「全員無事か?」
「「「はい、隊長。」」」
着陸後、全員が互いの傷の有無、装備の確認を行い、特に問題が無い事を確認した。
「本部への通信はしたのじゃろうな。」
「はい、親・・隊長。先ほど現在位置・状況を報告しました。」
墜落した訳では無いとはいえ、森の中への不時着であるにも関わらず、全くと言っていいほど損害は無かった。
ヌラーズ一の操縦士と言われているだけの事はあり、初めてその操縦を目の当たりにした氷麗は、凄いなぁと感嘆の視線を黒羽丸に向けていた。
「なんと言ってきた?」
「迎えのヘリを寄こすので、そのまま作戦を続行せよと。」
「ふむ・・・確かに装備は無事じゃったしな、続行するのが妥当か。」
続行する、という言葉に、『ああ、やっぱり・・・』と不安そうな顔をする氷麗を見て、牛頭丸の口元がニヤリと歪む。
牛頭丸は氷麗に近付くと、やはりいつものように見下すような姿勢でからかうような声を出した。
「お前今、帰ろうと思っていたんじゃねぇだろうな。」
「そ、そんなわけないでしょ、牛頭丸。何言いがかり付けてんのよ。」
「ふん・・・まぁいい。」
冷や汗を掻いている氷麗を見て、皆がはぁ~~~っと溜息を吐く。
どうしてこう、彼女は解り易いのだと。
そして、まだヌラーズの隊員としての自覚が少し足りないのではないだろうか、とも。
その間も今後の作戦について説明していた烏天狗が、睨みあっている二人にふと気がついた。
「・・・・というわけで、よし、お前ら二人。」
「はい?」
隊長が氷麗と牛頭丸を指差し・・・いや、羽根で指している。
なんだか嫌~な予感が・・・
「組分けが面倒じゃったから丁度良いわ。お前ら二人で組め。周辺の偵察をしてこい。」
「ええ!?」
「青田坊と首無はヘリの状態をもう一度確認して、大丈夫ならここに陣地を作れ。
黒羽丸はワシと共に空中から地形を探る。よいな。」
「「「了解」」」
威勢のいい掛け声とともに、二人一組となってそれぞれが自分の仕事に取り掛かり始める。
その中、氷麗と牛頭丸だけが、ポツンと取り残されていた。
ああ・・・と手を立ち去って行った隊員達の方へ向け氷麗が体を震わせている横で、牛頭丸が嬉しそうにニタリと笑った。
「せいぜい足を引っ張んねぇよう気を付けろよ?」
「わ、私だってしっかり出来るわよ!」
「バ~~~カ、俺のosoreを忘れたのか?隊長は俺に偵察を命令したんだよ。お前はオマケってことさ。」
「くぅ・・・」
osore・・・ヌラーズの隊員になる条件と言っても良いほど、その力は多岐にわたり、そして強力だった。
どういう原理かは未だに解明されていないが、超常的な力を発揮する、超能力のようなものだと思えば解り易いだろう。
牛頭丸は周辺の人間の気配を察知し、そして感情をコントロールする事が出来るosoreを持っていた。
ただ、意志の強い人間の感情まではコントロールできないらしく、それにはこのチームのメンバー全員が該当していた。
牛頭丸としては、いかにも気の弱そうな、ちょっとした事でもすぐに驚く氷麗に自分の力が通用しない事に、納得がいかないのだが・・・
それはともかく、何が潜んでいるか判らないこの森の中を警戒しながら探索するのであれば、牛頭丸の力は非常に有効なのだ。
「オラ、行くぞ。まったく何で俺がこんな役立たずと組まなきゃいけないんだ・・・」
ドシドシと歩いて行く牛頭丸の背中を、悔しさに歯ぎしりしながら氷麗は睨みつけ、そしてしぶしぶ後に付いて行った。
それからおおよそ20分後、氷麗達は囚人護送車の前に立っていた。
外部から襲撃を受けたらしく、護送車は半壊している。
そして車両のフロントガラスには、運転手たちの物であろう血がべっとりと張り付いていた。
「囚人の仲間が襲撃したとか?」
「さあな。だが、近くに生きている奴は誰もいないのは確かだ。
中に入って調べっぞ。」
「うん。」
調べた結果、中には護送車のドライバーとその同僚の血まみれの死体があるだけだった。
予想通り、囚人は脱走したらしい。
ただ、その囚人はただの囚人では無かった。
軍事作戦中に犯罪を犯した重罪人であり、はっきりとは書かれていないが、プロフィールを見る限り、どうもosoreを持っている可能性が高い。
そしてドライバー達は、腕利きのはずの海兵隊員で、彼にとっては元同僚のはずだった。
それを簡単に殺してしまっている事に、ヌラーズの隊員達は激しい憤りを感じていた。
既に緊急報告を受けた隊長達がこの場に駆けつけており、今後の作戦を練っていた。
「ふむ、となると、囚人の仲間が護送車を襲い、脱走したと見るのが普通じゃが・・・」
「違うのですか?」
まさか、と首無が驚きの声を上げる。
「うむ。道路に車両の跡が無い。仲間がいたのであれば、道路わきに隠すなりしておったじゃろう。
となれば、道に跡がつく。それが無いという事は、少なくとも脱走犯に車は無い。」
「なるほど。ヘリの類であれば、我々が気付かぬはずが無い。
となれば、まだ脱走犯はこの森のどこかに居る、という事になりますね。」
暫らくうーん、と烏天狗が羽を抱えて考え込むと、突然カッと目を見開き、羽を広げて命令を下した。
「よし、ここは脱走犯の捜索・捕獲を優先する。
相手は海兵2人を惨殺し逃走するような凶悪犯じゃ。
少しでもおかしなそぶりを見せれば、射殺してもかまわん。」
「「「了解」」」
新たな任務に向けて、再びヌラーズの隊員達が森の中に散って行った。