「・・・・」
「・・・・」
帰り道の間もつららは黙ったままで、リクオもまた話しかけ辛い雰囲気に呑まれてしまい、何も話せないでいる。
しかもつららは終始俯き加減で、リクオからは顔を見る事も出来ない。
奴良邸が見えてきた所で、『このままじゃいけない』とリクオは意を決しどうしてこうななったのか、つららに問い質す事にした。
「ねぇつらら。どうして急に機嫌が悪くなったの?」
「別に悪くありません。」
「じゃあ何で黙っているのさ。」
「話をする気分ではないからです。」
「それって機嫌が悪いってことじゃないの?」
「違います。」
「ねぇ、何か気に障る事したんなら言ってよ。これじゃあ謝る事も出来ないじゃないか。」
つららが急にピタリと歩みを止めると、顔を上げてリクオと向かい合う。
その目は涙を堪え、今にも溢れそうだった。
「つらら!?」
「謝るぐらいなら、どうして私に家長へのお返しを選ばせたのです!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、どうしてそうなるのさ。」
「聞いていたんですよ!クラスメイトと家長へのお返しをどうするか悩んでいると話されていた事を!」
「それは違うって!聞いてよつらら!」
「私がどんな気持ちになったか、リクオ様にはお解りになりませんか!?」
「だから誤解だって!そんなつもりで選んでもらったんじゃ・・・!!」
言い争う事でついに感情が爆発したのか、つららの目から涙が溢れだす。
それを見てリクオが息を呑むと同時に、つららはくるりと踵を返して駆け出した。
「待ってよつらら!」
慌ててリクオも駆け出し、つららが奴良邸の門を開けかけた所で、つららを全身で抱き止める。
「は、放して下さい!」
「嫌だ!放さない!」
「私など、気に掛ける必要無いでしょ!」
「そんな訳無いだろ!ボクが誰を一番気にしているか知らない癖に!」
「家長でしょう!?」
「違う!つららだ!」
「!!」
リクオの叫び声に、拘束を解こうと暴れていたつららの体から勢いが失せ、やがて完全に抵抗を止めた。
それでもつららはリクオの顔を見ようとはせず、そのままの体勢から動こうとはしない。
「本当ですか?」
「ああ、本当。」
「その場しのぎの嘘ではなくて?」
「そんな風に聞こえた?」
リクオの言葉に、つららは首を横に振る。
リクオが生まれた時から仕えていたのだ。嘘かどうかぐらいは判る。
「では、もう一度おっしゃって下さい。」
「・・・ボクが一番気にしているのは、つららだ。つららの事が一番好きだ。」
「・・・リクオ様。」
そう言ってつららは体の向きを変え、リクオと向き合う。
ふとリクオが改めてつららの顔を見ると、そこには涙の跡がくっきりと残っており、それを見たリクオは胸が締め付けられるような気分になった。
「わた・・」
「ごめん、つらら。ボクがはっきり言わないから、悲しい思いをさせちゃって。」
つららが先に何かを言おうとしたのだが、リクオの慌てるような早口での謝罪に遮られてしまう。
その事につららは、首を横に振りながらリクオには分からない程度に溜息を吐き、そしてリクオに応える。
「いいえ、私も勝手な勘違いをしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「謝る事無いって・・・・あ、そうだ!」
そういうとリクオはつららの体を放し、家とは逆の方へ駆けだした。
「リクオ様!?何処に行かれるのですか!?」
「つらら!先に家に入ってて!その顔じゃあ街には行けないだろ!?」
「で、でも!」
「いいから、ボクが帰ってくるのを待っててよ!分かった!?」
つららの返事を聞くよりも早く、リクオは姿を消してしまう。
そんなリクオをポカーンと見ていたつららだったが、やがてクスリと笑うと、もはやそこには居ないリクオに話しかけるように、ぽつりと呟いた。
「私もお慕いしております、リクオ様。」
それから数十分後、走って戻ってきたリクオが、つららに例のプレゼントを手渡した。
訝しむつららに早く開けてとせがむリクオ。
何だろうと開けてみると、そこにはつららが指定したものとは違うアクセサリーが入っていた。
「わああ・・・素敵なかんざしですね。
これは・・・『あらせいとう』?」
「え?ストックって名前だって聞いたけど?」
「ああ、それは洋名です。和名では『あらせいとう』と言うのですよ。」
「ふ~~ん。」
八重咲きの薄いピンク色のあらせいとうを模した可愛らしいかんざしに、つららは目を輝かせる。
「どうです?似合いますか?」
「・・・うん、とっても良く似合うよ。」
つららはさっそく髪に刺して、リクオによく見てもらおうと顔の向きをくるくると変えた。
「そうそう、知ってる?スト・・・『あらせいとう』の花言葉。」
「くすくす・・・何ですか?」
これは知ってるな、とリクオは直感したが、それでもあえて自分の口から言う事にした。
「それはね・・・」
そう、自分の口から言わなければ意味がない。
自分の意思で選んだのだと示すために。
「愛の絆」
話としてはかなり甘く終わる事が出来ました。話としてはありがちなパターンでしたが、大満足です。
リクオがつららの涙の跡を見て謝るシーンですが、最初はここにキスシーンを入れる予定でした。
が、このサイトの昼リクは恋愛沙汰には鈍い(空気が読めない)、という設定があるせいか、自然とそのチャンスを棒に振ってしまう行動を描いてしまい、面白かったのでそのままにしました(笑)。
あ、夜リクは逆に積極的という設定ですがね。
アクセサリーの花の選択は誕生日で決めました。
とは言ってもつららの誕生日は不明なので、雪女だから大寒の日と勝手に決めて1月20日頃(年によって変わることがある)。ここは基本である20日で固定。
カナの誕生日は6月23日と公式発表されています。
紫露草は6月23日、つまりのカナの誕生花です。
花言葉は『快活』。素直じゃない所もあるけれど、明るいカナに似合ってますね(^^)。
理科の教材に使われる事も多い、けっこうポピュラーな花ですよ。
どんなアクセサリーにでもなりそうなのですが、やはり髪留めかなと思い決定しました。
1月20日の誕生花はストック(あらせいとう)でして、八重咲き(原種は一重)の花で茎がしっかりしている、生け花に良く好まれる花です。
冬から春にかけて咲く花で、色の種類が豊富です。
最初は白にしたかったのですが、白だけ誕生花の日が違っていた(12月21日)ので、断念しました。
まぁ、白のアクセサリーとして売っているとは思えない、というのもありましたがね。
どんなアクセサリーにするか悩みましたが、形状はかんざしにぴったりだったので、そのままかんざしにしてみました。