幼き日の出会い・後編

喫茶店に着いた総大将一行達であったが、店の中で一緒に席に着いたのは総大将と狒々様、そしてリクオと猩影だけだった。
二代目が死ぬという忌わしい事件以来、組織は弱体化を始め不穏な空気も漂っていたため、お伴達は皆護として配置に着いたのだ。

「しかし、物騒になったのう。こうして護衛をつけんと『かふぇ』も出来んとは。」
「ひゃっひゃっひゃっ。仕方がないわ、総大将。それよりも、この前『はま』の方で良い店を見つけての。」
「ほう。それはどんな・・・」

子供達の顔合わせと言いながら、二人をほったらかしに自分達の話で盛り上がる総大将と狒々様。
最初はパフェを美味しそうに食べていたリクオと猩影であったが、食べ終われば当然すぐに退屈し始めた。

「ねぇ、しょうえいくん。これで遊ばない?」

ニカッと笑ってリクオは水の入ったコップを指さす。

「これで?何するんだ?」
「えへへ~~~、ついてきて。あ、そっちのコップのも、ボクのとおなじようにしてもってきてね。」

そう言うとリクオは空になったパフェに水だけ注ぎ、氷だけが入ったコップを持ってテーブルの影に隠れながら動き始めた。
慌てて猩影がそれに続き、二人は首無が待機しているテーブルが良く見える位置まで来た。

「で、どうするんだ?」
「フフフ、ここで見ていて。」

リクオはそう言うと、こっそり首無の後ろのテーブルに忍び込む。
そして首無の隙を見計らって・・・リクオは首無の、首があるべき隙間に氷を流し込んだ。

「うひゃあ!!」

思わず首無が大きな声を上げる。
その後ろで、リクオがやった!とガッツポーズを取った。

「り、リクオ様!悪戯が過ぎますよ!」

首無の言葉を無視して、リクオはぴゅーっと猩影の居る場所とは反対の所まで逃げて、影に隠れた。

「ああ、もう。」

リクオを追いかけたいところだが、そうなればリクオが逃げ回って持ち場を長時間離れる事になるだろうし、総大将が『いいじゃないか』という表情でこちらを見ているのでは、もうどうしようもない。
追いかけて来るかな、と待ち構えていたリクオはがっかりした表情をすると、猩影が見える場所まで隠れながら移動する。
猩影がリクオに気が付くと、リクオは手で『今度はお前がやれ』と合図した。

「首無はもうダメだろうな・・・となるとやっぱり・・・。」

猩影は目標の人物の背後までこっそりと動くと、おもむろにマフラーをついと摘んで、グラスの中の氷を着物の隙間から背中に流し込んだ。
だが、猩影が期待していた叫び声はまったく上がらず、その人物がくるりと向きを変える。

「・・・何やっているの?猩影君。」
「え・・・なんで平気なんだ?」

驚く猩影に、雪女はクスリと笑ってしゃがむと、髪を束ねて横に垂らしマフラーを緩めるて後ろ襟を指で広げ、うなじの根元を猩影に見せる。

「私が雪女だって忘れてたの?ほら、私の体も同じぐらい冷たいから、水になっていた部分も凍って、張り付いているでしょ?」
「・・・・」

猩影はだまって雪女の背中の氷・・・ではなく、うなじやかろうじてそれに続いて見える背中を凝視していた。
それとは気付かない雪女は、そのまま猩影に再び微笑みかける。

「そうだ、面白い物見せてあげるわね・・・・えいっ。」

雪女がそう言うと同時に、氷が雪女の体の一部へと同化していった。

「面白いでしょー。前にリクオ様に見せたのだけど、けっこう喜んでくれたのよ。」
「あ、ああ・・・。」

猩影に雪女の言葉などもはや耳に入っておらず、顔をほのかに赤らめながらただ曖昧に頷いている。
そんな猩影の様子に雪女は『?』マークを頭に付けながらも、何故そのような状態になっているのかには気が付いていない。
雪女がさらに声を掛けようとした時、リクオが頬を膨らませながらやってきた。

「だめだよ、ゆきおんなにしちゃー。おまえがやるのはあっちだって。」

そう言いながらリクオは狒々組のお伴を指さす。

「やっぱりリクオ様の悪戯だったのですね。でも、そんな悪戯は私に通用しませんよ。」

雪女はふんっと誇らしげに胸を張る。

「知ってるよー、だからあっちだって言っただろ。・・・そうだ、ゆきおんなにはねー。」

リクオはそう言うと、突然ガシッと雪女のマフラーを掴んだ。

「な、何をなさるんですか?」

リクオはニヤリと笑うと、マフラーを思いっきり引っ張って駆け出した。

「きゃあああぁぁあああ~~~~!?」

ぐるぐるぐる~~~、と雪女の体がマフラーに合わせて回転する。

「アハハハハ!よいではないか!よいではないか!!」

笑いながらマフラーを奪ったリクオの叫びに、猩影が疑問を投げかける。

「何それ?」
「さあ?このまえじいちゃんの見ていた、テレビばんぐみでやってたんだ。」

そう答えると、リクオはそのまま逃げ始めた。

「こ、こらーーーー!マフラー返しなさーーーーい!!」

リクオを追いかけ始めた雪女の後姿・・・いや、正確には揺れる髪の隙間から時折見えるうなじを、猩影はじっと見続けていた。

 

 

 


前編と同じ理由で、つららの事は『雪女』と表記しています。
微妙にエロが入ってしまいました。少年には十分目の毒だと思うのですが、どうですかね?
最初の予定ではうなじのシーンは無かったのですが、気が付けばこうなりました。
もしかして私ってうなじフェチだったのかなぁ(笑)。
そうそう、猩影がつららを狙ったのは、『気になってしまうお姉さんにちょっかいかけたい。』という心理から、というつもりでいます。雪女には効かないとか、そういう冷静な判断力を発揮できる状態では無かった、と。

最後のマフラー取りですが、普通は首が締まります(笑)。なので良い子は絶対にやらないように。
まぁ、漫画的にはアリなシーンなので、その辺は気にしないで下さい。

後篇を書いている途中でふと気が付いて確認した所、どうもつらら達は猩影の人間バージョンの姿を知らなかったような感じなんですよね。
それにこの後、猩影が『つらら姐さん』と呼ぶほど二人が仲良くなったとしたら、もっとリクオとも会っているはずなんですよねぇ。
ま、その辺の描写は無いのでどうとでもなりそうですが、妖怪バージョンのままで話を作れたらもっとよかったかなぁ。

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