呪いの・・・ 2

そこには、無残に引き裂かれたリクオ人形達が、多数転がっていたからだ。

「お前!まさか本当はあいつに相当ムカついてんのか!?だからってここまでやるか!?普通!?」
「違うって!それはリクオ様を!・・・その声は牛頭丸!?」

思わず地声で喋ってしまった為、せっかくの女装も空しくばれてしまった事に、牛頭丸はしまったと顔をしかめる。
だが今はそういう事を考えている場合では無い。
なんせ側近であるはずの雪女が、主を模した人形を破壊しまくっていたのだ。
いくら他所の組とはいえ、見過ごすわけにはいかない。

「何!?じゃあ今までの忠誠っぷりは嘘だってのか!?」
「だから違うって言っているでしょ!それよりもあんた、覗いてたわね!」
「今問題なのはそこじゃねぇだろ!!」
「何よこの変態覗き魔!!」
「じゃあ奴の人形でストレス発散してるお前は変人だな!!イカれてんぞ!!」
「なんですって!!」
「何だよ!!」

ガラリッ

「「!!」」

突然勢いよく襖が開くと、険しい顔をしたリクオが部屋に押し入ってきた。

「牛頭・・・あれ?」

だが、部屋で繰り広げられていた予想外の状態に、リクオは面喰って口をあんぐりと開けたまま、二人の美女を凝視してしまった。
リクオは、てっきりつららと牛頭丸の喧嘩が、あろうことかつららの部屋で起こったものだと思い飛んできたのだったが、入ってみればつららと見た事のない美女が、至近距離で睨みあっている。
これで驚かない方がどうかしているというものだ。

「おう。お前もとんでもねぇ腹黒側近持っちまったな。これを見ろよ。」

だが、その美女の口から出た声は間違いなく牛頭丸のもので、リクオは「え?」と思考が一瞬停止してしまう。
それをリクオ人形の惨状を見てのものだと勘違いした牛頭丸が、ふんっと鼻息も荒くつららに勝ち誇った顔を向けた。

「ほれ見ろ。こいつもお前のやった事に呆れかえってんぞ。」
「ち、違うんですリクオ様!!」

牛頭丸の言葉を鵜呑みにしたつららが、涙目になってリクオの前に跪き、リクオの手を取って弁解する。

「これは私がリクオ様に抱きついた時に、間違って凍らせてしまわないよう特訓する為に作った人形なんです!」
「え?つらら?特訓?」

まだ軽いパニック状態になっているリクオが、何の事だとよく理解できないまま聞き返した。

「特訓って、とっくの昔からベタベタしてたんだろうが。何てきとーな言い訳してるんだよ。」
「五月蠅いわね!牛頭丸!」
「え?牛頭丸?」

ちゃちゃを入れてきた牛頭丸を、リクオは『本当に牛頭丸?』という顔をして凝視する。
つららはそんなリクオの手をガシッと強く握って自分の方を振り向かせると、さらに言葉を捲し立てた。

「最近上手く出来なくなってしまったので、特訓を始めたのです!本当です!信じて下さい!」

牛頭丸は『自分の力も制御できないなんて、やっぱダメな側近だな。』と言いかけたが、それを喉の奥にのみ込む。
下手にこれ以上喋れば、自分の正体がリクオにバレかねない。
さてどうなるかと見守っていた牛頭丸は、続くリクオの言葉に驚いた。

「あー、うん。解った、つらら。」
「若!」

つららは感動して、先ほどとは違う意味で涙を滲ませる。
そんなつららに、リクオは困った顔をして微笑む。

「解ったから、手、放してくれない?凍っちゃいそうだよ。」
「はっ!?り、リクオ様!すみませ~~~ん!!」

興奮したつららから冷気が溢れだし、リクオの手は見事に凍りつく直前まで冷やされていた。
慌てて手を放したつららが、咄嗟に胸元に掛けていたセーターで、リクオの両手を覆う。

「実際にこうなるんじゃね。確かに特訓が必要かも。」
「うう・・・すみません、リクオ様。」

ハハハと乾いた笑いをしながらリクオが再びつららに視線を落とした途端、ギシッとリクオの体が固まった。

「リクオ様!?まさか手だけでなく既に体まで!?」

膝立ちの姿勢のまま、つららはリクオの両肩を掴んでリクオの体を揺する。
リクオはつららを凝視したまま、全身を真っ赤に染めつつ、
さらに体を固まらせてしまった。

「え?熱い?」

つららの思っていた事とは逆に、リクオの体はむしろいつもより熱くなっているぐらいだ。
だったら何故、こんなに体を固まらせてしまっているのだろう。
不思議に思ったつららは、姿勢はそのままに、下から首をかしげてリクオの顔を覗き見た。

「もしかして、俺を誘ってんのか?」
「ええええ!?」

いつの間にか夜の姿に変化したリクオが、つららの両肩を掴み返す。
そのままつららに覆い被さるように圧し掛かろうとしたのだが・・・

「てめぇら!!いい加減にしやがれ!!」

ドカァ!と女装した牛頭丸がリクオの体を蹴飛ばした。

「まったく人が見てるまん前でいちゃつきやがって!やってられるか!!」

大声で怒鳴り散らす牛頭丸を、しばらく呆けた顔でリクオは見ていたのだが

「ああ、そうか。お前、牛頭丸なんだな。」

と言ってニヤリと笑うと、祢々切丸を懐から取り出した。

「おう。何でここに居るんだとか、女装している訳とか、色々聞きたい事はあるけどよ。」

いい所を邪魔してくれた間男をどうしてくれようかと、リクオの瞳に殺気が宿る。
ギクリと思わず後ずさる牛頭丸の背後に、雪女の姿に変化したつららがすうっと立ち塞がった。

「私も聞きたい事があるわ。どうして私の部屋に入ったのか。」

もはや逃げ道の無い状態に、牛頭丸は冷や汗をかきながら手を上げ落ち着けと二人を交互に見る。

「まて、話せば解る。そうだろ?」

話した所で結果は変わりそうにないと、牛頭丸は牛鬼様の顔を思い浮かべながら、自分のこれから辿るであろう運命に耐えれるよう祈った。


翌朝、牛頭丸の姿を見た者は誰もいなかったという。

 

 

 

1万Hit御礼文です。鳩様、リクエストありがとうございました。遅くなったうえに、リクエストとはけっこう異なるものになってしまいましたが(合っているのは登場人物ぐらい)、楽しんでいただけたでしょうか?
最初は完全に覗きをやっている牛頭丸だったのですが、どうにも牛頭丸が覗きというのがイメージに合わなくて。
私の中では、牛頭丸は硬派なツンデレって感じでしてね。
で、『お色気をカットして、ギャグでやってしまおう。』と思って作り変えたら、こうなりました。
・・・あれ?お色気カットは?(笑)
リクオが固まって赤くなったのは、もちろんボタンの外れたブラウスの間から、つららの肌が(というか角度的には間違いなく胸も)見えた為です。
まだ若いからね~(笑)。

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