「一組の及川さんと倉田さん!?」
あの日、つららと青田坊が人間に化けていた事を初めて知った。
しかも、あの二人組だという事を。
名の知れた不良として有名な倉田。
彼は中一にして、既に幾つもの伝説を持つほどの戦歴を残しているほどの、まさに札付きのワルだ。
そんな彼に常に寄り添う美少女がいた。
伝説の番長が唯一頭の上がらない存在、それが及川。
この二人とは小学校が同じという事もあり、噂話はよく耳にしていた。
「・・・・はぁ。」
もう何度目の溜息だろう。
いつもの仕事を終えて一息ついた途端、溜息ばかり出てくる。
学校一の不良と5本指の美少女。
この漫画の世界から出てきたような不良&美少女の組み合わせは、既に学校で噂になっていた。
曰く
「二人は常に一緒に居る。」
曰く
「二人は時々一緒に授業をサボっている。」
曰く
「及川と倉田は付き合っている。」
実のところはリクオの護衛の為に、いつも一緒に行動したり、リクオが体育の時に一緒に授業をサボったり、周囲に聞かれないよう耳打ちで会話したりしていただけなのだが。
だが普通の学生から見れば、そんな二人の行動に色恋沙汰の噂が立たない方がどうかしている。
そしてそれは、当然リクオの耳にも届いていた。
今までは『現実にもこういうことってあるんだな~。』程度にしか思っていなかったのだが、その正体がつららと青田坊となれば話は別だ。
「護衛だって言っていたし、まさかそんな付き合っているはずが無いよね。」
そう独り言して、リクオはハッとする。
「いや、本当だからって、どうというわけないじゃないか。」
そうだ、二人はただの側近だ。
ずっと自分の側で世話をし続けていてくれた、頼もしい、まるで叔父と姉のような存在だ。
その二人が付き合っているというのであれば、むしろ喜ぶべきではないだろうか。
「・・・・・」
喜べない。
何故だか判らないが、喜べない。
このはっきりとしないモヤモヤ感は一体何だろうと、リクオは首を捻るばかりだ。
「そうだ、単なる噂に過ぎないかもしれないしね。早とちりしたら駄目じゃないか。」
確認を取ってから、それから考えればいい。
うん、そうしよう。とリクオは立ち上がると、つらら達を探しに教室を飛び出していった。
「リクオ君、何かあったのかな?」
「さあ?でも一人で百面相している奴って、生で見たの初めてだよ。」
「あはははは・・・そうかも。」
教室を飛び出していったリクオを、カナとその友達が不思議そうな顔をして噂していた。