バラバラバラバラ・・・・
N.R.A.R.S.と銘打ってあるヘリが、森の上空を飛んでいる。
このヘリに乗るN.R.A.R.S.(通称ヌラーズ)の隊員は、警察の中でも精鋭中の精鋭を集めたエリート集団なのだが、その中におおよそこの場に似つかわしくない、艶やかな長い黒髪と金色の瞳を持った東洋風の小柄な美女、いや美少女がいた。
彼女は及川氷麗・・・いや、コードネーム『雪女』は、先日N.R.A.R.S.に着任したばかりの新人だった。
若干18歳で隊員になるという異例の抜擢で、その愛らしい外見のせいもあり、多くの者が彼女を子ども扱いし・・・そして手酷い目に遭っていた。
今では彼女の実力は誰もが認めるものとなり、そして今日、初任務にチームと共に出動したのだ。
「親父殿、もうすぐ目的地上空に差し掛かります。」
「馬鹿者っ!今は作戦中じゃぞ、隊長と言わんか!隊長と!」
「別にいいじゃないですか、これぐらい。リラックスすることも大切ですよ。」
ネージレメ山地で、次々と人間が食い殺されるという怪奇事件が発生し、ウキヨエシティ警察は、事件の解明と事態の収拾の為にN.R.A.R.S.バードチームを派遣した。
「何を言う首無。お前ら本当に分かっておるのか?今回の任務は、未知なる脅威と遭遇する可能性が高いのじゃぞ。」
様々な事態への対処能力に於いて優れているこのバードチームを率いるのは『烏天狗』。
その義理の息子でありパイロットの『黒羽丸』と、美形で知られる『首無』の3人のやり取りを、氷麗は奇妙な顔をしながら眺めていた。
その表情は、隊長と隊員とのやり取りを見ているのでは無く、奇異なものを見ている時の顔であり、他の者が見ればぼーっとしているようにも見える。
「気を引き締めてシャキッとせんか!・・・こら、聞いとるのか雪女!」
「は、はい!」
突然声を掛けられ、びくっと氷麗の体が飛び跳ねる。
そんな氷麗を見て、烏天狗はカァ・・と息を吐いて、漆黒の羽根で頭を抱えた。
(なんで・・・なんで烏が隊長なの!?)
それが彼女にとって未だに慣れない唯一の問題点だ。
確かに烏天狗は優秀だ。
並みの人間よりも頭が良く、しかもコンピューターの扱いに非常に長けている。
だが、烏は烏である。
なんでもありのヌラーズとは聞いていたが、さすがにこれだけは、どうしても非常識だと思ってしまう氷麗だった。
「ククク、おおかたビビってんだろ。安心しな、お前が出るまでもなく、俺が片付けてやるよ。」
「なんですって!」
そんな雪女を見下すような視線を投げかけ、嫌味たっぷりに声を掛けてきたのは、チームで最も危険なポジションを任されている『牛頭丸』だった。
彼は何かにつけ氷麗に嫌がらせをし、いがみ合う二人の姿は、あっという間にバードチームの名物になっていた。
氷麗はキッと睨みつけるが、牛頭丸は嬉しそうににやけた顔で見下すだけで、まともに相手にされていない。
それは何時もの事で、氷麗は自分を馬鹿にしていると、心の底から牛頭丸を嫌うようになっていた。
「そこまでにしておけ、牛頭丸。まったく、お前はもう少し仲間を大事にたらどうだ。」
「チッ・・・ただのジョークだよ、ジョーク。」
睨み合っていた二人の間に巨大な手が割り込む。
その手の持ち主は、チーム一の巨漢である『青田坊』だった。
外見とは裏腹に面倒見のいい性格だった青田坊は、氷麗の指導員に任命されており、氷麗とは仲が良い。
彼はふうっと牛頭丸を見て溜息を吐く。
実は気が付いているのだ。牛頭丸が雪女に気がある事を。
だが、雪女と接していて分かったのだが、彼女はストレートに感情を表現するタイプであり、牛頭丸の行動は逆効果にしかならない。
優しい言葉や甘い言葉でも掛けてやれば、可能性は十分にあるのに、と青田坊は思う。
「雪女、お前もいい加減になれたらどうだ?・・・その、隊長に。」
「う・・・は、はい。すみません。」
最後の方は隊長に聞こえないように氷麗に顔を近付けてボソリと呟くと、青田坊は自分の席にドカッと座り直した。
完全に見透かされている・・・と顔を赤らめ俯いている氷麗の姿は、やはりどう見てもN.R.A.R.S.隊員には見えなかった。
「何があった!」 突然警報音が鳴ると同時に、ヘリの中が赤い警報ランプで照らされる。 「エンジンの出力が突然落ちた。出動前のメンテナンスでは異常は無かったはずだが・・・」 「大丈夫なのか、黒羽丸。」 「駄目です。無理に飛ばせば落ちます。」 緊急事態であるにも関わらず相変わらず冷静なままの黒羽丸とは対照的に、氷麗は迫ってくる森の姿に半ばパニック状態に陥っていた。 「仕方があるまい、緊急着陸しろ。」 「了解。」 こうしてN.R.A.R.S.バードチームは、鬱蒼とした森の中へと不時着する事になってしまったのだった。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!