寄り添う

「こんにちはー!」

元気な声が複数、重厚な作りの奴良家に響く。

「やあ、いらっしゃい、皆。」

ひょこり、と顔を出したリクオは、いつもの着流し姿で、にっこりと笑う。

「奴良くん、すまないね、遅くなって。」

「ちょうど準備が出来たところだよ。さ、上がって。」

「お邪魔しまーす。」

ぞろぞろと靴を脱いで上がるのは清十字団の面々だ。
 本日は、中間試験前の勉強会である。


「学生の本分は勉学だからね!僕が教えてあげるよ!」


というのは口実で、妖怪屋敷である奴良家に行きたい清継の趣味である。

 他の妖怪達があまり出入りしない奥の座敷に皆を通し、大きめの座卓を机替わりにしつらえる。

「今日は、お爺ちゃんのほうにもお客があるみたいだから、東側の方は、入れないんだ。ごめんね。」

とリクオは頭をかく。
 勿論、祖父に客というのは口実で、妖怪達の避難区域を設けたのだ。妖気を感じるゆらは、承知の上である。

(…うう。妖怪屋敷でおやつや夕飯を食べるなんて、竜二兄ちゃんに知られたら、ものすっごい嫌味を言われそうや…。
 あれや、これは敵陣視察やねん。いつか倒すための下調べや。
 だから、うちは悪いことしとらん…。)


眉間にしわを寄せてブツブツと言うゆらに、清継は

「見ろ、ゆら君も、すっごく落ち込んでるじゃないか…!あああ、すっごく残念だ~!」

「ま、他の所は後日、改めて…ね…?」

「おお!是非とも!ねっ?ゆら君!?」

「う、うん、そやな…ハハ…。」


鼻息の荒い清継に、ゆらは弱々しく笑う。


「お~い、勝手に話を進めるな~。」

「本当にもう、突っ走るなぁ、清継くんは。」

巻と鳥居が呆れたように笑う。そこへ、すらりと襖が開いて、

「あらあら、賑やかねぇ。いらっしゃい、皆。」

おっとりとした声でニコニコと顔を出したのは、若菜だ。お茶を運んできたらしい。


「あ、リクオ君のお母さん!お邪魔してます。」

にっこりと笑って会釈するカナに、若菜も笑顔だ。

「まあ、カナちゃん。なんだか、どんどん美人になっていくわね~。やっぱり、モデルさんは違うわねぇ。」

「そ、そんなこと…!」

照れて頬を染めるカナだが、若菜に島がうずうずと声をかける。

「ども、お邪魔してます!…あ、あの…及川さんは…。」


集合した時から、彼女の存在を探していた島だが、皆に

「先に行ってるんじゃないの?」

と一蹴された。期待して来たのだが、未だに愛しい彼女の姿は見えない。


「ああ、氷麗ちゃんなら…。」

ひょい、と若菜が振り返ると、襖の影から、

「はい?」

明るい声がして、白いワンピース姿のつららが顔を出した。

「お茶、お持ちしましたよ~。」

「その…お手伝いして貰ってたのよ。ね?」


うっかり、いつも通りに言いそうになり、若菜が問えば、氷麗もにっこりと返す。

「そ、そうなんです。ちょっと早く着いたので、暇だったものですから…!」

「おお、流石は及川さん…!」

「良いお嫁さんになるよ。」

「むしろ、私がお嫁さんにしたいわ。」


わやわやと笑う皆を他所に、お茶を用意する氷麗の手元をリクオは冷や冷やした目で見ている。
 茶托に茶碗が乗せられているのは、毛娼妓あたりの気遣いだろう。


(この調子なら、今日は大丈夫かな。)

一番に気をつけるべき陰陽師のゆらが、こちらの事を知っているのだから、問題はないだろう。
 リクオがふと気を緩めたその瞬間だ。

「はい、どうぞ、島君。」

「あ、ありがとうございます!」

緊張した島が勢い込んで動いたために、お茶が溢れて氷麗にかかった。

「キャッ…!」

「お、及川さん…!」


皆、色めき立ってハッと腰を浮かした。


「つらら!」

リクオが叫び、すぐさま氷麗に駆け寄る

 


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