『こんにちはー!』
「やあ、奴良くん、すまないね、度々。」 「ささ、皆、上がって。」 「ああ、先日、見せて貰ったあたりだね。今日は、向こうは大丈夫かい?」 「うん。おじいちゃんも今日は…。」 「あ…じいちゃん!」 「おう、おう、元気じゃな。ほれ、飴はいるかい。」 「わーっとるわい。お、陰陽師の嬢ちゃん、久しぶりじゃな。飯、ちゃんと食ってるかい?」 「う…奴良くんの、おじいちゃん…。」 「おお、そうかい。」 そう、リクオは促し、一行はいつもの座敷へと通された。 「いっつも、教えて貰ってばっかで、申し訳ないっす!」 「ファミリーのためなら、ノープロブレムさ!僕も、人に教えることで最も身に付くからね!」 と髪を撫で上げている。 「活動場所は妖怪の出そうな所!」 となるわけだ。 「あれ、カナ?」 「どしたのよ?」 「ありがとう、カナちゃん。」 「ほほう、これはこれは。」 「新たな嫁候補ですなぁ。」 「いいのよ、いつもお邪魔してばっかりだし。」 照れるカナに、 「お?顔が赤いですよ-?奥さん!」 「ああ、氷麗なら…。」 リクオが何と言おうかな、と言葉を濁した瞬間、 「はい?」 予想外にカナが早く現れ、手伝いを買って出たため、台所から追い出された格好の氷麗である。
元気な声が複数、重厚な作りの奴良家に響く。
「いらっしゃい、皆。」
玄関で出迎えたリクオは、いつもの着流し姿で、にっこりと笑う。
『お邪魔しまーす。』
ぞろぞろと靴を脱いで上がるのは清十字団の面々だ。
本日は、期末試験前の勉強会である。先だっても、中間試験にむけて勉強会をしたが、奴良家の妖怪達もそろそろ慣れてきたようだ。
「今、北の方に工事が入ってるから、そっちの探検は…いいかい?」
言いかけたところで、ちょうどよく、ぬらりひょんが現れた。
「おう、リクオ、友達かい。」
すらりと襖が開き、廊下にひょこりと顔を出した妖怪の総元締めは、ぬらりくらりと笑って、まさに好々爺である。
「おじゃましてます!」
と、宇佐美ばあさんの店からちょろまかしたまずい飴を振る舞っている。
リクオも、最初こそ驚いたが、もはや慣れたものだ。祖父の畏れは、人に気づかせぬ力なのだ。
「もう、おじいちゃん、今から勉強するから、邪魔しないでよ。」
正体を知っているゆらは、あまりに堂々としたぬらりひょんの態度に、小さく肩を落とすと
「…はい。お陰さんで、何とかやっとります。ひい…おじいちゃんも、宜しく言うてましたよ。」
暗に、13代目秀元のことを目配りしあう。
「ささ、皆、立ち話も何だから。」
「中間試験の時、お陰で成績良かったんだよね~。」
助かった、というように笑う巻と島に、清継は笑って
皆が集まれるほどの屋敷の広さと言えば、清継の家でも一向に構わないのだが、そこは清十字「怪奇」探偵団なのだから、
(ま、うちはお土産貰えて、満足やし…?)
ゆらは以前、奴良家の秘密を隠すのを手伝った共犯として、報酬に貰った重箱に味をしめた様子で、
「ご先祖様は、『妖怪にメシを食わすな、家に上げるな』言うたんや。逆はするなとは一ッ言も言うてへんもんな~。」
と、開き直り気味である。
そこへ
「お茶が入りましたよ~。」
と、若菜とともにカナが入ってきた。
鳥居達が素っ頓狂な声を上げて驚く。カナは今回、現地集合する、とだけ言っていたのだが、まさか既に屋敷に来ていたとは。
「ふふ、ちょっと早く着いたから、お手伝いしてたの。」
若菜に続き、茶や菓子を配る姿に、巻と鳥居は
などと囁き、ニヤニヤとリクオの方を眺める。
「ごめんね、カナちゃん。お客さんなのに。」
そう言って笑う姿に、清継も
「いやあ、家長さんは良いお嫁さんになれるねぇ。」
などと頷いている。
「や、やだなあ、もう。」
などと鳥居達がからかう中、キョロキョロとしていた島が、リクオに声をかける。
「な、なあ奴良…及川さんは…。」
明るい声がして、ボーダーのニットワンピース姿の氷麗が顔を出した。
「皆さん、お待たせしました。遅れてごめんなさい。」
流石に、いつも氷麗ばかりが早く着くというのもおかしな話なので、今回は屋敷の中に隠れて、後から登場したのである。