「おう、肩がもう治っているんだって?なんだかすげぇ・・・大丈夫か!?雪女!?」
リクオが鴆を連れて部屋に戻ってみると、つららが肩を押さえて蹲っていた。
「つらら!」
二人は慌ててつららの脇に座ると、鴆が着物をずらし肩を肌蹴させ、肩を触り状態を確かめる。
「まだ治っていねぇじゃねぇか。おい、雪女、リクオの前だからって無茶したんじゃねぇだろうな!」
「い、いえ、そんな事は・・・」
痛みを堪えながらつららは答えるが、このような状態では言葉に説得力が無い。
リクオはつららの手を取ると、さっきは本当に平気そうだったのに、と呟きながら心配そうにつららの様子を見守る。
まずは痛み止めだと鴆が薬の準備を始めた所で、つららの動きがピタリと止まった。
「あれ?また痛く無くなった・・・?」
「・・・どういうことだ?まさかマジでリクオがいると痛みが無くなるってんじゃないだろうな。」
「ま、まさか、ボクがいるからって・・・」
三人は顔を合わせ、まるで狐に包まれたようだと顔を傾げる。
ふと、鴆がリクオの顔を見て、さらに不思議そうな顔をしながら、全身を見回した。
「おい、リクオ。お前なんか光ってねぇか?」
「えぇ!?そ、そうなの?」
リクオの体を良く見てみると、確かにほのかな光が全身を覆っている。
その光が、繋げた手を通して、つららの体に移っていっていた。
「そういや聞いた事がある。お前の祖母は特別な力を持っていたって・・・」
何時も以上に眼をキラキラと輝かせながら見つめてくるつららに、リクオは照れ笑いを浮かべながら頭を掻く。 試しに黒羽丸を呼びだして実験してみたところ、治らないばかりか痛みが引く事も無かった。 「鴆君、これってどういう事?」 まさか昨日の事を覗き見していたのではないかと、リクオはカッと頬を染めた。 (まぁ、相手がどれだけ大事かってのもあるんだろうけどな。黒羽丸の前じゃ言えねぇか。) この堅物の前でそんな事を言えば、最悪切腹でもしかねない。 そう考えた鴆は、もう大丈夫だろうと言って広間へ帰って行き、黒羽丸もいつの間にか姿を消し、リクオとつららだけが部屋に残された。 鴆が去ってからしばらくして、落ち着きなさげに、つららがリクオの顔を伺う。 「何時まで手を握っているつもりですか?」 予想通りの返答に、つららが「う・・・」と頬を赤らめ言葉を詰まらせる。 「もう平気ですから、お部屋に帰って学校の支度をなさって下さい。」 つららは『だからそれは、側近として当たり前の事をしただけ』と言おうとしたのだが、リクオの眼差しに感じるものがあり、言葉を呑みこんだ。 「そうですね。でも無理はいけませんよ、明日に障ります。」 つららの言葉に、リクオはほっと安心した息を吐く。 「ですからリクオ様も、無理をなさらないで下さいね。」 今度はリクオが「う・・・」と言葉を詰まらせる。 「私が大丈夫だと思っても、リクオ様にとっては無茶な事。 そう言って上目遣いにリクオの方を向き、ニッコリと微笑むつららを見て、リクオはドキッと胸が高鳴るのを覚えた。 「ふふ・・・そうだね。まぁ、多少の無茶はお互い様なのかな。」 リクオはつららの額に自分の額をくっつける。 「でも、火は無しだよ。」 リクオはちょっとしつこいかな、とも思ったが、どうしても何度も確認しないと気が済まない。 「じゃあ、明日の準備をしてくるから。」 起き上がり、ガラリと部屋を出ようとした所で、リクオはクルリと振り返ると笑いながらつららに話しかけた。 「準備が終わったら、又来るね。」 大人しく部屋に帰って休んでくれると思ったのに、いったい何を言い出すのかと、つららは首を傾げる。 「今夜は添い寝だな。ほら、治療の為にね。」 爽やかな(だがどことなく後暗い)笑顔でリクオはそう言うと、つららの返事を待たずに走り去っていく。 久しぶりに添い寝ができそうだ、とリクオは嬉しそうに鼻歌を歌いながら、自分の部屋へと駆けていった。 長文お付き合いいただき、ありがとうございました。 本誌の影響を受けてか、リクオがけっこう攻めてますね。
鴆の話によれば、リクオの祖母には他人の傷を癒す特別な力があったらしい。
きっとリクオにもその力があるのではないだろうか、というのが鴆の推測だ。
試しに何度かリクオとつららの手を繋げたり放したりした所、やはり繋いでいる間だけ、しかもつららの事を意識している時だけ、痛みを感じない事が分かった。
「きっと助かったのも、リクオの力なんだろうな。」
「へぇぇぇぇぇ~~。それじゃあ、リクオ様は私の命の恩人という事になるのですね。」
「そ、そうなるのかな、あはは。」
だがその横では、鴆がムスッとした顔で考え事をしていた。
あの致命傷が一晩で治った割には、もうだいぶ治った肩の傷が、普通よりは早い程度にしか回復せず、主に痛みを緩和してくれるだけ、というのが納得いかない。
「そうだなぁ・・・命の危機とか、そういう状況じゃなきゃ上手く出来ないんじゃいのか?
リクオ、お前、雪女に絶対死んでほしくないって思っただろ?」
「う、うん・・・・」
その隣でも、つららが口元を手で隠し頬を染めている。
まぁ、そこまで心配する事は無いだろうが、大騒ぎになる事は間違いないだろう。
「あの、リクオ様。」
「ん?なに、つらら。」
そんなつららを、リクオは何時ものように正面から見つめた。
「もちろん、傷が治るまで。」
リクオはというと、そ知らぬ顔でニッコリとつららに微笑み返した。
「駄目だよ。ボクのせいで負った傷なんだから、ボクが治さなきゃ。」
そして暫らく見つめ合いながら、つららは言葉を選び再び口を開いた。
「つららが無理したんだろ。」
「はい、反省しています。ですから先ほど、もうあのような事はしないと約束しました。」
その様子につららは眼を細めて微笑むと、リクオに握られた手を、ギュっと握り返す。
「無理なんかしていないよ。」
「くすくす、私から見れば、無理をしていますよ。」
つららはリクオの手を両手で取り、大事そうに胸元に寄せて眼を瞑った。
リクオ様が大丈夫だと思っても、私にとっては無茶な事。
お互いそう思って、心配して、守ろうとして、助け合う。
フフフ、こんなのまるで、人間みたいですね。
私がこんな風に思うようになるなんて、きっとリクオ様のせいですよ。」
(そうだ・・・ボクは、守りたいんだ。つららを。
つららがボクを思うように、ボクもつららを。)
リクオは改めてつららの眼を見つめる。
「そうですね。」
冷えた感触が、実に心地いい。
「はい、判っております。」
そんな考えを誤魔化すように、ふとある事を思い付き口元をニヤリと歪ませると、頭を起して、再び正面からつららと向き合った。
「はい、お見舞いありがとうございました。」
「え?」
「え?えぇぇえええええ~~~~~!?」
「よし、これならきっと烏達も邪魔をしないよね。うん。」
それを見守る黒羽丸が、どうしたものかと思案に暮れていたが、この後どうなったかは、また別の話。
だいたい書きたかった事は書けたような気がしますが、いかがでしたでしょうか?
二人には、お互い大切に思って、守り助け合い続けてほしいものです。
リクオはきっと、治療という名の元に、あれやこれやのセクハラをしまくるに違いありません(笑)。