ドタドタドタドタドタドタ・・・ぐわらっ!
大きな足音を響かせながら、つららの部屋の襖が乱暴に開かれる。
布団の中で大人しく寝ていたつららは、その足音の主が誰であるのか既に予測していて、体を起してその人物を出迎えていた。
「つらら!!」
「もう、リクオ様。そんなに乱暴に開けると、立て付けが悪くなってしまいますよ。」
慌てた様子のリクオに対し、落ち着いた様子のつらら。
その落ち着いた様子に、リクオはいつもと変わらぬ様な錯覚さえ覚え面喰ってしまう。
「あ、ゴメン、つらら。・・・じゃなくて!」
思わず普通に謝ってしまったリクオだったが、そんな落ち着いている場合ではないと、飛ぶようにつららの布団の脇に座り込むと、つららの両肩をガッシリと掴んだ。
「本当に大丈・・!」
「イタタタタ!リクオ様!痛いです!」
「うわわわ、ゴメン!つらら!」
痛みに顔をしかめ悲鳴を上げるつららに、リクオはビクッと慌てて手を放した。
涙目になりながら右肩をさするつららの顔を、リクオはオドオドしながら覗き込む。
「ねぇ、つらら・・・本当に・・・その・・・大丈夫なの?」
「大丈夫じゃありません!」
リクオの言葉に、つららが左腕を振り上げながら抗議の声を上げた。
「物凄く痛かったんですよ!右肩を怪我しているって知っているはずなのに、何でこんなことするんですか!悪戯じゃ済みませんよ!」
「あ、いや、そう言う事じゃなくて・・・」
右肩に重傷を負っている、という点を除けば、いつものつららにしか見えない。
「じゃあどういう意味なんですかーー!
っ!!イタタタタ!」
興奮のあまり右腕まで振り上げてしまったつららが、肩に走った激痛に顔を引き攣らせ、右肩を抑えてうずくまる。
「ああっ!ほらっ、そんなに興奮すると体に悪いよ。」
「誰のせいですか!」
「う・・・ほんとにゴメン。つらら。」
「もう・・・・」
何時もと違って、まるで子供のようにしゅんとなって謝ってばかりいるリクオの姿に、つららの口から思わずクスクスと笑みがこぼれ出す。
「リクオ様、そんなに謝ってばかりでは皆が変に思いますよ。」
「変じゃないよ。ボクのせいでそんな傷を負って・・・その・・・とにかく、どれだけ心配したと思ってるんだ。」
まさか泣いたとは言えないし、それを差し引いても昨日の自分の事を思い出すと、それだけでリクオは気恥ずかしくなる。
途中で言い淀み顔を逸らすリクオに、つららは首を傾げると、布団をずらしてリクオの側まで移動した。
「大丈夫ですよ。鴆様の治療のおかげで助かりましたし。
まさか鴆様の治療がこれほど効くとは、思っていませんでしたが。」
つららがリクオの手を取ると、リクオはその手の冷たさに口元を緩ませた。
あの時とは違う冷たい手であることが、普通とは逆に冷たい事が、つららが生きているのだという事を実感させてくれる。
そのことにリクオは、じっとつららの手を見続けながら、自分の手の上に置かれたつららの手の上に、もう一方の手を重ねた。
「リクオ様?」
そんなリクオの様子に少しばかり驚いたつららだったが、自らの手に重ねられたリクオの手を見て、眼を嬉しそうに細めた。
「・・・ねぇ、つらら。もうこんな事しちゃダメだよ。どれだけ心配したと思ってるんだ。」
「何を言っているんですか。私は側近ですよ?リクオ様をお守りする為に戦わなくてどうするんです。」
リクオの真剣な言葉にも、即答で言葉を返すつらら。
それを予想していたリクオは、つららの手をより強く握りしめ、詰め寄るように顔を近づけてゆく。
「だから、そうじゃなくて、火はつららの弱点なんだから、自殺行為みたいなことはしないで欲しいってことなんだ。」
真剣なまなざしで間近に迫るリクオの顔に、つららはドキッと顔を赤らめまともに返事が出来ない。
心なしかリクオの姿がほのかに光っているようにも見えるが、それほど自分は意識しているのかと、つららは更に思考が混乱して来た。
「り、リクオ様、顔が・・・近・・・」
「だいたい、つららが倒れたら、誰がボクを守るんだい?あんな無茶は二度としないでよ。」
「は・・はい、リクオ様。」
つららの返答に満足したリクオは、ニッコリと微笑みながら体を元の位置に戻す。
つららにしてみれば、息がかかるほど顔を近づけられ、まともに物を考えられなくなった所にもっともらしい事を言われては、『はい』と返事をするしかないだろう。
「今後は、火に関する事は全部ボクに任せる事。いいね。」
「う・・・判りました、リクオ様。」
雰囲気に流され承諾してしまったもの、全部という事にはいささか不満だ。
なんとか言い返せないかと考えていた所で、つららはふと自分の体の変化に気が付いた。
「あの、リクオ様。」
「ん、なに?つらら。」
つららは繋いでいた手のうち左手を放すと、自分の右肩をそっと撫で、続いてギュッと握りしめた。
それを痛みが走ってきているのだと勘違いしたリクオが、慌ててつららの右手を取る。
「だ、駄目だよ触っちゃ。痛いなら鴆君を呼んでくるから、待ってて!」
「いえ、違いますリクオ様。」
「へ?」
つららはもう一度自分の右肩を見ながら握ると、肩を上下させ、回転させ、不思議そうな顔をしてリクオに向き直った。
「リクオ様、肩の痛みが全くありません。普通に動きますよ、ほら。」
そう言うと、つららは右手でリクオの腕を掴み返すと、大きく振り上げた。
「わわっ、つらら!・・・って、え?」
リクオは慌てて止めようとしたが、思ったよりもずっと強い力で自分の腕を振り回している事に驚いてしまう。
いったいどういう事なのかと、リクオは呆けた様な顔でつららと目を合わせた。
「ね?大丈夫でしょう?」
「う、うん・・・どうしてかな?」
「さあ?どうしてでしょうか?」
一体どういう事かと話し合おうにも、二人には理由がさっぱり分からない。
そこでリクオは、どういうことか調べてもらおうと、鴆を呼びにいった。
今回で終わる予定だったのに、どんどん長くなっています(^^;)。
最初は互いに相手を守ると押し問答する予定でしたが、何故かギャグ話になってしまったので書き直して、ついでにもっと甘くしたいな~、と思ったらこうなってしまいました。
リクオはたらしですから、これで良いですよね(笑)。