リクオ達は、雑魚どもを蹴散らしながら、弐條城の中を奥へ奥へと突き進んでゆく。
「チッ。」
その中で、猩影だけが面白くない顔で舌打ちしていた。
何せここまで、つららは常にリクオの側にべったりだ。
自分がつららを守るように言われたのは、リクオと離れてしまった時だけ。
弐條城の入口でこそ側に居れたが、それもほんの僅かの間で、いい所を見せる暇もなかった。
今もまた、新たに出てきた妖どもを、リクオとつららの見事な連携で倒していた。
もちろん他の側近や奴良組の妖怪たちも活躍しているが、やはり『個々』で戦っているにすぎない。
リクオが右の敵を斬れば、つららは左の敵を凍らせる。
つららが氷の息吹で妖どもの動きを一瞬止めれば、動きを止めた妖をリクオが絶妙のタイミングで斬り伏せていた。
まるで互いに次に何をするのか分かっているかのような戦いぶりに、猩影の心中は穏やかではない。
(俺も姐さんとあんな風に戦えれば・・・)
リクオの立っている場所に、つい自分を投影してしまう。
つらら姐さんの巧みな技で敵を翻弄し、自分の力強さで敵を粉砕する。
良い組み合わせだと自分では思うのだが、生憎それを許さない邪魔者がいる。
それが自分の大将になろうという人物であったとしても、それが不遜な思いであっても、猩影は全く気にならなかった。
「この鬼の統領たる鬼童丸が・・・」 城の中に居たはずが、いつの間にか巨大で不気味な門の前で、鬼達と対峙している事に、猩影はゾクリと自分の血が騒ぐのを感じた。 だが・・・ 「あ!」 リクオと鬼童丸が戦い始めた時、つららが鬼童丸に斬られそうになったのを見て、一瞬動きが止まってしまった。 間に合わなかったからではない。 なぜ、自分はあそこに居ないのか。 彼女が奴の側近でなければ、遠慮などしないのに。 猩影の頭の中でぐるぐると、様々な思いが交錯しては消えてゆく。 「猩影くん!何ボーっとしてるの!」 求め続けていた声にハッとしてみれば、目の前で一人の鬼が凍りつき、そして粉々に砕け散っていた。 「ほら、シャキっとして!関東大猿会の組長たるものが、敵に呑まれてどうするんですか!」 別に敵に呑まれていた訳じゃないんだけどな・・・とは口が裂けても言えない。 「守るはずが、守られちゃいましたね。」 そういう意味じゃないんですがね・・・と猩影は気付かれない程度に自嘲気味に笑う。 まぁ、それでも今は・・・ 「よしっ、一緒に戦いましょう!姐さん!」 棚ボタとはまさにこの事。 新たな敵を求め、つららと猩影が共に駆け出す。 奴良組と鬼達との戦いの中で、つららの息吹に乗って、猩影の咆哮が木霊した。 せっかくなので、最後に良い思いをしてもらいました。
ズズズズズ・・・
強い敵がウヨウヨいる。
そいつらとこれから戦える。
それが、猩影の中に流れる狒々の血を滾らせたのだ。
リクオがつららを抱き寄せて庇い、二人が寄り添うようにして鬼童丸と対峙したのを見てしまったから。
なぜ、自分が守ることが出来ないのか。
なぜ、よりによってあの二人なのか。
彼女が惚れているのが奴でなければ、無理やりにでも振り向かせるのに。
彼女を奴が好きでなければ、待てばいいだけなのに・・・
その砕けた氷の向こうから、つららが猩影に駆け寄ってくる。
「はは・・・姐さん、サンキュー。」
そんな事を言って追求されて、二人に見惚れていたなんて、絶対に言いたくない。
「?何言ってるの?戦いの中で助け合うのは、当たり前じゃない。」
「もちろん!」
向こうからこちらに来てくれるなんて、ね。
もっとイチャつくリクつらを書く筈だったのに、気が付けば猩影がメインになっていました。
猩影が登場するのは久しぶりなのですが、この扱いです。
猩影には片思いが良く似合うんですよね~(笑)。
でも、本来の目的の為に作成した文もあります。
雰囲気が異なるので、「オマケ」とさせて頂きました。
ギャグになってもOKな方は、「オマケ」より続きをお読みください。