ここ最近の無理がたたったのか、久しぶりに熱を出して学校を休んでしまったリクオだったが、夜になると起き上がれるぐらいには回復していた。
もっともつららは「治りかけが大事なのです!無理はいけません!」と自由にさせてくれない。
今もリクオが抜け出さないよう、つららは布団の脇で控えていた。
「つらら~。寝過ぎるのも体に良くないって言うだろ?ほら、明日の準備もあるし。」
「もう大丈夫だと言って皆と一緒にお食事されて、帰りがけに足元がふらついたのは何処の誰ですか?
それに明日は土曜日です。学校はありませんよ。」
「あ、あれはその・・・寝過ぎて体のバランス感覚がおかしくなっていたんだよ。ね、だからつらら・・」
「駄目です。」
ぴしゃりと言い放つつららに、どう頑張っても説得が通用しない。
まだ頭が少しぼやけているからな~、とリクオは思ったのだが、もちろんそんなつららを勢い付かせるような事は言えるわけがない。
しかし退屈極まりないのもまた事実で、リクオはとりあえず頭まで布団を被り、ふて寝してしまったように見せかける事にした。
運が良ければ、そのうちつららも退屈して出て行くかもしれない・・・と淡い期待をこめて。
「・・・・・」
1分・・3分・・・もう10分は経っただろうか?それでもつららの気配が消える事が無い。
つららはリクオの睡眠の妨げにならないよう気を使っているのだから、部屋の中の整頓などの家事をするはずもなく、リクオはどうしてじっとしていられるのかが不思議になってきた。
そこでリクオは布団の中で寝返りをうつフリをして体勢を整えてから、気付かれないよう腕で布団に隙間をちょっとだけ開け、つららが何をしているのか、確認しようとする。
(同じ位置に居るよね。ん?膝の上に何か糸があるような・・・何だろう?もう少し視界を広げないと・・・)
「リクオ様、寝たふりですか?女性の足元をそうやって覗き見るのは、あまりいい趣味とは言えませんよ。」
「げ・・・」
ばれた!とリクオは慌てて手を引っ込める。
そんなリクオの様子を見て、つららはクスクスと声を抑えながら笑い始めた。
「なんだか小さな頃のリクオ様を思い出しますね。昔もそうやって覗き見してましたよ。」
「別に覗き見していたわけじゃねぇぞ。」
「リクオ様!?」
ガバッと布団を跳ね上げて起き上がったリクオの姿は、夜のものへと変化していた。
一瞬びっくりしたつららではあったが、それでもリクオを寝かしつけようとする態度に変わりはない。
「姿を変えたからって、起きていい理由にはなりませんよ。」
「まったく、頑固だな。」
「はい。」
ニコニコ笑いながら答えるつららに、リクオはどうしたものかと頬杖をついてぶすっとした顔をする。
そんな様子もつららにとっては面白いようで、クスクスと笑いながら、手に持っていた編物を再開し始めた。
「なんだ、さっき見えたのはそれだったのか。」
「やっぱり覗き見していたのですね。」
変わらずクスクスと笑いながら、つららがリクオに答える。
「あー、いや、違うぞ。空気がこもっていたから、新鮮な空気を吸おうとしていただけだ。」
「はいはい、解りました。」
「お前、俺を子供扱いしていないか?」
つららの返答に、少しばかりむっとしてリクオが抗議する。
「あ、いえ済みません。あまりにもリクオ様のなさり様が昔にそっくりだったので、つい。」
「ふ~~~ん。」
ガキみたいなつまらない言い訳をしてしまったのも事実だし、別にそれほど腹を立てる事でもない。
そうリクオは思ったのだが、少しばかり仕返しをしたくなってきた。
「・・・なぁ、つらら。」
「起きるのは駄目ですよ。」
「そうじゃねぇよ。」
「では何か御用ですか?」
「ああ。さっきので思い出したんだが、どうせなら昔のように寝かしつけてくれねぇか?」
「昔のように?」
一体何のことだろう?とつららは首をかしげる。
そんなつららの顔を見てリクオはニヤリと笑うと、つららの手を取って自分の方に引っ張り寄せた。
「リクオ様!?きゃあ!?」
「だから、昔やってくれただろ?こうやって添い寝してくれって言ってるんだ。
確か朝まで付き合ってくれたよな。」
そう言いながら、リクオは強引につららと共に布団に倒れ込む。
「ちょ、ちょっと待って下さい。もう子供じゃないでしょ?」
「確か妖怪は12歳まで子供だよな。」
「そういう事じゃなくて・・・」
「添い寝してくれれば、すぐに眠れると思うんだがなぁ・・・」
恥ずかしさのあまりリクオから逃れようとジタバタしていたつららであったが、リクオの力には敵わないとついに諦める。
「解りました!添い寝しますから!添い寝しますから、そんな強く握らないで下さい!」
「お、やっとその気になったか。」
つららの言葉にリクオはニヤリと笑うと、つららを開放する。
つららはリクオの腕からするりと抜け、布団から体を起して『どろん』と人間の姿へと変化した。
「・・・つらら、何で制服姿なんだ?」
リクオが驚くのも無理はない。人間は人間でも、つららの姿は浮世絵中学校に入りこむときのものだからだ。
「ああ、着替える前に元の姿に戻っていたからですね。」
「そういうものなのか・・・たしかつららは人間の時も、寝巻は着物だったよな。」
「はい。着替えてきますので、大人しく待っていてくださいね。でないと添い寝しませんよ。」
「ああ、分かってる。」
つららは少し頬を膨らましながらそう言うと、自分の部屋へと戻って行った。
「うーん、添い寝もいいが、あのままもうちょっと抱き寄せていたかったな・・・」
つららが去って行った方を見ながら、そうリクオは呟いたが、それは誰の耳にも届く事無く消えていった。
一度に掲載するかどうかで悩んだのですが、作成ツールの都合上、文量が多いまま掲載すると不具合が起きやすい事を思い出して、2部に分けました。最近はほんと、長くなる傾向がありますね。
あと、最後の方をちょこっと手直ししました。
服装に関してですが、最初は変化した時に好きな衣装に変えられるのかな~、とも思いましたが、それだと自分としては楽しくないので、基本的に化ける前の衣装は元に戻ったら同じ衣装に戻る、人間に化けた時の衣装も妖怪の姿に戻った時に来ていた服が、再び化けた時にそのまま継続される、と解釈しております。
つららが人間に変化して添い寝する事に関してですが、私は『雪女は人間に化ければ人間社会で普通に生活できる』というシーンのある昔話を聞いた覚えがあるので、人間に化ければ体温も人間に近くなる(希望としては、冷え性と勘違いされるような体温で)、という設定で書いています。
つららの体表温度は氷と同じらしいので、添い寝なんかしたら悪化を通り越して死んでしまいそうだよな~、と思ったので。
この事に関する説明文も当初は文中に入れていたのですが、あまりにも説明臭かったので、後書きに書かせてもらう事にしました。
正直なところ、他所様のサイトで見たように雪女のままでリクオと一緒に寝過ごしたりした方がずっと萌えるのですが、うちのサイトではこの設定で行きますので、よろしくお願いします。