その後、何処の誰ともわからぬ妖が何人か挑戦したのだが、ことごとく失敗に終わっていった。
どの妖も鼻の下を伸ばしたり、頬を染めていたりと、耐えきれず逃げ出したり凍らされたりする先人達の姿に物怖じせずに出てくる様は、それだけでつららの人気ぶりが伺えるというものだ。
普段はリクオの手前という事もあって行動しない妖怪たちも、お祭り騒ぎという事もあって遠慮なく出てきている。
そんな騒ぎに、自分にそれほど人気があるとは思っていなかった(ほぼリクオのせい)つららは、恥ずかしながらも喜びを覚え、逆にライバルが(ただの助平心の者もいるが)こんなにいたのだと思い知らされたリクオは、不機嫌さと焦りと、そして失敗する者たちを見る度に安堵感を覚えていた。
だが、そんな騒ぎも失敗ばかり続けば飽きが来る訳で、『誰も成功できないようになっているのではないか』と、不満の声が上がり始めた。
「そんな事を言われてもねぇ。雪女に嫌われていたり、畏れに負けているだけなんじゃないかな。」
不満の声に対しさらっと答える首無に、周囲からブーイングが起こりだす。
「だったらお前がやったらどうなんだ。」
「屋敷じゃよく一緒に居て仲が良いみたいだし、成功しないはずが無いだろ?」
「そうだそうだ~~~。やれやれ~~~~。」
首無は困ったようにつららとリクオの方を見たのだが、リクオが困惑した顔をしていたのを見て、ニヤリと笑いながら観衆へと顔を向けた。
「いいでしょう!では、不肖この首無めが、氷風呂に耐えられるという事を証明して見せましょう!」
ワーーー!!と湧きあがる歓声に首無が両手を振ってこたえる。
「え?本当にやるの?首無って大活躍しているじゃないの。」
「いや、だからこれはそういう大会じゃないんだって。」
「ふーん?」
なんでそういう考えになったのかな、と首無は少々あきれてしまうが、まぁ関係無いさと、さっと水着姿に着替えて水風呂へと入る事にした。
ざぶん・・と入った氷風呂は、ほぼ水風呂に近い状態で、首無にとって耐えられないほどでも無かった。
「どうです?大丈夫そうでしょう?」
平然とする首無に、観衆から歓声が巻き起こる。
が、一人の女性がステージに上がった途端、辺りが静まり返った。
「えーと、毛倡妓。別に僕は雪女と一緒に風呂に入るのが目的で、こんな事をしているんじゃないんだよ?」
「そうね、首無。たしかにあんたは、そんな理由でこういう事はしないわよね。
でも、権利をもらったら、一緒に入るつもりなんでしょう?」
首無が毛倡妓からついっと視線をそらす。『入るつもり』と言っているようなものである。
「そういうのは私の目の黒いうちはやらせないわよ。若に悪いでしょ?」
毛倡妓はにっこりと笑いながらそう言うと、問答無用に首無の頭を脇に抱えた。
「お、おい毛倡妓。」
「さあさあ、こんな遊びはもう止めて、京妖怪との戦いに備えるのよ。」
毛倡妓がステージを降り、ずんずんと観衆の間をかき分けていく。
その後を、首無の体が必死に追いかけていった。
「あ~あ、公式カップルっていいなぁ。」
「なんだそりゃ?」
「い、いえ、リクオ様!こっちの話です!気にしないで下さい!」
『ふーん?』とリクオは首をかしげ、よっこらしょっと腰を上げた。
「あ、司会者も居なくなった事ですし、もう終わりにしましょうか。」
立ち上がった事を『もうお開きにしよう』と解釈したつららが、合の手を出す。
その言葉を聞いたリクオはつららに近付くと、プールのふちに手を掛けニヤリと笑った。
「そうだな。だがこのままじゃ面白くねぇだろ?俺が最後にやってみるよ。」
「え・・・そ、そんな、万一風邪を引くような事があったらどうするんですか。」
「そんときゃあつららに看病してもらえばいいさ。」
「リクオ様・・・。」
ざぶん
「「えっ?」」
じっと見つめ合うリクオとつららが二人の世界に突入してしまっている間に、いつのまにかイタクが水風呂に入っていた。
「ちょっと待てイタク。何でお前が入ってんだ。」
「フン、遠野勢が負けたままじゃ、引きさがれねぇからな。」
「こっちだって全滅なんだから、気にすることねぇだろ。」
「そうよ、大体あなたも活躍しているじゃない。」
また妙な事を言い出した、とリクオとイタクが微妙な顔をしてつららを見る。
が、突然イタクが体をガタガタと震わせ始めた。
「え?もしかしてもう限界なのか?」
まだ1分と経っていないのに、イタクの唇は青ざめ、体が激しく震えている。
「あ~あ、やっぱり駄目だったな。」
いつの間にか雨造がやってきて、イタクをがっしり捕まえるとひょいと担ぎ出した。
「おい、いいのかよ。」
「いいんだって。ほら、何も言わないだろ?こいつ、動いてる時は寒さも平気なんだけどな。」
「でなけりゃ遠野には居られないだろうからな。」
「基本小動物だからな~。動いてなけりゃ、あっという間に体温下がるってわけさ。ギャハハハハ。」
そのなりで小動物かよ・・・と呆れかえるリクオを他所に、笑いながら雨造はイタクを担いでステージを降りていった。
最初に考えたイタクのネタがあまり面白くなかったので、全く別物にしました。ま、これでもイマイチ感が拭えませんが。
最初のネタでは、やはりつららがイタクを言葉攻めするのですが、どうもそこが今一つだったんですよ。
さて、次回でいよいよ最終話です。
ギャグが失速中なので、あまり期待しないでお待ち下さい。