ザザーン・・・
「やったー!今度こそ本物の海だ~~~~!!」
「キャッホーーーーー!!」
巻と鳥居が、白浜の砂浜を嬉しそうに駆けてゆく。
「リクオ君、あまり無茶しないでね。」
カナが、ビーチパラソルに寝転んでいるリクオにそう声を掛けると、鳥居達を追いかけて、波打ち際へと走って行った。
「情けないなぁ、奴良君は。女の子達に囲まれただけで、緊張して体力を使い果たすなんてね。」
「まったく、羨ま・・・あ、いや、情けない話ですよね、清継さん。」
「はははは・・・」
リクオはパラソルの影に隠れて、ぐったりと寝転んでいた。
昨日の牛鬼滝へ向かう途中の騒動の後、糸の妖気に気が付いたゆらが、武曲を使って糸を切って正気を取り戻したのまでは良かった。
が、ゆらと清継は妖怪(牛頭丸と馬頭丸)を追いかけて居なくなるし、正気を取り戻した3人には思いっきり引っ叩かれるし、つららはべったりとリクオに引っ付いて離れなくなるし、島はそれを見てショックを受け清継を追いかけて行くし、とにかく事態を収拾するのに、リクオは体力を使い果たしてしまったのだった。
つららが寝る直前まで離れなかった事も、体力の消耗を速める結果となっていたわけだが・・・
「まぁ、僕達は一足先に海を満喫している事にするよ。いこうか島君。」
「ハイっす・・・って、ええ?!お、及川さんの水着が・・・」
「はよ行け。」
「トホホホ・・・・」
つららの姿を今か今かと待ち構えていた島であったが、清継に強引に連れ去られていってしまった。
「あれ?そういえばつららは?」
「雪女なら、着替えに時間がかかるって言っとったな。」
つららとのやり取りを思い出しながら答えたゆらだったが、突然眉間に皺を寄せると、寝そべったままのリクオを睨みつけながら言葉を続けた。
「何考えとんのや?あいつ。雪女のくせに、海で泳ごうなんて。自殺行為やん。」
「そうだよね!?」
「うわっ。」
自分の言葉に勢いよく起き上がり迫ってきたリクオに、ゆらは思わず仰け反ってしまう。
「あいつ、どうしても泳ぐって聞かなくって。
花開院さんからも、なんとか言ってくれない?!」
ゆらの手を掴み、リクオは必死の形相でつららの説得を頼むのだが、ゆらにしてみればそこまで面倒をみる義理など無い。
「何時ものように、甘~~い言葉でもかけて言いくるめたればええやろ。
そういうの、得意なんとちゃうん?」
「出来ていたらこんな事頼まないよ~。」
それもそうか、とゆらは思ったものの、いくらなんでももう着替え終わっているだろうと、このままリクオと一緒につららが来るのを待つ事にした。
何かあれば、式神を使って搬送するからと約束すると、リクオもやっと大人しくなった。
ゆらはボソッと呟いたのだが、待ち呆けているのだから、小さな声もすぐに気付きリクオが何を言ったのかと聞いて来る。 「別に。赤い紐でも糸でもなんでもええから、雪女をしっかり繋いどけばええのにって言っただけや。」 ボッ、と顔を赤くして照れるリクオを見て、ゆらは『乙女か~~~~!』と心の中で激しくツッコミを入れ、げっそりした顔をしてうな垂れた。 「あれ?何だろ?」 ゆらの冗談を真に受けたリクオが、大慌てで自分のパーカーを手繰り寄せ、勢いよく立ちあがりながら騒ぎの元へと振り向く。 「あ、リクオく~~~ん!」 リクオとゆらの顔に、驚愕の表情が張り付けられる。 ゆらの冗談で言った通り、騒ぎの元はつららだった。 「・・・つらら、何、それ?」 茫然としているうちに近くまで寄って来たつららに、リクオは震える声でかろうじて問いかける。 「いや、たしかに海で着るものだけど・・・」 つららは胸を張りながら、エッヘンと自分の水着を自慢する。 「いや、どう考えても違うやろ。」 遅れて正気を取り戻したゆらが、やはり震える声で、なんとかツッコミを入れる。 「ど、どうしてですか!?」 リクオとゆらは顔を見合わせると、困り切った表情で深いため息をついた。 「だってこれで泳ぐ人もいるって、聞いたんですよ~~!?」 白浜の海に、つららの叫び声が響き渡った・・・ とりあえず、つららのセクシー水着姿を期待されていた方ゴメンなさい。 でも、実際これなら、つららだって真夏の海で泳げると思うのですが、どうでしょうかね?
「まったく。そんなに心配やったら、紐で繋いどいたらええやん。」
「え?何か言った?」
あー面倒くさい、と思ったゆらは、思わず適当な事を言ってしまった。
「え?い、いやそんな赤い糸なんて・・・」
昨日の疲れと今日の暑さで、脳ミソが蕩けてしまったのではないだろうかと、心配になってくる。
なんとなく話し辛くなってしまい、二人ともしばらく黙っていると、突然周囲がざわつき出した。
「雪女とちゃうん?魅惑の水着で、浜辺の男共をくぎ付けにしとるんかもしれんで。」
「ええっ!?」
パーカーを雪女に着せるつもりなんか、独占欲の強い男やな。と、少し呆れた顔をしながら、つづいてゆらもザワつく方へと顔を向けた。
「「!!」」
だが、それはつららの美しさによるものでも、魅惑の水着によるものでも、雪女の力を振るってしまったからのものでも無かった。
「え、何言っているんですか、水着に決まっていますよ。」
だがつららは、そんな主の異変に気付きもせずに、当たり前の事をしているかのように、さらりと答えた。
「断熱性、保温性抜群!これなら私でも皆のように、この炎天下の中でも泳げます!
素晴らしい水着でしょう?」
普通なら頬の一つも染めてしまいそうなシーンだが、リクオは只々冷や汗を掻く事しか出来ない。
それに相槌を打つリクオを見て、つららはガーーンとショックを受け涙目になりながらリクオに詰め寄った。
「いや、だってそれ・・・ダイバースーツだよ?」
「それも、深海用のゴッツイ奴やな。」
一体何処でこんな物を調達して来たんだろう?
いや、そもそもなんでダイバースーツが水着だって思ったんだ?
お笑いネタが浮かんだ以上、書かくのを我慢することができませんでした(笑)。
つららは人前では、どんな時も肌晒し厳禁だという事で、御勘弁下さい。