学校のグラウンドで、汗まみれになったリクオが休憩の為にベンチのある方へと向かう。
「リクオ様~~。お疲れ様です~~。」
「うん、氷麗、ありがと。それと、『君』ね。」
「す、すみません。・・ああ!」
リクオの言葉に慌てて、つららは手渡たそうとしていたタオルを落してしまう。
だがそれを予測していたのか、リクオはさっとそれを掴みとると、タオルで汗を拭きつつ、相変わらずドジだなぁとじっと氷麗を見た。
体操着を着た氷麗は、中学の時とは違い、リクオと同じ高校に在籍していた。
リクオが3代目になってからはや3年。
その間にリクオの背は夜の姿の時と随分と差を縮め、顔つきも幼さと凛々しさが合わさった様相へと変わっていた。
つららもまたリクオの年齢に合わせて人間時の年齢を上げている為、雪女らしい妖艶さ・・・まぁ、元が可愛らしいのでそれほどでもないが・・・もかもし出すようになり、ますます美しさに磨きがかかっていた。
その為まとわりつく男共が多くてリクオを悩ませているのだが、つららもまたリクオがモテるようになってきた事に益々ヤキモチを焼くようになっているのだから、お互い様というところだろうか。
「おう、リクオ。お前相変わらず足速いな~。次の試合、やっぱお前がサイドバックだな。」
同じサッカー部の先輩が、嬉しそうにリクオに話しかけてくる。
彼は中学時代からのサッカー部の先輩だった。
「ありがとうございます、井伊先輩」
「よかったですね、リクオ君。」
「島君がいれば、もっと良かったんだけど・・・」
「あ~、あいつは別格だろ。」
仕方が無いさ、と井伊先輩は両手を上げた。
リクオは中学2年になってから、島の誘いでサッカー部を兼任するようになった。
つららも付いてきて大喜びした島だったが、やがて二人が公認のカップルとなり、恋破れた島はサッカーの名門高校に推薦入学して去っていったのだ。
リクオの方はというと、高校になってもなんとなくサッカー部を続けていた。
体を動かすのが楽しいというのもあるし、何より人間の学校生活を満喫している気分になれる。
「リクオ君。今日は怪奇探偵団もありますよ。」
「あ、そうだっけ。」
「なんだお前ら、まだやってんのか。」
「はは・・・」
リクオは同じ学校に入った清継とカナと共に『怪奇探偵団』を作り、兼部して活動していた。
巻と鳥居は残念ながら別の高校に行ってしまったが、二人は『民俗学研究会』を立ち上げて、『交流会』と称して今でも『怪奇探偵団』として一緒に活動している。
これにはもちろん島も入っていた。
冷や汗を掻くリクオを他所に、井伊先輩はつららの用意していたワッパの中の物をひょいと摘まんで口に入れた。
「うん、及川の用意したレモンの蜂蜜漬けは、いつも冷んやりしていて美味しいな。」
「褒めても何も出ませんよ~。」
冷麗に教えてもらったレモンのスライス蜂蜜漬けは、サッカー部の皆から大人気だ。
そこには氷麗が作ったら、というのもあるかもしれないが、良く冷えた蜂蜜漬けは、熱くなった体にとても心地良いのだ。
「よし、氷麗。早く着替えて、待ち合わせの場所へ行こうか。」
「はい!」
「お前ら、ほんと仲良いな~。羨ましいぜ。」
中学生の頃から二人の仲を見せつけられ続けていた井伊先輩は、実はとっくの昔に氷麗にフラれていたのだか、今ではリクオと氷麗の仲を応援してくれている。
そんな井伊先輩のからかい半分の言葉に二人とも少しばかり顔を赤くしながら、他のメンバーに挨拶してグラウンドを去っていった。
「はぁ~~、これぞ学校生活だよね。」
「はい、リクオ様。」
その後、今の環境をとても楽しんでいるリクオと氷麗が、手を取り合って下校していく様が見られたという。