9月最後の日曜日、リクオの3代目就任も無事終え、挨拶回りや書状の送付も終えようやく一息ついて、リクオはつららと二人で自室で寛いでいた。
「ねぇ、つらら。たしか側近頭になったら、携帯は専用のを持つようになるんだったよね?」
「はい、リクオ様。でもそれがどうかしましたか?」
奴良組では一括で100台の携帯契約を行っており、通常は出かける際に空いている携帯を持ちだしている。
だが相談役の烏天狗や本家住まいの幹部など、特定の番号の携帯を常時持っていた方が都合の良い者に関しては、持ち回りの携帯では無く、特定の携帯を与えられていた。
そしてリクオの3代目就任と共に側近頭となったつららもまた、専用の携帯を持つようになっていたのだ。
「実はね、これをプレゼントしようと思ってね。」
とリクオが懐から小さな宝石箱のようなケースを取り出し、スッとつららの方へと差し出す。
「ええ!?そんなプレゼントだなんて!
理由もなく受け取る訳にはまいりません!」
つららが慌ててケースを押し戻そうとするのはリクオの予想通りで、さっとケースを持ち上げると、もう一方の手で押し戻そうとしたつららの手を取り、その手にしっかりとケースを握らせた。
「側近頭になったお祝いだよ。
それに、そんな大したものじゃないし。」
なおも抵抗しようとするつららの手をしっかり押さえ続けながらそう言うと、ようやく諦めたのか、つららも大人しくなりようやくケースを受け取った。
「それではありがたくお受けいたします。」
「うん、ありがと。」
「今開けても宜しいですか?」
「もちろん。」
つららがケースを開けてみれば、中からはリボンの形をあしらった小さな金属製のアクセサリーが入っていた。
リボンの輪の部分は表が銀・青・金の3色線、そして裏は銀・赤・金の3色線で、結びの付け根とリボンの端は金と銀の2色線となっている。
結び目にはすみれ色の宝石が埋め込まれており、リボンの端の部分の中央には深い青色の宝石が輝いていた。
「うわぁ・・素敵なストラップですね。」
「気に入ってくれた?」
「も、もちろんです!
でも、これってけっこうしませんか?」
「それほどでもないよ?」
しれっと事もなげにリクオは言うのだが、これは半分本当で半分嘘だ。
金も銀も紛い物では無い本物の金と銀で作られており、宝石もその辺の安物では無く、『ロードライト』と呼ばれる希少なガーネットと、サファイアが使われている。
いくらストラップサイズとはいえ、『普通の中学生』ならばまず手の届かない代物だが、3代目であるリクオにとっては、別に高い買物では無い。
普段ならば『普通の中学生らしく』このような買物は決してしないのだが、つらら相手の贈り物だからだろうか、リクオからそのへんのタガが外れてしまっていた。
「ああ、でもここの宝石は本物だよ。
ガーネットっていってね、つららの誕生石なんだ。」
「誕生石ですか?」
不思議そうに首を傾げながらつららが尋ねてくる事に、リクオはクスリと笑いながら答える。
「そう。アメリカで生まれた考えなんだけどね。
記念の贈り物に使ったりするんだってさ。
で、つららの誕生日は1月11日だから、1月の誕生石のガーネット。
つららをイメージして、普通の赤い奴じゃなくて、すみれ色のを使ってみたんだよ。」
「へぇ~~。そこまで考えて下さるなんて、ありがとうございます。」
目を輝かしながらストラップを手に取るつららの様子は、まさに年頃の娘そのものだ。
そんなつららを見ながら、リクオは心の中でほくそ笑んでいた。
(思った通り、アクセサリーの類の事は詳しくないみたいだ。
これなら、こっちの企みに気付く心配はなさそうだな。)
「じゃあさっそく携帯に付けてくれない?」
「はい!」
つららは嬉しそうに自分の携帯にストラップを取りつけると、それをリクオに『どうですか?』と見せた。
それに満足げに頷くと、リクオはそのままつららとの雑談を楽しむ事にした。
その一週間後、清十字団の集まりで外出した時、清継と連絡を取る為に取りだしたリクオの携帯に、綺麗な物が付いている事をカナが気付く。
「ねぇ、リクオくん。それって新しいストラップ?」
「ん?ああ、そうだよ。見てみる?」
興味津々にストラップを凝視するカナを見て、リクオは清継へと連絡を止めてカナへと自分の携帯を手渡した。
「へえ~~~、赤いリボンのストラップか~。あ、裏は青色になっている。
赤系のガラス玉も付いているし、けっこう凝っているね。可愛い~~。」
「うん、けっこう気に入っているんだ。」
「ふ、ふ~ん。」
嬉しそうに笑顔で答えるリクオに、カナは何となく不思議な感覚を覚えた。
これはどちらかというと、女の子向けのストラップのような気がする。
それにこの手の可愛らしい物を、リクオが今まで身につけていたという記憶が無い、と違和感を感じたのだ。
「まさかこれ、誰からかのプレゼント?」
「違うよ。ボクが自分で買ったの。」
「ホントに?」
「もちろん。」
言っている言葉に嘘は無さそうだが、どうしてもカナは疑ってしまう。
ふとカナが横を見てみれば、何やら目を見開いて驚いている氷麗の姿が目に付いた。
その頬は赤く染まっており、カナと視線が合うと、大慌てで顔を横に背けている。
その様子にピーンときたカナは、携帯をリクオに返すと、つららの方ににじり寄っていった。
「そういえば、及川さんも綺麗なストラップを付けていたって、鳥居さん達から聞いたことあるけど?」
「へぇっ!?そ、そうですか!?」
明らかに挙動不審な氷麗の様子に、ますます怪しいとカナの目が細まってゆく。
自分もちらっと見たことがあるが、あの時は氷麗が動き回っていた為、青いアクセサリーだったとしか認識できなかった。
カナにとっても氷麗は苦手というか、いつもリクオと一緒の為やりにくいというか、そういったものもあって、今までは『見せて欲しい』と言えずにいたのだが。
まさかとは思うけど・・・とカナの疑惑がどんどん強くなっていく。
「ねぇ、ちょっと私も見てみたいな~。いい?」
「あ・・・あら?携帯を忘れてきましたわ!ホ・・・ホホホホ。」
目を逸らしながらそう言う氷麗の顔からは冷や汗が大量に流れており、どう考えても嘘を付いているようにしか見えない。
「おお~~い!家長くん!奴良くん!及川くん!待たせたね!」
「あ、カナちゃん。清継くん達が来たよ。」
さらに問い詰めようとした所で運悪く清継達が来てしまい、そのまま怪奇探偵団の活動が始まって、結局いつものように、カナの疑問はそのまま有耶無耶にされてしまった。