ホワイトデー3

放課後、リクオは用事ついでにカナに『今日は清十字団を休む』と言伝を頼むと、つららと一緒に学校を後にした。
一体どこに行くのだろうとつららは思っていたが、どんどん先に進むリクオについて行くので精一杯だ。

「ねぇ、つらら。」
「はい、リクオ様。」

つららの様子に気が付いたのか、リクオが幾分か歩く速度を落とし、つららに歩幅を合わせてから話を始める。

「今日はね、ホワイトデーのお返しにと言うか、その・・・」
「え?何か用意してくれたのですか?」

つららの言葉にリクオは慌てて首を振る。

「いや、違うんだ。情けない話だけど、いい物が用意できなかったから、お詫びにここで遊ぶ間、いつもと逆の立場になってみようかなって。」
「どういう事です?」

何が言いたいのか意味がよく解らなかったつららが、首をひねりながら続きを促す。

「んーと、つまりつららがボクに命令して、ボクがその通りに行動するってこと。」
「ええっ!?そ、そんなのダメですよ!」
「一緒にショッピングしたり、何か食べたり、全部つららが決めるんだ。
 つららの好きな事していいよ、ボクがつららの後について行くから。」
「ですから、そんな畏れ多い事なんて出来るはずありません!」

ふと気が付くと、いつの間にか二人は浮世絵町商店街の入口まで来ていた。

「あ、でもあまりお金のかかる事はしないで欲しいかな・・・ハハ。」
「ですからっ!」

リクオは「情けないなー」、と呟きながら苦笑いをする。
が、つららとしてはそれよりも、リクオのとんでもない提案にどう対処したものかと、パニック状態になりかけていた。

「ね、こんなのがホワイトデーのお返しなんて嫌かもしれないけど、こういうのも良いんじゃないかな。」
「嫌とか、そういう問題ではありません。そんな分をわきまえぬ様な事・・・」
「ほら、上に立つ者は、下の者達の気持ちが解らなくちゃいけないっていうし、その勉強にもなるしさ、ね?協力してよ。」
「うぅ・・・・」

そう言ってリクオは両手を合わせてつららにお願いと頭を下げる。
なんだか問題をすり替えられた気もしたが、もっともらしい理由を付けられ頭まで下げられては、断わりようがない。

「判りました。でも言葉遣いまでは変えませんよ。」
「うん、それでもいいよ、ありがとうつらら。
 ・・・で、何をする?」
「え、ええと・・・」

 

最初のうちは自分で何をするのかを決める事に戸惑っていたつららだったが、それは『リクオが居る時は常にリクオ優先』という考えが頭にこびり付いていたからであって、慣れてしまえば元々行動派のつららである。
あっという間に自分の好きなように様々な店を歩きまわり始めた。

「リクオ様、ほら、今度はあれあれ。」
「うん、ちょ、ちょっと待ってつらら。」

予想以上に動き回るつららに、リクオは振り回されすでにバテ気味だ。
まずは、いくつかの洋服屋で様々な洋服や小物を物色しリクオの顔を青ざめさせ(でも結局何も買わなかった)、CDショップで視聴機のイヤホンを片方ずつ付けて同じ音楽を聴き、本屋の前で立ち止まったリクオの耳を引っ張ってお詫びにとクレープを一緒に食べるよう要求する。
最初の遠慮は何処へやら、今やすっかりリクオを尻に敷いているかのような振る舞いだ。
それでも心底楽しそうに笑っているつららを見ると、リクオもまた楽しくなってもっと色々言って欲しくなるのだから仕方がない。

「わあ・・・素敵・・・・」

今度はアクセサリーショップに入り、様々な飾り物につららが見惚れている。
リクオはつららに気付かれないよう財布の中身を確認し、それからつららの肩越しに何を見ているのかと覗き込んだ。

「ふーん、そういうのが欲しいの?」
「え!?いえ、そ、そんなことはありませんよ!?」

とは言っても先ほどの様子はどう見ても物欲しげで、やっぱり洋服を見ていた時も、自分の懐を心配して遠慮していたんだな、とリクオは思った。

(これぐらいなら、大丈夫そうだな)

「ねぇ、つらら。買いたいものがあれば、遠慮なく言っていいよ。」
「いえそんな。別に遠慮などしておりません。」
「ん~、ボクとしては、女の子がどういうものが欲しいかよく解らないから、つららに選んでもらった方が良かったのになぁ。」

リクオとしては、最後の締めくくりとしてプレゼントをしたかった訳で、これは絶好のチャンスだと提案したつもりだった。
だが、何故かつららの笑顔が突然無くなり、リクオの視線を避けるように目を伏せてしまった。

「どうしたのつらら?」
「あ、いえ、何でもありません。」

そう言いながらも、明らかに先ほどとは打って変わって沈みこんだ雰囲気を漂わせるつららに、リクオは戸惑うばかりだ。

「どれが良いでしょうか・・・そう、これなどどうです?」
「え?う、うん。」

つららが指差したのは、紫露草の形をあしらった可愛らしい髪留め。
明るい紫色をしたそのアクセサリーは、その形もあって小さながも華やかさを持っていた。
でも、何かつららとはあまり合っていないような気がする、とリクオは感じる。
そもそも紫露草は晩春から秋にかけての花。つららとは真逆の季節の花だ。

「ねぇつらら。本当にこれでいいの?」
「はい・・・よく似合うと思います。」
「・・・?じゃあこれ買うね。」

何かつららの言い方に違和感を感じたが、リクオは店員を呼ぶとそのアクセサリーを買った。
もちろんプレゼント用に包んでもらって。

「ねえ、つらら。これ・・・」
「リクオ様、もう遅くなりましたし、そろそろ帰りましょうか。」
「え?あ、そうだね、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと烏天狗に説教されちゃうね。」
「そうですね。」

リクオは直ぐにつららに渡そうとしたのだが、機制を先されてしまいタイミングを失う。
相変わらず沈んだ様子のつららに、少しおちゃらけた感じで烏天狗の事を話題に出したのだが、つららは少しも笑わない。
いつもなら笑いながら返事をしてくれそうなものなのに・・・とリクオは不安を覚え始めた。

 

 

 

 

 


話が思い付いて一気に書いたら、気が付けば普段の倍量になっていました。これでも省略した部分があるのですが(デートの具体的な内容描写とか)・・・。
筆が一気に進んだ理由は、単にWJ15号の表紙の夜リクの着物柄について考えていた時、この話のプレゼントに『花言葉』を活用しようと思って検索したら、創作意欲を掻き立てるすばらしいモノにめぐり合いまして。気が付けば書きなぐっていましたね(笑)。
今回はホワイトデーのお返しが高くついたのに、暗~~い状態で終わってしまいました。
やきもきしながら次回をお待ち下さい(^^)。

そうそう、リクオがそもそも花の名前や咲く季節を知っているのかどうか非常に疑問ですが、アクセサリーの横にちょっとした説明が書いてあったのだと思って下さい。

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