(覚えてないんでしょうね。深い意味なんて。)
結局、あの時からリクオは変わっていないということだろう。貰ったときは嬉しかったが、何とも悩ましい。
「そういや、帯留め、ひょいひょい女にやるな、って聞いた気がするけど。あれって、なんでだ?」
そう言うところだけは、覚えているのか、とつららは返答を考えた。
「それは…一応、貴金属ですからね。高価な物を贈ったら、女性も意識したり、勘違いするでしょう?」
自分が、勘違い女では無いと暗に言う。
(ご安心下さい。ちゃんと、立場はわきまえていますから。)
「…そんな物か?」
(なんか、帯留めだから駄目、って言ってなかったか?)
リクオはつららの顔を覗き込むが、金色の目は揺らめくだけで、表情は読み取れない。
「そうですよ。若は、そう言うところは疎いんですから、気をつけてくださいね?
家長とかに、幼馴染みだから、なんて指輪でもひょいとあげたら、プロポーズと勘違いされちゃいますよ。」
「しねえよ、そんなこと。」
そこまで子供じゃない、と言う表情に、つららはすました顔を保つ。
(言えませんよ。帯留めは、昔は男女の契りの証に交わしていた、なんて。)
自分ばかりが意識をしているなんて、何とも滑稽だ。
期待してしまいそうな自分をはねのけるように、色気のない言葉を紡ぐ。
「リクオ様、このまま、寝ないでくださいよ?風邪をひいちゃいますよ。」
「…添い寝してくれるなら、布団に行く。」
微動だにしない主に、つららは頬を朱に染めながら、むむ、と唇を尖らせた。
「暑いなら氷枕、つくりましょうか?」
「わざわざ、作らなくてもいいだろ、別に。」
すでに、ちょうど良い物があるではないか。
「…もう、また、三羽烏や首無しに怒られますよ…?」
つららの言葉に、リクオは少し口を尖らせた。
「いいよ、別に。」
こめかみに青筋を立てて風紀の乱れをたしなめる側近の顔が浮かぶが、脅し文句は、効かない。
心が抗えないことに、気づいてしまったから。
特別なのだと、気づいてしまったから。
手の内にいる女を抱きしめて、何が悪いというのか。
もどかしい会話を繰り返しながら、
二人の密やかな夜は、ゆるゆると更け行く。
-了-
以前、遊亀朔夜様から「貴女の『名』は」の改訂版作成のきっかけを下さったので、そのお礼を込めてお持ち帰り頂いた所、なんとこの作品を『お持ち帰り可能』とのお言葉を!!
即座にありがたく頂きました(^^)。ありがとうございます。
本誌のように天然タラシな若もいいのですが、こういう若者らしい素直になれない部分を持つ若も素敵です(^^)。
見ていて応援したくなりますよね。
「花も吹雪もべっ甲も」では、いつも疲れた体と心を癒されています。皆様もぜひお尋ねください。素敵なリクつら文を堪能できますよ(^^)。