バレンタイン戦争(?)も終盤を迎えた学校の生徒会室にて、清十字団の面々が集まっていた。
数々の戦利品を持ちより自慢話(主に島)をする3人組を、女性陣が遠巻きにして、なにやら面妖な顔で見つめていた。
「島がモテる・・・だと?」
「でもさ巻~、あれでもU-14代表だし、サッカーじゃ有名人でしょ。不思議ないって。」
「ハハハ・・・まぁ、それはそうかも。」
なんとも酷い言い草である。
そんな中、氷麗だけが輝く瞳でリクオの戦利品を見ていた。
「リクオさ、君は、まぁ当然ですよね。」
さすがはリクオ様、とパアアアアと顔を輝かせながら言う氷麗に対し、鳥居と巻、そしてカナまでもが顔を見合わせて『うーん』と眉根を寄せて苦笑した。
「ん~、氷麗ちゃんの言ってる意味と、奴良のチョコ意味ってきっと違うと思うよ。」
「そ、そうなんですか?」
「うん、多分。義理チョコだと思うな、きっと全部。」
「そうそう。」
うっ・・と心当たりがあり過ぎる氷麗には、返す言葉が見つからない。
まぁ、もっとも本命チョコが多かったなら多かったで、困った揚句に『リクオ様がモテるはずありません!』などと言いかねないので、氷麗としてはこのほうがありがたいのだが。
それでもやはり『モテている』方が嬉しく思ってしまうというのは、なんとも複雑な乙女心というものだろうか。
「でも一番意外なのは・・・」
「うん、意外過ぎるよね・・・」
「「清継君のチョコの数。」」
そう、どういう訳か、清継は沢山のチョコを貰っていた。
生徒会長である、というブランドが、彼の変態性を覆い隠してしまったのだろうかと、実に失礼なことを全員が考えていた。
「清継君、準備できたよ~。」
それからひと段落したところで、カナが清継に合図を送る。
「おお、ではさっそく始めようか。
島くん!奴良くん!来たまえ!生徒会バレンタインデー特別企画!チョコ争奪戦の始まりだ!!」
「ええ!?争奪戦!?」
驚くリクオと島を他所に、清継は陶酔しきった表情でポーズを取りながら説明を始めた。
「な~に、単なるクジさ。
義理チョコとはいえ、同じものを渡されても面白くないだろう?」
「た、確かにそうっスね。」
島の相槌に、気を良くした清継がクルリと回転しながら先ほどとは異なるポーズを取り、説明を続ける。
「そこでだ。我が生徒会の誇る女性陣が各々用意したチョコレートを、どれか一つ貰う方式にしてみたんだよ。
もちろん、誰かに人気が集中しては選ばれなかった女性が可哀そうだから、くじ引きで決めるという訳さ!」
「さ、さすが清継さんっス。ナイスアイデア!」
拍手をしながらも、明らかに島は氷麗の用意してた包みしか見ていない。
リクオもまた『ハハハ・・』と苦笑いしながらも、ちらりと心配そうに氷麗の方を見ていた。
先ほど言った準備というのは、番号の割り振りとクジの準備が出来た、という事だったのだ。
「さあ、発案者である私は最後で良いよ。君達から取りたまえ。」
「ハイっス!」
「う、うん。」
島はどれが及川さんのだろう、と唸り声を上げながら、指を泳がせ何度も紙を指差し悩み続けている。
「悩んでいるなら、ボクが先に取るよ。」
「駄目だ!俺が先に取る!」
リクオに対しては強気になる島が、ガーッとリクオを睨みつけその手を払いのけた。
それに見た氷麗がムッとして、島を睨みつけたのだが、逆に島は
『及川さんがボクに期待の眼差しを向けている・・・そうか!これが及川さんのチョコなんだな!』
と都合よく勘違いして、その時たまたま指差していた紙を
「これだー!」
と叫びながら手に取った。
「まだ開けては駄目だよ、島くん。みんなが引き終わってからだ。」
「はいっ!清継さん!」
その後、リクオも迷いつつ紙を取り、清継は迷わず自分の前にあった紙を手に取った。
「・・・あれ?一つ余ったよ?」
「ふむ、そういえば男女の人数が合っていなかったな。
・・・まぁいいか、それは後で考えよう。
とりあえず誰のものもが当たったか確認しようじゃないか!」
皆『それでいいのか・・・』とジト目で清継を見たのだが、当の清継は素知らぬ顔でさっさと紙を開いた。
「2番か。これだね。」
「あ、それ私の。」
「ほう、鳥居くんのか・・・どれどれ。」
中から出てきたのは小ぶりながらも手作りらしきチョコレートで、綺麗なハート形をしていた。
「さすが鳥居くん!素晴らしい出来栄えだ!」
「そ、それほどでもないって・・・」
清継の態度はかなりオーバーアクションに感じるものの、心の底から褒めている事は間違いない。
そんな清継の言動に、お世辞とは分かっていても照れてしまうのは当然の反応と言えるだろう。
鳥居は照れ隠しに清継の肩をバシバシと叩きながら、嬉しそうにチョコ作りの時の事を清継に話し出した。
そんな盛り上がる清継たちを横目に、リクオもサッと紙を開いていた。
「ボクは3番か・・・これ?なんか大きくない?」
「お、奴良に当たったか。中見て驚くなよ?」
「一体何が・・・」
手を頭の後ろに組みながらニヤニヤと笑う巻を見て、リクオは冷や汗を掻きながら大きな包みを開ける。
すると、その中からは袋詰めチョコレートのお菓子が出てきた。
「巻くん!きちんとしたものをと言っただろう!?」
「いーじゃん。私の場合は『質より量』ってやつなんだよ。」
まぁ、確かに量としては申し分ないかもしれない・・・普段買うようなお菓子ではあるが。
そんな清継と巻のやり取りを見ながら、3人の溜息が静かに室内に流れた。
氷麗とカナと、そしてリクオである。
氷麗とカナは、リクオが自分の物を引き当てなかったことへの落胆から。
そしてリクオは、島が氷麗のチョコを引き当ててしまったのかもしれない、という心配からだった。