフフと笑う。

シュル・・・シュル・・・

笑っていた女の顔が、突然強張り、周囲をキョロキョロと見回した。
女は今までとは異なる震える声で、男に質問する。

「ね、ねぇ。今頭の上から笑い声しなかった?」
「・・・・」

自分の脚の間を割り込むようにして、男の体がのしかかってきているのを女は感じていた。
にも関わらず、男の笑い声が、遠く離れた頭の上から聞こえたような気がしたのだ。
男は自分とさほど背が変わらぬはずなのに・・・

シュル・・・シュル・・・

「ふふ、気のせいだよ。」
「ひいっ」

今度は自分の耳元から男の声が聞こえた。
そんな所に男は居ないはずなのに。

シュル・・・シュル・・・

「ほら、雲に隠れていた月が姿を現す。良く見てごらん・・・」

女は何が起きているのか理解できない事に震えながらも、言われるがままに絹が擦れる音の方を向く。

「あ・・・あ・・・あぁあああ・・・」

そこには、組み紐を咥えた男の・・・これから情事を行うはずだった男の首が浮いていた。

シュル・・・シュル・・・

首は、女の体を縛るように糸を絡めさしている。

「ひ、ひいいいいいい!!」

女が叫び声を上げこの場から逃れようと体を動かした途端、女の体が宙に浮き・・・そして腕も足も首までも、あらぬ角度に折れ曲がった。

「ひぐぁっ。」

女のくぐもった最後の叫びが、その口から洩れた。

 

ああ・・・

 

女の体を・・・命を自分の掌の上で転ばす喜びが・・・




快楽へと昇華する瞬間が訪れる・・・




私はこの為なら・・・




・・・何だってしよう



 死体の転がる寝屋から出てきた男に、豊満な胸を着物の襟から半分ほどもさらけ出した妖艶な女が声かけた。

「どう?首無。楽しめた?」

首無と呼ばれた男は女に振り返り、ニタリと笑う。

「ああ、毛倡妓姐さん。姐さんから貰った髪で作ったこの紐は、最高の出来栄えだ。
 女の肌が、体温が、恐怖が、苦しみもだえる様が、この紐を通して感じるんだ・・・」

うっとりとした顔で自らの持つ紐に手を滑らせる首無。
そんな首無を毛倡妓は一瞥すると、首無の前を歩き始めた。

「さあ、今日はこれで終わりね。」
「ああ。」

毛倡妓に従うように、首無が後に続く。

「次は誰を殺らせてくれるんだい?」
「そうね、誰にしようかしら・・・」

前を進む毛倡妓の目が、スゥっと鋭く細められる。

「あの人に近付く女全てを・・・殺してやるわ。」
「ふふふ、最高の紐をくれ、最高の快楽を教えてくれたお礼だからね。何人でも殺してあげるよ。」
「自分の為に?」
「それはお互い様さ。」
「ふふふふ・・・」

毛倡妓と首無は、そのまま闇夜の中へと消えていった・・・

 


なんだこれは!!ホラーでR18!?
何考えてこんなもの作ったんですか私は。

えー、補足説明すると、江戸時代の話です。まだ毛倡妓と首無が出会ったばかりの頃という設定。
かなり病んでます。そしてもう一話続きます。
さあ、次に耐える事のできる人は、何人いるかな?(笑)

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