「お、お願いだから、その、協力して!」
「あ、布団ですか?」
「そうじゃなくて!」
と囁いた。その言葉に、ああ、これが噂の、と猩影は頷くと、にこりと笑って と笑うが、 「そんな、皆に変に思われちゃうわよ!」 「その前に、はっきりさせておきたいことがあるの!リクオ君、私に隠し事してるでしょう!?」 と、猩影は氷麗の肩をひょい、と抱き寄せた。 「へっ!?」 「ああっ、お前、何して…!」 「ちょ、リクオ君!?」 まだ話は終わっていないと声を上げるカナ。 清継の勢いに飲まれ、無理矢理に清十字団は引きずられていく。 無論、事態を伺った毛娼妓が一芝居打ってくれたのだが、妖怪役に、白いシーツを糸で操る首無も、暗がりで罠を仕掛けて足止めを食らわせる小妖怪達も、オチの野良猫を捕まえてきた河童も、 「…う~ん、あの動き、猫ではないと思ったんだがなあ。」 「ほんまに、何かの気配は感じたんやけど…(棒読み)」 「もしかして、あの野良猫、化け猫だったんすかね?」 「おお、島くん、良いことを言うねぇ!猫は、13年生きると猫又になるというから、もしかしたらなりかけかもしれないぞ!」 「え~?しっぽ、一本じゃなかった?」 「結構、可愛いやつだったけどなぁ。」 (…なんか、誤魔化された気がする…。) 一人、門の前で 「じゃ、私はこちらですので!さようなら~。」 (…家、あっちなんだ…?) (…いつか、絶対に、聞き出して見せるわ!) つい、先だって、リクオへの何らかの執着心や、氷麗への嫉妬心に気づいたばかりなのだが、早くもずれて来ていることには気づいていないようだ。 * 「お疲れ様、氷麗。」 「…もう、疲れました…。」 「ごめんね、やっぱり今日は、奥で休んで貰ってれば良かったね。」 「うう…。」 「今夜は、ゆっくりしようね。」 と誓ったのだった。
氷麗は猩影の耳をくい、と引っ張ると、
「リクオ様の、人間のお友達よ!」
「良いんじゃないですか?とりあえず、嘘じゃないんだし。」
涙目のつららに、おや、と眉を上げた。
ふと見やると、巻も鳥居も、好奇の目でこちらを伺い、島は嫉妬の目でこちらを睨んでいる。
不思議そうに事態を見やっているのは清継と、ゆらくらいであろう。
(ふ~ん、相変わらず、学校の友達には、姐さんのこと、何も言ってないんだ?)
猩影は、カナに詰め寄られて、たじたじになっているリクオに、不適に目を細めると、形良い顎に手を当てて何事か考えている。
「あ、あの、家長さん!そろそろ、勉強を再開しないと…!」
リクオに助け船を出す氷麗だが、
幼なじみの間柄で、こんな水くさいことはない、昔は何でも話したのに、とカナは詰め寄るが、リクオはまさか、
「いろいろと隠しています。」
と言えるはずもない。
あわあわとしていると、
「リクオ様、取り込み中なら、姐さん、借りて良いですか?」
驚く氷麗に、抗議の声を上げる島。
「ちょ、ちょっと待てっ!猩影っ!」
目の色を変えて慌てるリクオに、
次第に収集がつかなくなってきた頃、
「きゃー!お化けー!」
毛倡妓の間の抜けた悲鳴が響き渡った。
「何だって!?」
俄然、清継の目が光った。ゆらも声の方向へ走り、
「ああっ!?妖怪や-!?(棒読み)」
と辿々しく叫ぶ。
「なんだって!どこだい!?ほら皆、そんなことは後にして!」
「あそこやー、今、おかしな気配がっ(棒読み)」
ゆらの迫真(?)の演技と、清継の勢いに誤魔化され、カナは何が何だか分からぬうちに奴良家の暗がりを走り回る羽目になってしまった。
「これほどまでに人に気を遣って人を驚かせたのは初めて」
だったという。
*
しばらくの騒動の後、夕刻になって帰路についた清十字団だったが、
等と、珍しく妖怪話に華を咲かせている。
「もう、妖怪なんて、そうそう居ないよ…ただの猫に見えたけどな…。」
そう言って肩をすくめるカナは、いつの間にかリクオに聞きそびれた事が胸にわだかまっている。
と分かれた氷麗を思い出す。
ますます謎が深まる氷麗に、首をかしげる。
雨上がりにきらめく夕暮れに、誓うように、カナはグッと拳を握る。
「ただ今、帰りました~。」
清十字団が、無事に帰路についた事を確認し、そっと本家に戻ったつららは、出迎えてくれたリクオに頭を撫でられ、涙目だ。
騒動の半分は、自分の失言のせいでもあるのだが、今はただ、リクオの顔を見てほっとするばかりだ。
囁くリクオの言葉に、つららは一瞬、硬直し、そっと頬を染めて頷いた。
「…はい…。」
可愛らしいその顔に、満足げに笑いながら、リクオは胸中で
(とりあえず、猩影を一度、しめよう。)