「こんにちはー!」
元気な声が複数、重厚な作りの奴良家に響く。
「やあ、いらっしゃい、皆。」
ひょこり、と顔を出したリクオは、いつもの着流し姿で、にっこりと笑う。
「奴良くん、すまないね、遅くなって。」
「ちょうど準備が出来たところだよ。さ、上がって。」
「お邪魔しまーす。」
ぞろぞろと靴を脱いで上がるのは清十字団の面々だ。
本日は、中間試験前の勉強会である。
他の妖怪達があまり出入りしない奥の座敷に皆を通し、大きめの座卓を机替わりにしつらえる。 「今日は、お爺ちゃんのほうにもお客があるみたいだから、東側の方は、入れないんだ。ごめんね。」 とリクオは頭をかく。 (…うう。妖怪屋敷でおやつや夕飯を食べるなんて、竜二兄ちゃんに知られたら、ものすっごい嫌味を言われそうや…。 「見ろ、ゆら君も、すっごく落ち込んでるじゃないか…!あああ、すっごく残念だ~!」 「ま、他の所は後日、改めて…ね…?」 「おお!是非とも!ねっ?ゆら君!?」 「う、うん、そやな…ハハ…。」 「本当にもう、突っ走るなぁ、清継くんは。」 巻と鳥居が呆れたように笑う。そこへ、すらりと襖が開いて、 「あらあら、賑やかねぇ。いらっしゃい、皆。」 おっとりとした声でニコニコと顔を出したのは、若菜だ。お茶を運んできたらしい。 にっこりと笑って会釈するカナに、若菜も笑顔だ。 「まあ、カナちゃん。なんだか、どんどん美人になっていくわね~。やっぱり、モデルさんは違うわねぇ。」 「そ、そんなこと…!」 照れて頬を染めるカナだが、若菜に島がうずうずと声をかける。 「ども、お邪魔してます!…あ、あの…及川さんは…。」 「先に行ってるんじゃないの?」 と一蹴された。期待して来たのだが、未だに愛しい彼女の姿は見えない。 ひょい、と若菜が振り返ると、襖の影から、 「はい?」 明るい声がして、白いワンピース姿のつららが顔を出した。 「お茶、お持ちしましたよ~。」 「その…お手伝いして貰ってたのよ。ね?」 「そ、そうなんです。ちょっと早く着いたので、暇だったものですから…!」 「おお、流石は及川さん…!」 「良いお嫁さんになるよ。」 「むしろ、私がお嫁さんにしたいわ。」 一番に気をつけるべき陰陽師のゆらが、こちらの事を知っているのだから、問題はないだろう。 「はい、どうぞ、島君。」 「あ、ありがとうございます!」 緊張した島が勢い込んで動いたために、お茶が溢れて氷麗にかかった。 「キャッ…!」 「お、及川さん…!」 リクオが叫び、すぐさま氷麗に駆け寄る
「学生の本分は勉学だからね!僕が教えてあげるよ!」
というのは口実で、妖怪屋敷である奴良家に行きたい清継の趣味である。
勿論、祖父に客というのは口実で、妖怪達の避難区域を設けたのだ。妖気を感じるゆらは、承知の上である。
あれや、これは敵陣視察やねん。いつか倒すための下調べや。
だから、うちは悪いことしとらん…。)
眉間にしわを寄せてブツブツと言うゆらに、清継は
鼻息の荒い清継に、ゆらは弱々しく笑う。
「お~い、勝手に話を進めるな~。」
「あ、リクオ君のお母さん!お邪魔してます。」
集合した時から、彼女の存在を探していた島だが、皆に
「ああ、氷麗ちゃんなら…。」
うっかり、いつも通りに言いそうになり、若菜が問えば、氷麗もにっこりと返す。
わやわやと笑う皆を他所に、お茶を用意する氷麗の手元をリクオは冷や冷やした目で見ている。
茶托に茶碗が乗せられているのは、毛娼妓あたりの気遣いだろう。
(この調子なら、今日は大丈夫かな。)
リクオがふと気を緩めたその瞬間だ。
皆、色めき立ってハッと腰を浮かした。
「つらら!」