愛情No.1 ~その6

残されたリクオ達が茫然としていると、廊下の向こうから、黒羽丸が小さな土鍋とお椀を持って歩いてきた。

「はて、黒羽丸は雪女の部屋に居たか?」

「いや、居ない。粥の準備をしていたからな。」

そう言いながら、黒羽丸は軽く手に持った土鍋を持ち上げる。
そんな黒羽丸に付いていく形で、リクオ達は再びつららの部屋へと入った。

黒羽丸はそのままつららの枕元に座り、粥の準備を始める。
早くも体力が回復し始めていたリクオもまた、黒田坊の背中から降りて黒羽丸とは反対側のつららの枕元に座った。

「ねぇ、黒羽丸。お粥だとつららには熱過ぎない?」

「大丈夫です。雪女一族秘伝の粥ですから。」

当然のように答える黒羽丸に、リクオは驚きの声を上げた。

「へ?なんでそんなこと黒羽丸が知っているの?」

「雪女が幼い頃、このように風邪を引いた事があります。」

リクオの質問に、黒羽丸はつららをじっと見つめながら答えている。
その表情は、まるで昔の事を思い出して目を少し微笑ませているようにも見え、リクオは何故か少しムッとした感情を抱いた。

「うん、知っている。」

「その時、雪女の母上から教えて頂いたのです。」

「教えてもらった?」

「はい。私は雪女と仲が良かったので。」

「ふ、ふーん・・・。」

リクオの返事には、今度は明らかに不満が含まれているのが手に取るように分かる。
自分の知らないつららを良く知っている者が目の前に居て、こうして一番つららに良さそうな事を実行しているとなれば、気が気でないのは当然なのかもしれない。
それを感じとった黒羽丸は、粥の支度を終えると『フッ』と口元を綻ばせ、リクオにお椀と木のスプーンを手渡した。

「さ、若頭。雪女に食べさせてあげて下さい。」

「え?」

てっきりつららに渡すとばかり思っていたリクオが、きょとんと自分の手の中に収まった物と、黒羽丸とを見比べる。

「やはり、この中で一番愛情の深い者が、食べさせる者として適任かと。」

「ええ?」

冗談でも言っているのか?とリクオは思ったが、黒羽丸の顔付きは何時も通り、どこまでも真面目一本だ。

「最初に言ったではありませんか。大事なのは『愛情』なのだと。」

そう言うと黒羽丸はニコリと微笑み、お辞儀をして他の者達と共につららの部屋を後にした。

「え?え?ええ~~~~~!?」

 

その後、互いに照れながらも粥をつららに食べさせるリクオの姿を側近達が影から見て楽しみ、翌日には元気なつららの姿が見られたという。

それは

『雪女一族秘伝の粥』の御蔭だとも
『リクオの愛情』の賜物だとも
『リクオの精気』を何度も吸って元気になったのだとも

様々な噂でしばらく奴良邸を賑わした。


End

 

 

自分が寝込んでいた時に思い付いたネタです。つららがリクオを看病するってのいいかも・・って。
ところがアニメの『はい、あーん』のシーンが頭の中で再生され、それで満足して終わりました(笑)。
で、それでは面白くない、と発想の転換で『つららが風邪』と考え、看病を・・・と考えたら、妙な話を思い付いて、そして実際に書いてみたらこんな話になりました。

しかし、キスシーンがあるのに色気が全く無い!(笑)
いえ、あえてそうしたので実に満足しています(^^)。

それにしても、本当に長くなりました。何回かに分けて出そうかとも思いましたが、自分の体調不良が長引いて、結局まとめての掲載となりました。
まぁ、その方がいっきょに楽しめそうだし、良かったのかもしれませんね。

 

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