情愛に絡む糸・後編

数十年の時が流れ、首無は数多くの女性をくびり殺し、満足した日々を送っていた。
そんなある日、アジトで寛いでいた首無に、色鮮やかな黄色い着物に、漆黒の羽織り物を着た女性がしなだれていた。

「ねぇ・・・今度は誰を殺ったの?」
「・・・堀井長屋のお菊だったかな。」
「あなたのお気に入りの茶店の、看板娘ね。」

女性は不安そうな顔をしながら首無の顔を除くと、ふたたび首無の肩にもたれかかる。

「どうしたんだい?女郎蜘蛛。」
「ううん・・ただ、最近はあなたが良く知っている娘が多いなと思って・・・。」
「そうかな?」

考えてみれば、確かにここ数年の間に指名されたのは、知り合いの女ばかりだったという事に首無は気付く。
長い間、毛倡妓からの指名がほとんど無くなり、その代わりに首無は男を殺していた。
なんとなく、自分から進んで女を襲う気になれなかったからだ。
どうにも女を殺しても、あの快楽が何故か得られない為だった。

だが何故か、毛倡妓の嫉妬の炎に巻かれた女を殺したときだけは、あの時のように最高の快楽を味わう事が出来た。
だからこそ首無は、今だに毛倡妓の指名に従って、女を殺している。
最高の快楽を与えてくれるのは、毛倡妓だけなのだと首無は思っていた。
そしてその快楽を伴う殺人を、ここ数年再び毛倡妓から与えられるようになっていたのだ。

「ええ・・・そうよ。あなたは気が付いていないの?
 まるで阿片に取り憑かれたように、毛倡妓の指示に従って女を殺す事を楽しんでいる事を。
 何かおかしいわ。紐の材料なら私がいくらでも出すから、もう止めましょうよ。」
「ふふふ、ヤキモチかい?嬉しいな・・・。」
「茶化さないで。」
「大丈夫、君を捨てて毛倡妓に走るなんて事は無いよ。
 彼女には男が居るし、僕は君にぞっこんだ。」

首無はそう言うと同時に、女郎蜘蛛の唇を奪う。
なおも何かを言おうとしていた女郎蜘蛛だったが、湧きあがってくる情念に負け、そのまま首無との蜜月を味わい続けた。

そんな二人を、じっと影から見続ける者がいることにも気付かずに・・・

 

 

 
「姐さんがアジトに来るなんて珍しいね。」
「そうだったかしら。」

あれから数日後、毛倡妓が首無のアジトに現れた。
女郎蜘蛛は台所へと食事の支度に行っており、ここからは後ろ姿が時折見えるくらいだ。

「で、今度は誰なんだい?」

わくわくと期待に胸を膨らませ、首無が嬉しそうに毛倡妓に問いかける。
手には既に紐を持ち、次の獲物を待ち焦がれているようだ。

「・・・・」

毛倡妓は無言で台所の方を見る。

「ああ、もうすぐ女郎蜘蛛が食事を持ってきてくれるからね。
 姐さんも食べていきなよ。殺るのはその後にしようか。」

毛倡妓は無言のまま指をついと出すと、その指先を女郎蜘蛛に向けた。

「今度は・・・あれ。」
「え?・・・・」

首無は、しばらく毛倡妓とその指先にいる女郎蜘蛛を見比べる。
無言のまま指さし続ける毛倡妓、そして食事の盛りつけを行っている女郎蜘蛛。


首無は毛倡妓の顔を正面から見ると・・・・ニタリと笑った。
それは、今までに見せた中で、最高の笑みだった。

 

ああ・・・そうか

 


姐さんはやっと、教えてくれるんだね



 

最愛の(ひと)を殺めるという・・・



 

極上の快楽を

 

 

 

 

 

 

そうだ、後で取っておこう。
         ひと     はらわた
愛しい妖の 腸 を刳り抜いて。
                  おそれ
きっと最上の 紐 になる。

 

 

 

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
そしてお疲れさまでした。
正気は保てましたか?(笑)
なんでこんなネタ思いついたのか、その時から数日たった今となっては、当時の私の心理状態を知ることはできません(笑)。
ま、この手の18禁は苦手でも何でもなく、リクつらでも普通に書けますけどね。
ただ、二人には幸せにイチャついて欲しいので、書かないだけです(^^)。

そうそう、女郎蜘蛛の名前が個人名でなく妖怪名だったのは、妖怪名が出ないと文として成り立たないのと、個人名を出した後に妖怪名を出す為のシーンが上手く思いつかなかったからです。
首無の個人名がまだ出て無いんだし、つり合い取れますよね?

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