リクオ、つららを誑かす ~昼休み

昼休みになって、皆思い思いの昼食を始めようとした頃、リクオと氷麗が教室の入口でクラスメイト達に囲まれていた。
氷麗がつい心配して教室へとやってきたのだが、それがいけなかったのだ。

「で、どうなの?奴良くんとは?」
「くそ~~~~、分かっていたけど、分かっていたけど、お前何もあそこまでやらなくっても・・・。」
「やっぱりお昼に抜け出ていたのって、一緒に食べる為?」

様々な事を矢継ぎ早に言われ、半ばパニック状態になった氷麗がすがるようにリクオを見るのだが、それさえも更にクラスメイト達を興奮させる材料にしかならない。
そんな中、リクオだけがすました顔で平然としていた。

「食事をしたいんだけど、行かせてくれないかな(棒読み)。」

とりあえずこの状況から抜け出す為に、いつもの昼のリクオのつもりで言ってみたのだが、あまり上手くいっているとは思えない。

「お?おお、悪いな。」

まさか俺が動揺しているのか?と焦り始めたリクオだったが、クラスメイトは単に何の反応も見せてくれないと感じたらしく、からかい甲斐が無いと囲みの輪を解いた。
その中から氷麗の手を引いて出ると、リクオはふと思い立ったように、去り際にわざと聞えよがしに声を出した。

「氷麗、いつも弁当作ってくれてありがとな。で、今日のおかずは何だ?」
「は、はい♪今日はですね、鮭たま焼きと、ほうれん草のごま風味炒めと、それと・・・」

嬉しそうにリクオの問いに答える氷麗と、ニコニコと氷麗に微笑みかけるリクオを、クラスメイト達はしばし呆然としながら見送った後、盛大な悲鳴を上げ噂話で持ちきりとなった。

 

 

 

「そうだな、氷麗。今日は屋上で食べるのは止めようか。」
「え?どうしてです?」

では一体どこで食べる気ですか?と氷麗は首を捻ってリクオの顔を見る。

「上じゃあ邪魔が入りそうだしな。どこかいい所はねぇか?」

出来れば人気のない所で・・・とボソリと続けて呟いたが、それは氷麗に聞こえること無く、彼女はしばらく考えをめぐらした後、ペカーと顔を輝かせてとんでもない事を言った。

「中庭ではどうですか?」
「へ?」

あんな目立つ所で?とリクオは茫然と氷麗の顔を見る。
彼女はというと、名案を思い付いたと、嬉しそうにはしゃいでいるようにしか見えない。

「中庭って色々と綺麗な花も咲いておりますし、一度近くで良く見てみたかったのです。」
「はあ・・・」
「それに、ベンチもあってあれだけいい場所なのに、誰もあそこで昼食を取っていませんからね。穴場ですよ?」

それは違う、違うぞつらら・・・
夜のリクオでも、それぐらいは分かる。
あそこは景色がいいのに誰もいないんじやない。
庭に面した教室や廊下からなら、何処からでも眺めることが出来るほど良すぎるから、誰も居ないのだ。
学校中の生徒の視線を集める事間違いなしの場所で、一緒に昼食を食べようと提案しているのか、この側近は・・・

 

「はい、リクオ様。どうぞお食べください♪」
「へ?」

固まってしまっていたリクオの思考が元に戻った時には、いつの間にか中庭のベンチに座っていた。
そして氷麗はすぐ隣に座り、既に弁当を広げている。
周囲をキョロキョロと見てみれば、まるで珍獣でも見つけたかのような好奇の目をチラチラと向けている生徒が何人もいた。

「ふぅ・・・こうなったら、毒食らわば皿まで、というやつだな。」

覚悟を決め溜息を吐くと、氷麗がぷうっと頬を膨らませてリクオを睨んで来た。

「ムッ、何を言っているんですか。私の手料理がそんなに不味いとでも?」
「そういう事じゃねぇよ。こうするって事だ。」

そう言うと、リクオは自分の手にいつの間にか持たされていた箸を、氷麗の手に握らせた。

「ま、まさか本当に食べたくないと・・・」
「ん~~、まぁ、ある意味そうだな。俺は食べない。」

いったい何がどうなっているのだと、オロオロと慌てる氷麗を見て、つい嬉しくなってしまう。
しかし、どうにも今日は自制心が利かない。いや、いつも自制しているかといえばそうでもないと自分でも思うが・・・

「だから、お前の手で俺に食わせてくれ。」
「はい?」

しばらくリクオの顔を見たままの姿勢で固まった後・・・氷麗は今日何度目か分からない火を顔から吹いた。
そんな氷麗の様子にまるで気付いていないかのように、リクオは平然とした顔のまま、氷麗の箸を持っている手を取って、弁当箱の中のおかずをつつかせた。
つまるところ、早く食べさせろ、と。

「ほれ、今日は色々あって時間がねぇんだ。午後の事も聞いておきたいしな。」
「うう・・・分かりました。」

主は本気で言っているのだと気が付き抵抗する事を諦めた氷麗が、箸でおかずを掴むとリクオの口元へと持っていく。
せっかくだから普段出来ない事を楽しもうじゃないかと、リクオは嬉しそうな目をしながらパクリと食べ始めた。

 

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