それからしばらく後・・・
最初の方こそ恥ずかしがっていた氷麗であったが、すぐに何時もとは違う昼食を楽しむようになっていた。
だが逆にリクオはと言うと、注目が集まり過ぎているこの状況に、何故か気恥ずかしさを感じるようになってきていた。
「はい、リクオ様。次はデザートですよ~♪」
つららが周囲の目を気にしないことがたまにあるのは知っていたが、まさかここまでとは誤算だ。
恥ずかしがる姿を見て楽しみたかったのに、完全に当てが外れてしまった。
しかも、氷麗が平然としていると、何故かこちらが周りを意識して恥ずかしくなってくるのだから、不思議なものだ。
「どうですか?美味しいですか?」
「あ、ああ・・・」
最後の一口を食べ終わると、氷麗は体をリクオとは反対側に捻って、弁当箱を片付け始めた。
リクオは突き刺さる視線とヒソヒソ声にいい加減我慢できなくなり、ベンチの上でゴロリと体を横たえて、無防備な氷麗の膝の上に頭を乗せた。
「リクオ様!?」
「もう寝る。」
「ま、待って下さい。午後からの事の打ち合わせをするのでは・・・。」
そういやそんな事言ったっけ、とリクオはちらりと氷麗を見るが、再び視線を横に戻すと目を瞑った。
「もういい。・・・いや、子守歌代わりに聞かせてくれねぇか。」
「そ、そんな無茶苦茶な。」
慌てる氷麗の声に、ふっと満足した笑みを浮かべると、何故か急に強い睡魔に襲われて、そのままリクオは本当に眠ってしまった。
「もう、本当に寝てしまうなんて。本当に困ったものだわ。」
そう言いながらも、氷麗は子どもを見守る母親のようにリクオを優しく見つめながら、頭をそっと撫でつづけていた。
「リクオ様~、あと5分ほどで授業が始まりますよ~。起きて下さ~~い。」
先ほどからゆさゆさと自分の体を揺さぶりつつ、起きて下さいと声をかけてくる氷麗の声に、リクオは完全に固まっている。
氷麗の位置からは見えないが、既にリクオは目を大きく開けていた。
そして、自分の今の状況に、全身から冷や汗を掻いている。
(な、なんでこうなったんだ!?)
記憶はある。夜のボクが何故か朝になっても出てきて、好き放題したということも。
しかし、なぜ、このタイミングで元に戻ってしまったのか。
この後どう振る舞えば、クラスメイトの手を振り切って学校を無事に出られるか。
いや、明日から平和な学校生活を送ることが出来るのか。
(何て事をしてくれたんだ、夜のボク~~~~~!!)
自分もまだしたこと無いのに・・・あ、いや、そこは重要では無くて。とリクオは頭の中をグルグル回転させる。
「もしかして、寝たふりですか?それなら耳に『ふー』しますよ?」
とうとうリクオが起きている事に気がついた氷麗が、恐ろしい事を口走ってくる。
これが普通の恋人同士であれば、イチャつきの延長にすぎないだろうが、氷麗の『ふー』は恐ろしい破壊力を持っている。
何せ雪女の冷気のこもった息だ。
その冷たさに一発で目が覚める・・・どころではなく、下手すればそのまま永眠するのではないか、というほどの冷たさだ。
まさか学校でする訳が無い、と思いつつも、リクオはガバッと跳ね起きると、一目散に駆け出した。
「それじゃ氷麗、放課後に!」
目も合わせずに、真っ赤になりながら走り去っていくリクオを見て、氷麗は首を傾げる。
「あれ?そんなに嫌だったのかしら?」
夜のリクオ様なら、むしろ喜んでくれると思ったのに。と誰かに聞かれれば確実に誤解されるような事を呟きながら、氷麗はじっとリクオの後ろ姿を見つめ続けていた。
しかし、題名負けしていますね、これ。 ふと思いたって、人間に化けている状態のつららを『氷麗』表記にしてみました。
fin
リクオが元に戻ったので、もう続きません(^^)。
最後はつららのターンで締めくくってみました。
普段からイチャついていそうな二人ですが、派手にやらかすのもたまにはいいかな~、とふと思いまして。
やり過ぎた感もあったし妙な所もあったとは思いますが、十分楽しみながら作ることが出来ました(^^)。
誑かすって、誑かしているのは前半だけな気がします。
いや~、物書くのって、難しいですね。
ほんとになんとなーくなんで、大した意味は無いのですが、違いを表わすのにいいかなー、と思いまして。
本誌で変化が無い限り、今後もこの方向で行ってみようかと思います。