ぞろりと続く、百鬼の群れ。
その先頭を行くリクオが、百鬼を従えて弐條城へと向かっていた。
「おい、猩影。」
「なんでしょうか、リクオ様。」
もうすぐ弐條城へとたどり着こうというこの時に、一体なんだろうと猩影は不思議に思いながら、リクオの側へと走り寄っていく。
リクオを見るフリをしながら、その実、直ぐ傍に居るつららをじっと見ながら近付いて行く。
すると、自分の視線に気が付いたのか、つららがこちらの方を見て、目と目が合ってしまった。
猩影は臆面することなくニッコリと笑いかけると、つららもまた釣られてニコリと笑い返してくれる。
それが、猩影にはとても嬉しかった。
「おい、早くしろ。」
「は、はい。」
猩影とつららの様子に気が付いたのか、それともつららを少しでも長く見ていようと歩を緩めた為に遅れた事を、それとは気付かず単に責めただけか。
リクオの側まで寄ってみれば、リクオは手招きで顔を寄せろと指示を出してきた。
何か他の者に聞かれては困る事でも言うつもりなのだろうか?
それともまさか、今の事で釘を刺すつもりだろうか?
「何か御用でしようか、リクオ様。」
そんな内心の焦りを全く顔に出すことなく、猩影は腰をかがめて自分の耳をリクオの顔の側へと寄せた。
リクオは満足そうにニヤリと笑うと、猩影だけに聞こえるような小さな声で話しかける。
「これから先、どんだけ激しい戦いが待っているか分からねぇ。」
「はい。全力で戦います。」
そんな事を確認するためなのか?といささか拍子抜けしたが、他にも何か言いたそうだと感じ取った猩影は、そのままの姿勢で待ち続ける。
「それもいいが・・・お前には、一つ頼まれごとをしてもらいたい。」
「俺に・・・ですか?」
「ああ、そうだ。」
一体何を頼むつもりだろうかと、猩影は訝しむ。
側近を通り越して自分に頼みごとというのは、普通ではない。
そもそも、自分はリクオに従っているつもりは無い。別の理由で同行しているだけだ。
そのついでに品定めもしているのだが。
自分の思いなど知らぬとはいえ、よくもまぁ信用できるものだと勝手に呆れてしまう。
「いいか、もし・・もしもだ。万が一、俺とつららが離れ離れになってしまったら・・・」
何故ここでつらら姐さんの事が?
猩影は思わぬ名前をリクオが発した事に驚き目を見開く。
「あいつを守れ。ずっと側に居るんだ。いいな。」
「へ?そ、それが頼みごと・・・ですか?」
側近を守れなど、おおよそ妖怪の主らしからぬ物言いだ。
確かにリクオは仲間を大切にしているが、まさかその中から一人、つらら姐さんだけを指名するとは。
「ああ。宜しく頼む。」
前々からそうではないかと思っていたが、中々の御執心で。そう猩影は心の中で呟く。
とはいえこれは自分にとって願ったり叶ったりだ。
堂々とつらら姐さんと一緒にいる理由ができたと、嬉しくて笑いたくなる。
「任せて下さい。しかし、俺でいいんですか?」
嬉しさを隠すため、つい念押ししてしまう。
まさかこれで言葉を覆す事など無いとは思うが、それでも猩影はごくりと唾を呑みこみ、リクオの返事を待つ。
「ああ、猩影でなきゃダメなんだ。」
その言葉にドキッと目を見開き驚いてしまう。
(俺の気持ち、まさか気付いていないよな?)
いや、それなら俺に守れなんて言うのは、かえって危ないとは思わないのか。
それとも、全てを承知の上で、俺なら必ず守り通すとでも思っているのか。
「分かりました。必ずお守りします。」
「頼んだぜ。」
リクオは満足そうに笑うと、ようやくたどり着いた弐條城へと続く橋を渡り始めた。
思っていたよりも長くなったので、2部に分ける事にしました。
本誌第百二十三幕で、猩影とつららが一緒に居たシーンを見て思い付いた作品です。
まぁ、実際はリクオがこういう事を人に頼んだりせず、つららに『絶対に離れるなよ』と言っているに違いない、と勝手に思い込んでいますが(笑)。