「あ、青・・・倉田くん!」
「若、どうかされましたか?」
「わわわ!学校じゃ『奴良君』だろ!?」
「あ、すみません、若。」
せっかくの注意も空しく、つい習慣で『若』と呼んでしまう青田坊だったが、リクオはそれを再度注意するわけでも無く、慌てた様子で青田坊に質問した。
「ねぇ、倉田君、噂のことなんだけどさ・・・」
「おや、もうわ・・・リクオ君の耳にも入っちまいましたか。はは、照れますなぁ。」
頭に手をやり照れ笑いする青田の答えに、リクオは一瞬眩暈を感じた。
「え・・・ほ、本当なんだ。」
「ええ、まぁ、いつの間にかそうなっちまいましてね。」
リクオは心の中で『落ち着け』と繰り返す。
どうという事でも無いはずだ。そう、いつも一緒にいれば、そうなるのも不思議無いじゃないか。
気の利いた事を何か言わないと・・・
「・・・・」
リクオ様が何故か固まってしまった、と青田坊は困惑していた。
そんなに『不良』組(?)の頭になった事に困っているのだろうか?と考えてしまう。
そういえば目立つのを嫌っていたな。きっとそれで、どうしたものかと考えているに違いない。
そう結論付けた青田坊は、『不良組』を抜ける決意をしてリクオの両肩を掴んだ。
「若、ご安心ください。きっちり話しつけて、終わらせますから。」
「は?」
思考が停止してしまっていたリクオは、青田坊が何を言っているのか、とっさに理解できなかった。
「いや、若がお困りのようですからな。スパッと縁を切って、護衛に専念いたします。」
「だ、駄目だよ!そんな理由で別れるなんて。」
爽やかな顔をして言う青田坊に、リクオの顔がサッと青くなり叫んでしまう。
自分のせいで人の幸せを潰すなんてとんでもない。
「はあ、でも護衛に支障が出るかもしれませんし。」
「護衛なんていいんだってば。だからそんな事言っちゃだめだよ。」
そうだ。その程度の事で、別れるなんてとんでもない。つららが可哀そうじゃないか。
そう思いながらリクオは青田坊に思い止まらせようとするのだが、青田坊はリクオの方が優先だとの態度を全く崩そうとしない。
「いえ、そうはいきません。ワシには若をお守りする使命があります。」
「じゃ、じゃあ支障が出ない程度に、仲良くして・・・くれれば・・・」
そう、二人を祝って・・・と考えている途中で、再びリクオの思考が鈍くなる。
それを、自分の為に言葉が詰まるほど必死に訴えているのだと勘違いした青田坊が、頭に手をやりペコリと下げ、リクオに応えた。
「そうですか。いや、優しいお言葉、ありがたく頂戴いたします。」
青田坊にしてみれば、不良たちもただの子どもに過ぎず、その子どもが自分を慕って来るのを、満更でもない気分でいた。
嬉しそうにはにかむ青田坊を見て、リクオの心の中に靄が広がっていく。
(なんで・・・どうしてこんな気分になるんだ。おかしいじゃないか。)
何故自分がこのような気持ちになるのか、答えの出せぬまま、リクオはふらふらと校内を彷徨い続けた。