ホワイトデー

ここは浮世絵学校の教室。授業中であるにも関わらず、リクオは上の空で悩んでいた。

「うーん、どうしたものかなぁ・・・」

今日はバレンタインデーにも関わらず、リクオはお返しの用意が出来ていなかった。
最初は無難にお菓子と思ったのだが、それでは手作りのお返しとしてはどうだろうと思ってしまう。
かといって手作りで何かできるかと言うと、特に思い当たらない。

「はぁ・・・どうしよう。」

リクオが窓の外を見て溜息をついた所で、先生から声を掛けられた。

「おーい、奴良、何ボーッとしているんだ。体調でも悪いのか?」
「え?い、いえ、何でも無いです。」
「大丈夫か?あまり無理するんじゃないぞ。」
「は、はい。ありがとうございます。」

普段の行いのおかげで、ただ単にボーッとしていたとは思われなかったようだ。
そのことにリクオはほっとし、気持ちを切り替えて授業に集中することにした。

 

昼休み、いつものように屋上に行こうとしたリクオを島が呼び止めた。

「なあ、奴良。お前さっきボーッとしてただろ?」
「え、そ、そんなことないよ~~~。」

ギクっとしてリクオは焦って答えるが、島はさらに顔をニヤケさせ肩に腕を掛けてきた。

「誤魔化さなくてもいいだろ~~~。困った時は、俺や清継さんが相談に乗るって。それが友達ってもんだろ?」
「島君・・・」(ああ、これこそ人間的な学校生活だよね!)

リクオの目がキラキラと輝いて島を見る。

「で、悩みって何なんだ?」
「え~~と、流石にここじゃちょっと・・・」

リクオがキョロキョロと周囲を気にするのを見て、島もそりゃそうだと清十字団の部室(?)へ行こうと提案した。
そこで清十字団の部室へと向かおうとした所で、カナが声を掛けてきた。

「リクオ君、どこに行くの?」
「え、いや部室に・・・」
「ふーん。」

いつもは声を掛けられる事など無いのに、何故か今日に限って声を掛けてきた事に、逆にリクオは慌てる。
そんなリクオの様子を見た島が、ピーンと閃いたとばかりに顔をほころばせ、ニヤけた顔をしながらリクオの脇腹を肘でつつく。

「なんだ、家長へのホワイトデーのお返しの事で悩んでいたのか?」
「い、いやそんなんじゃないって。」
「あれってけっこう悩むよなー。まぁ、まずは本命チョコかどうかで選り別ける事かな。」

実のところ、意外ではあるがU-14日本代表である島は、けっこうモテる。
少なくとも清十字団の中では、ダントツのチョコレート獲得数を誇っていた。
もっとも彼にとっての本命からは義理チョコすら無かったのだから、他人から見れば贅沢以外の何物でもないが、不本意なバレンタインデーを過ごした事になる。
その意中の人であるつららとリクオの間で起きた、教室でのバレンタイン騒動の事を島は知っているはずなのだが、彼の脳内では『あってはならない事』として記憶から消されていた。

「う・・・でも凝ったのを準備する事が出来なくて・・・」
「なんだ、本命だったのか?やるなぁ、奴良。」
「え?いや、別にそんなつもりじゃ・・・」

二人のやり取りをじっと見ていたカナが、慌てて否定する。
確かにそれなりに良い物を用意はしたが、別に手作りでも何でも無く、お店で買ってきたものだからだ。
リクオがそれを『本命チョコ』だと認識したのだ、と思ったカナが、顔を赤らめ照れながら手をぶんぶんと振る。
彼女もまた、リクオとつららのバレンタイン騒動を知らない一人だった。
カナの友人たちが気を使って教えなかったのだが、それが裏目に出た形になってしまっている。

「いや、だから違うんだってば!ぼ、ぼくお昼食べに行くね!」
「あ、おい奴良!?」
「リクオ君!」
「あ・・・」

このままではどうなるか分かったものではないと、リクオはその場から逃げ出した。
カナと島は顔を合わせると、ヤレヤレ仕方がないな、と互いに肩を竦め、それぞれ自分の席へと戻っていった。

 

 

 

 

なんだか長くなったのと、今日中に仕上げる自信が無いので、前後編に分けて掲載しました。
最近多いですね、前後編に分けるの。
これでも頑張ったんですよ。ただ今日がホワイトデーだと気が付いたのが遅かっただけでして・・・

なんだかカナが可哀そうな話になりそうでしたが、後編では全く出てきません。
この状態で放置と言うのも何ですが、あくまでリクつらの話なので、ここでカナの出番は打ち切りになってしまうんですよね。
話としては、「バレンタイン騒動」の続きとなっています。今年の3月14日は日曜日ですが、9巻ではバレンタインデーに学校があったので、ホワイトデーも学校のある日と設定しています。

戻る その2