パタン・・・リクオは本を閉じると、眉間に手をやり疲れた目を瞬かせた。
「つらら、ちょっと休憩に入りたいんだけど・・」
リクオは机の向こう側に視線を向ける。
その先の畳の上では、正座したつららがせっせと編物をしていた。
「ねぇ、つららってば。」
「は、はい!?若!?」
編物に熱中していたせいか、いつものように直ぐに気付かなかったつららに、リクオは思わず苦笑してしまう。
(そういえば、最近ボーッとする事も多くなったなぁ・・・)
今年の夏は記録的な猛暑という事もあり、つららもきっと疲れているのだろう、とリクオは思う。
それでもこうして何時ものように自分の世話を焼いてくれるのだから、頭が下がるというものだ。
「つらら、悪いけど何時ものやつを用意してくれないかな。」
「はいっ。ただいま!」
つららは元気よく返事をすると、さささっと小走りに部屋を出ると、そのまま自分の部屋の方へと向かって行った。
「・・あれ?台所じゃない?」
いつもはちらりと目をやるだけで、つららが出ていく所までは見ていなかったのだが、今回はたまたまつららの様子が何時もと違った為に、向かう先が台所では無い事に気が付いた。
「おかしいなぁ・・・てっきり台所で作っているとばかり思っていたのに。」
どういう事か気になって、リクオはつららの後を付けることにした。
後を付けてみれば、なんとつららの行き先は自分の部屋。 「な、なんでこんな・・・」 シャリ・・・シャリ・・・シャリ・・・ ゴクリと唾を呑みこみながら、リクオは恐る恐る聞き耳を立ててみると、中から何かを削るが聞こえてきた。 「・・・は!ま、まさか!」 リクオの脳裏に、先ほど夏の課題として読んだ『夕鶴』のワンシーンが頭を過ぎる。 そういえば、アレをつららに頼む回数が増えるようになってから、つららは痩せてきてはいないか? 自分がふと思った事に符合するように、つららの今までの様子がまざまざと脳裏に浮かんでくる。 「はぁ・・・ちょっと・・・無理・・・」 襖の向こうから、つららの微かな声が漏れてくる。 「つらら!!大丈夫!!」
「え?つららの部屋?」
しかも何故か、襖に『危険!入るべからず!!』の張り紙が貼ってあった。
鶴は、何を使って織物を作っていた?
つららがアレを作って帰ってくるのに、だんだんと時間がかかるようになっていたのではないか?
その言葉に心臓が飛び出しそうになるほど驚いたリクオは、勢いよく襖をスパーンと開け放った。