チョコ争奪戦? その3

「うん、少し甘すぎる気がするが、愛情がこもっていてとても美味しいよ!」
「いや、ゲーム用なんだし、愛情込めてないし。」

大げさに喜ぶ清継に対し、冷静にツッコむ鳥居ではあったが、やはり喜ばれて嬉しくないはずもなく、少し照れ笑いをしながら清継の妙なテンションに話を合わせ続けている。

「どーだ、美味いだろ?」
「まぁ、よくあるお菓子だしね。そりゃ美味しいですよ。・・・うぐっ!」
「いい度胸ーじゃないか、島。」

あーあ、と面白くなさそうな顔をしながらお菓子を食べる島に、巻が背後から首に腕を回して締めつけた。
傍から見れば、島の背中に巻がその中学生とも思えぬグラマーな体を密着させて抱き着いているようにしか見えないのだから、多くの男子生徒はきっと島を羨むだろう。
だが、弾みで食べかけのチョコを喉に詰まらせた島にとってみれば、咳込む事も出来ず、まさにこの世の地獄でしかない。
助けてくれと巻の手を軽く叩いてギブアップの意思を示すのだが、巻は調子に乗って益々きつく締めつけるばかりだった。

「相変わらず美味しいね、つらら。」
「ありがとうございます。でもそれって残り物なんですよ。」
「え?そうなの?」

びっくりしてリクオが氷麗の顔を見ると、ばつの悪そうな顔をしながら『ほら、誰に当たるか判らなかったのですし。』とその訳をリクオにだけ聞こえるように小声で囁く。

「きちんとした物は、ちゃーんとお屋敷のお部屋に用意してありますから。」
「へえー、それは楽しみ。」
「お屋敷ってどこの?」
「それはもちろんリクオ様の・・ハッ!」

つららが声のした方に慌てて振り返ってみれば、不信感丸出しの目でリクオと氷麗を睨みつけるカナの姿がそこにあった。
だが、二人を見ていたのはカナだけではない。
いつの間にか辺りは静まり返っており、清継以外全員がリクオと氷麗を取り囲むようにして、二人のやり取りを聞いていた。

「相変わらずって?」
「え?え?奴良ん家に用意してるって!?何を!?」
「おい、もう少し自重したらどうなんだ。」
「前から思っていたけど、二人っていったいどういう仲!?」
「おい、奴良、どういう事なんだよ!?」

矢継ぎ早に投げかけられる言葉に、氷麗はぐるぐると丸い目をさらに回し、リクオは『しまった』と盛大に冷や汗を掻きながら、どう切り抜けようかと必死に考える。
このままでは、パニックに陥った氷麗が何をしでかすか分かった物ではない。

「あ、朝家に来てくれた時に、学校じゃ恥ずかしいからって渡されたんだよ。」

普段あれだけやっておいて、今更恥ずかしい?

「そ、そうなんです。つい頑張っちゃって凄い量になっちゃったし。」

いったいどれだけの量を持ち歩いたの?
っていうか、それって本命って事だよね?

皆の心のツッコミに二人が気付く筈もなく、呆れて黙ってしまっただけの事を、なんとか誤魔化せたかなと勘違いし、リクオと氷麗は顔を合わせてホッと一息ついた。

「で、それじゃあなんで『部屋に用意』して、しかもその事リクオくん知らないの?」
「へ?」
「あ、いやそれは・・・」

何時もより鋭いカナの指摘に、流石のリクオも一瞬言葉を詰まらせる。
だがそこはやはりぬらりひょんの孫という所だろうか、すぐさま言い訳を思い付くと、平静を装ってカナに説明した。

「帰るまでのお楽しみってことで、ちゃんと見せてもらっていないって事さ。
 遊び用のチョコでこの出来だから、今から楽しみだなって意味だよ。」
「ふーん・・・」

それはそれで、リクオの部屋に本人抜きで上がる事が出来るほどの仲だ、と告白しているようなものである。
結局はノロケではないかと、カナはそれ以上追及するのを止めてしまった。


そして他のメンバーはというと

「それって、このあと奴良と氷麗ちゃんは奴良の部屋で二人きりになるって事だよね。」
「だよね。しかもどう考えても親公認っぽいし。」
「でないと朝っぱらから部屋に上がり込めないって。」
「うんうん。」

とヒソヒソと話すのは巻と鳥居。

「お、及川さん~~~~~~。」
「うむ、仲良き事は美しき事だ。」

言葉の意味に気が付いた島は、真っ白に燃え尽きていた。
その隣では、分かっているのか分かっていないのか、二人の仲を清継が喜んでいる。

「やれやれ・・・まぁ、今に始まった事じゃねぇか。」

倉田は溜息を吐きながらも、どこか悟ったような目でリクオと氷麗を見守っていた。

 

その夜、氷麗のチョコを巡ってひと悶着あったのは、また別の話。

 

end

 

 

夜には、チョコと一緒に嫁も食べたいリクオv.s.二人きりでのんびりと過ごしたい氷麗v.s.二人きりは危険だとあれこれ画策している首無、というバトルが繰り広げられる予定です(^^)。
裏になりそうなので、ここでは作成できないのが残念ですが(笑)。

『清十字団でバレンタインチョコ交換会』というのをふと思い付いて、あれこれ書いてみたらこうなりました。
いかがでしたでしょうか?

リクオはカードでも『妖怪運』が強いようなので、素直に最初から氷麗のチョコを引く、というパターンの方がいいかなーとは思ったのですが、書いていくうちに自然とこうなってしまいました。
それでも自然とイチャつく二人が書けて、楽しかったですよ(^^)。
今度は嫁を弄り倒すリクオを書きたいですね~。


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