情けない姿を晒してしまったイタクを見送った後、リクオは再びプールの方へと向きなおし、縁に手を掛ける。
「さて、んじゃあ入るぞ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。」
心の準備が整っていないと、つららが止めるよりも早く、リクオが氷風呂へと足を入れた。
が・・・
「冷てぇ!」
「若!?」
入るとほぼ同時に、リクオはプールから飛び出してしまった。
「「あ・・・」」
気まずい雰囲気が会場を包む。
「え?まさか秒殺?」
「いくら3/4が人間だからってまさか・・・」
「いや、それよりも、もっと怖い事が・・・」
観衆のざわめきの中、リクオが恐る恐るつららの方を見る。
ああ、殺されるかもしれない。そうリクオが思ったとしても、不思議ではなかっただろう。
「リクオ様!大丈夫ですか!?」
ところが予想に反し、慌てた様子でつららがリクオの方へ駆け寄ってきた。
リクオはもちろん、皆が険悪な空気を作り出しているであろうと予測していただけに、面喰ってしまう。
「あ、いや大丈夫だ。」
「だからお待ちするように言ったのに。
ああでも良かった。全身浸かっていたら、風邪をひく所でしたよ。」
「おい、つらら。」
自分をこれほど心配してくれることはありがたいのだが、耐えられない事を前提にされていることに、リクオはムッときてしまう。
「俺の体を気遣ってくれんのは嬉しいけどな。俺には無理だって決めつけんじゃねぇぞ。」
「何を言っているんですか。リクオ様は3/4が人間なんですよ。
妖怪にも耐えられないのに、若に耐えられるはず無いじゃありませんか。」
何を当たり前の事を、というつららの態度に、リクオはムカッときて怒りだした。
「ようし!そんなに俺が不甲斐ないと思ってんなら、大丈夫だってこと証明してやる!」
「リクオ様、いったい何を言っているんですか?」
まさかこのまま氷風呂に入ろうとしているのではないだろうかと、つららはこっそりプールの水を完全に凍らせた。
「こういうのは慣れだ!いいか、つらら。俺が10分耐えられるようになるまで、徐々に入る時間を延ばして行くからな!」
言っている事が無茶苦茶だ、とつららが驚いている所に、リクオの影からひょいと雨造が姿を現した。
「えーと、それはつまり、リクオと雪女が特訓の為に一緒に風呂に入るってことか?」
「ああそうだ!」
「!!」
ウヒヒと笑いながら質問する雨造に、リクオが振り向きざま即答する。
その答えにつららは顔を真っ赤にさせ、そのつららの顔を見たリクオが、ハッと我に返った。
「あ、いや、ちょっと待て・・・」
「ウヒョ~~~~!さっすがリクオだな。上手い事言ってお風呂にこじつけたぜ。」
「だから、そんなつもりじゃ・・・」
「あ~あ、若、皆の前で言っちゃいましたね。もう戻せませんよー。」
リクオを挟むように河童も現れて、止めの一言を告げる。
観衆も事の成り行きを理解し、大いに歓声を上げた。
「う・・・」
「あの・・・リクオ様。」
「な、なんだつらら?」
そうだ、つららなら怒って有無を言わせずに、今の話を無かった事にできるはずだ。
そう考えたリクオは、期待を込めて勢いよくつららの方へと振りむいた。
「あの、流石に恥ずかしいので、タオルだけは着けたままでもいいですか?」
「・・・・・」
ぽっ、と頬を染めるつららの顔を、リクオは呆けた顔で見つめる。
「なんでだ~~~~~~!!!」
リクオの叫びが、京の街に響き渡ったという。
夜若がけっこう子どもっぽく描かれていますが、私のサイトでは、夜リクでも『やり手のようでも、まだまだ子ども』として描いています。
その方が面白いんですよね~。
首無辺りからイマイチ感が強かったのですが、なんとか終わらす事が出来ました。
ハジけた話を書くと、ほんと自分でも生き生きしてくるのが分かります。
しかし、つららがけっこう毒舌家ですね。きっと牛頭丸に鍛えられたからに違いありません(笑)。