噂の真相 ~氷麗

「あ、リクオく~~~ん。」

遠くから呼ばれた声に、リクオはギクリと身動ぎする。
恐る恐る声のした方へと振り向いてみると、思った通り、氷麗がこちらへ走ってやってくる。

嬉しそうな笑顔で自分を見ながら走ってくる氷麗を見て、リクオはふと先ほどの事を思い出した。

『いや、若がお困りのようですからな。スパッと縁を切って、護衛に専念いたします。』

リクオは何故か腹立たしくなってきた。
青田坊にとって、つららはその程度の相手だという事なのか。

陶磁器のような白い肌、流れるような黒く長い髪、そして金色に輝く瞳を持つ、美しい側近を
まるで鈴のような、いつも優しく、時には厳しく、聞き惚れるような声で自分の名を呼ぶ側近を
よく気が利いて、何事にも一生懸命で、いつも側に居てくれる、自分の心を安らげる側近を

そんなつららを、少し自分が不満を出した程度で振ってしまうような、そんな遊び半分の気持ちで付き合っていた、という事なのか。
そんな気持ちがリクオの中で膨れ上がり、ふつふつと青田坊への怒りが募ってゆく。

「あ、あの・・・リクオ様?」
「え!?」

直ぐ傍で、恐る恐る小声で語りかけてきたつららの声に、リクオはハッと正気に返り声の主の方へと向き直る。
当のつららは、自分を睨みながらどんどん険しい表情をし始めた主の態度に、何か自分がとんでもない不始末でもしてしまったのかと、不安に駆られオドオドしていた。


「あの・・何かお気に障るような事をしてしまったのでしょうか?もしそうなら・・・」
「いやっ!何でも無いんだ!ゴメン、驚かせちゃったね!」

自分の様子を伺いながら恐る恐る話しかけてくるつららの声を、リクオは遮るように声を上げ、両手をバタつかせつららを落ち着かせようとする。

「そうですか?あ~びっくりしました。
 でも一体どうなさったのですか?物凄く怖い顔をしていましたよ~。」

ホッと胸を撫で下ろしながら答えてくるつららを見て、リクオはもう一度、つららからも噂の事を確かめたくなってきた。

「ねぇ、つらら。噂の事、知ってる?」
「噂?誰のですか?」

つららはキョトンとした顔でリクオの顔を見つめると、思わずリクオは気恥ずかしさに目を少し逸らしてしまう。

「・・・その、つららと、あ・・倉田の事。」
「ああ、その事ですか~。」

なんだそんな事かと、青田坊の時のようにあっけらかんとした調子で答えてくるつららに、リクオはやっぱり本当なのかな、と気が重くなってきた。

「青・・倉田君との事は、何かと便利ですからね。でも、あまり有名になるのも困りものです。」
「べ、便利!?」
「はい。」

驚くリクオの声に、ニッコリと微笑み答えるつらら。
その事に、リクオはまた眩暈がしてきた。

言葉が乱暴な為、誤解される事もあるが、確かに青は『気は優しくて、力持ち』を絵に描いたような妖怪だ。
しかし、だからと言って、『便利だから』という理由で付き合うなんて・・・
もしかして、妖怪のそれと人間のそれは、感覚が大きく異なるのではないだろうかと、不安になってしまう。


そんなリクオの様子を、つららは不思議そうな顔をして見つめ続けていた。

『倉田と付き合っている』という噂が立って以来、あれほど鬱陶しかった人間の男からの告白が、ピタリと止んだ。
それはつららにとって、リクオの護衛を行う上で、非常にありがたい事だった。
とは言っても、青田坊は自分の母と『同世代』の大先輩だ。
人間の噂とは言え、自分と付き合っているという噂が立つのは、失礼にあたる。
その事を青田坊に詫びると、彼は護衛の役に立つのだから別に気にする事は無いと、豪快に笑ってくれたものだ。


その事を思い出したつららが、クスリと思い出し笑いをした途端、リクオの全身が突然硬直した。

「や、やっぱり本当に・・・」
「?」

自分でも理解できないショックを受けたリクオが、ふらふらと覚束ない足取りで教室へと戻ろうとする。
そんなリクオを見て、つららは「リクオ君、危ないですよ。」と体を支えようとしたのだが、リクオは大丈夫だとその手を振り払うと、一人教室へと帰って行った。
残された形になったつららは、心配そうにじっとリクオの方を見続けていた。

 

その様子を目撃した生徒が、そしてリクオが倉田とも普通に話していた所を目撃された事が、様々な憶測と共に新たな噂を生み出してしまう事を、リクオはまだ気が付いていない。
新たな噂、それは・・・

 

『倉田と奴良は、及川と3角関係にある』

 

 

 


1万Hit記念アンケートSS、第2位「アニメ設定を元にしたリクつら」でした。
まぁ、これだとリクつらではなく、リク→つらですけど。
最初はバッチリ、リクつらになる予定でしたんですけどねぇ。
書いていくうちに、なぜかこうなりました。まぁ、よくある事です(笑)。

アニメ設定だと、倉田が不良という描写は無かったような気がするのですが、やはりあの姿は不良設定が良く似合うので、伝説の不良という事にさせていただきました(^^)。
今のアニメの進行方向では、設定上でも『ボクが守るんだい』は無かった事にされそうな勢いなので、ついでにリクオはまだつららが大事なのだという気持ちに気が付いていない、という感じで描いてみました。

リクオを含め、色々と早とちりや思い込みでさらに話がややこしくなって、そこで終了。という誤解路線で終わるのは初めてだったと思います。
自分の中ではこれで完結しているのですが、続きが気にならないと言えば、嘘になりますね(笑)。


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