言葉遊び

奴良邸には花を咲かす様々な樹木がある。
桜の季節が終えると藤の季節が巡り、やがて藤が色あせる頃にはツツジが満開を迎える事だろう。
宴会好きの奴良組の皆にとって、酒の肴に欠く事が無いから困りもの。
楽しいのはいいんだけど、こうも多いとねぇ・・・。

リクオ様もそんな一人。まだお若いのだから、お酒を召し上がる回数を、もう少し控えて頂けないかしら。
若に『二人で飲もう』って頼まれると、断れない私も悪いのだけれども・・・

気が付けば、花見酒を始めてもう一時間以上経っている。
少しずつ飲んでいたから大した量ではないだろうけど、リクオ様もすっかり出来上がっているわね。
さあ、最後の一滴が盃へと注がれた。そろそろお開きしないと。

「ん~~~~、ちょっと・・・ヒック・・・退屈になってきたな。」
「では、そろそろ花見を終えて、お休みなさいますか?」

渡りに船とはこのことね。ささ、もうお休みになられた方がいいですよ?

「よし、何かゲームをしよう。」
「ゲームですか?」
「あぁ~あ、しりとりでもしようじゃねえか。」
「はあ・・・」

リクオ様の言葉に、私は思わず呆れた顔をしてしまう。
やっぱり、もうかなり酔っているんじゃ・・・

「最初は『つらら』の『ら』からだ。ほれ、つららからだぜ。」
「は、はい。それでは・・・」

この様子だと、すぐに終わりそうだから良いわよね?
そうだ、どうせならもう一つ遊びを加えてしまおう。
リクオ様、私の言葉の意味、気付く事が出来ますか?

「・・・『ラナンキュラス』でどうでしょうか。」
「なんだそれ?」

やっぱり知りませんよね。ふふ、これは私だけの楽しみになりそう。

「もちろん花ですよ。花金鳳花(ハナキンポウゲ)と言った方が分かるかもしれませんね。」

花金鳳花の花言葉は『あなたは魅力に満ちている』。まさにリクオ様の事です。

「いンや、分かんね。」
「もう!」

そこはもう少し上手く言ってくれればいいのに。
ああ、そういえば『移り気』とい意味もありましたね。
気を付けて下さいよ?私は嫉妬深いのですから。

「じゃあ俺の番だな。」

突然、リクオ様が顔を近づけてくる。ああ、これは悪戯を思い付いた時の目だ。

「『ストック』。」

思い起こすホワイトデーの出来事。
あの時、リクオ様が自らの意思で選んだストックの花言葉は『愛の絆』。
私の顔が、真っ赤に染まっていくのが自分でも分かる。

「さあ、今度はつららの番だぜ?」
「は、はい。」

動転してすぐに言葉が思い付かない。どうしよう。

「そうだな、ここはいっその事、花縛りで~いくか。」

え・・・?
まさか、私の遊びに気が付いた?

「花の名前だけ・・・ですか?宜しいのですか、リクオ様。」

咄嗟に出た言葉は、自分の心を落ち着かせるためと、リクオ様の真意を知りたかったから。

「んあ、ああ。一度言った言は返せねぇ、からな。」

こんな時は、リクオ様の考えている事が何となくわかる事が恨めしい。
・・・ああ、そうですか、ただの思い付きですか。

「それでは・・・」

それはそれ、おかげで冷静さを取り戻した私は、自分の遊びを再開する。
思いついた言葉に、つい恥ずかしさを覚えてしまった。

「『梔子(クチナシ)』です。」

『私は幸せ者』です。

「『し』か・・・」

少なくとも『ストック』を選んだのは、その意味を知った上での事なのですから。
そんな思いを込めて、リクオ様を見つめてしまう。

「・・・『シザンザス』?」
「くすくす、『シザンサス』ですよ。」

『良きパートナー』ですか?私をそんな風に思っていて下さるなら、どんなに嬉しいか。

「おぅ、それそれ、『シザンザス』だ。」
「では、『す』ですね。」

こんな偶然って続くものかしら?
運命的なものを感じ、なんだか本当に楽しくなってくる。

「・・・『ストレプトカーパス』です。」

『信頼に応える』それが私の僕としての務め。

「おい、それホントに花の、名前か?」
「本当にありますよ。育てるのが難しいので、庭にはありませんが。今度お見せしましょうか?」
「・・・いや、いい。」

私だってついこの間知ったばかりの花ですから、リクオ様が知らなくても無理はありませんよ。

「んじゃ、俺は『スズ・・・・」

鈴蘭ですか?『幸福の再来』・・・う~~ん、せっかくのしりとりが終わってしまう上に、意味が繋がらなくなっちゃいますよ~。
ああ、リクオ様も失言だって分かってるんですね。ここは助け船を出さないと・・・

「もしかして、『ススキ』ですか?」
「へ?」

その顔は、ススキも花をさかせるって認識ありませんね。

「ススキも花を咲かせますよ。」

じゃああのフサフサは何だと思っていたのかしら、もう・・・

「おう、そうそう、『ス~スキ』だ。」
「それでは・・・」

『心が通じる』まさに私達の事ですよね?
じゃあ、次は・・・

「・・・『桔梗』(キキョウ)です。」

未来永劫『変わらぬ愛』をあなたに。
僕としての『従順』さをあなたに。

これは嘘偽りない私の気持ち。
あなたが酔っていない時に、花言葉では無く、直接言葉でお伝えしたい。

そう考えていたら、なんだかリクオ様がソワソワしだした。
どうしたのかしら?

「おう、『ウコ・・・・」

私はてっきり『梅』か『ウイキョウ』だと思っていた。
どちらも悪くないけど、今までの雰囲気にはあまり合わない花言葉。
なのに、リクオ様はわざと『ウコン』とおっしゃって負けようとしている?
まさか本当に花言葉を知った上での事だったのですか?

「『ウコ・・』何ですか?」
「ぐ・・・」

続きが聞きたくて、言葉を促してしまう。

「言って下さい、リクオ様。」
「ウ・・・『ウコン』だ。」

『あなたの姿に酔いしれる』

「それは私の言葉ですよ。」

私は嬉しくなって、リクオ様に抱きついた。

 

 

乙女全開なつららを上手く描けたでしょうか?
これはつらら視点で描いたしりとり遊びです。
リクオ視点の『しりとり遊び』と同じ話ですが、若干異なっている場所もあります。
酔っ払い視点か、そうでないかの差というやつですね。違っている場所を探すのも面白いかも(笑)。

ホワイトデーの話で花言葉を使った時、なんとなく『花言葉を利用して、花しりとりでリクつら作れたらな~~~』と思っていた訳ですが、上手い事繋げて話にする事が出来ました。いや、大満足です(^^)。

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