愛情No.1 ~その5

「ガハハハ、ワシに任せておけ。
 いいか、任侠者の愛情と言えば、仁義!
 俺と雪女の熱い友情で吹き飛ばしてくれるれわ!」

突然巨大な湯呑を取りだしババーンと見得を切った青田坊の横では、毛倡妓とささ美がいそいそと汚れた布団を片付けている。
そして出来上がった空間に、青田坊はどこから取り出したのか、タマゴと電気ポッド、砂糖、生姜、そして何やら頑丈そうな小さな箱を床に並べた。
青田坊は巨大湯呑にタマゴを割って入れ砂糖を加えると、自分の脇に抱え込む。

「まずはこの卵と砂糖を・・・脇をえぐるようによくかき混ぜるべし!かき混ぜるべし!」

バババババ!!と恐ろしい勢いでタマゴをかき混ぜる青田坊に、つららを含めその場に居た全員が茫然となる。

「そしてなめらかになった所で!・・・ポッドで温めておいた日本酒を混ぜながら、さらにかき混ぜるべし!」

あ~、タマゴ酒か・・・と誰もが青田坊のやっている事に気が付き、まともである事にホッと胸を撫で下ろす。
この作り方ならぬるいタマゴ酒が出来上がるので、つららにも丁度良い。
皆が青田坊に感心の目を向け嬉しそうに微笑んだ時、青田坊は最後の仕上げにと、生姜を少し入れてから、さらに小さな箱を取り出しフタを開けた。

「そして出来上がったタマゴ酒にこの焼いた霊石を入れれば!」

「「「え?」」」

ジュワッ!!グツグツグラグラグラ!


それと同時に、凄まじい勢いで湯気が上がり、あっという間にタマゴ酒が沸騰する。

「どんな風邪も吹き飛ぶ、霊石の力も込められた青田坊特製タマゴ酒の完成じゃい!
 どうだ雪女!ワシの熱い友情、受け取れ!」

「ヒィッ!と、溶け・・・」

そう雪女に湯呑を突き出そうとした青田坊の手にするりと紐が絡まり、青田坊の意図とは違った角度にくいっと勢い良く腕が曲がる。

「うぉアチィイイいいいぃい!!!」

「つららを殺す気か。」

顔は笑っているが、明らかに怒気の含んだ声で首無が青田坊を睨みつけた。
そしてその横では、つららの体をリクオが全身で覆って守ろうとしていた。

「青!大丈夫!?」

つららは慌てて冷気を出して青田坊の火傷を冷やそうとしたのだが


ビュウッ・・ピキーン


加減が上手く出来ず、完全に凍らせてしまった。

「ああ、ゴメンなさい、青!」

「・・・まぁ、自業自得ね。」

毛倡妓が溜息をついて変わり果てた青田坊を見ると、黒田坊に頼んで外に放り出した。

つららの方はというと、今のでまた調子が悪くなってきたようだ。

「リクオ様、もう一度。」

「うん。」

「だ、駄目です!・・んうっ」


ズキュウウウーーーーーンン!!


・・・パタリ

「リクオ様!!」

流石に2度目ともなると力尽きたリクオが、つららの前でパタリと倒れた。
すぐに毛倡妓がリクオの脈を取り・・・そしてホッと息を吐くと、大丈夫だとつららを安心させる。

「流石はリクオ様。では、次は私の番ですね。」

そう言うと、首無は毛倡妓と共に新たに布団を敷きながら話を続ける。

「こういう時は優しくいたわるのが一番です。
 安心して寝れる環境を整え、そしてぐっすりと寝てもらうのが一番でしょう。」

ぼんやりとした意識の中、リクオは『だったら大勢で押し掛けずに放っておいた方がマシなんじゃ?』と思ったのだが、残念ながら口に出すだけの気力も無くなっており、そのまま首無のする事を傍観していた。

「まずはつらら、ちゃんと寝なさい。そして、皆は部屋を出るように。」

首無の言葉に黒田坊がリクオを背負い、毛倡妓、ささ美、そして3の口がぞろぞろとつららの部屋を出る。
皆が振り向いて部屋の中を見てみると、丁度首無がつららを布団に寝かしつけていた。

「おい、首無。なぜお主は出んのだ。」

「ん、それはもちろん、安心して眠れるよう添い寝を。」

ぺかーっと笑う首無の頭を、突然毛倡妓の髪の毛がぐいっと縛り付け、そして彼女の胸元と引き寄せた。

「え?毛倡妓?」

「私の目の前で、いい度胸してるじゃない、首無。」

「いや、これはつららの看病のためであって、決して色事では・・・」

焦って言い訳する首無の体を、何時の間にかささ美が羽交い絞めにして部屋から連れ出していた。

「まったく、破廉恥な。」

「ほんと、向こうでお仕置きしないと。」

「お手伝いしよう。」

「あら、ありがとう。」

毛倡妓とささ美がニッコリと微笑みあうと、顔を青くした首無を引き摺って、そのまま別の部屋へと去っていった。

 

その4 その6