リクオが中学生となり初めてのホワイトデーを迎え、『良い奴』であるリクオは多くの義理チョコを受け取っていた為、そのお返しに大忙しであった。
「はい、これお返しのチョコレート。」
「・・・あ、ありがと。」
「じゃあボクはまだ配る所があるから。それじぉあ!」
「う、うん・・・」
唖然とした顔でチョコを受け取る隣のクラスの子に爽やかな笑顔を向けてから、リクオは氷麗と共に次の女の子の所へと歩み寄り、氷麗が紙袋から取り出したチョコを受け取ると、それを手渡した。
そう、氷麗は何時ものようにリクオを手伝い、多量のお返し用チョコの入った紙袋を持って後についてきていたのだ。
「このクラスはこれで終わりだったよね、氷麗。」
「はい、リクオ君。次は4組です。まだまだありますね。」
「アハハハ・・・悪いけど、もう少し手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
引き攣った笑顔で「ありがとう」と言う女生徒や、信じられないものを見たという顔をしている男子生徒達をしり目に、二人は1年3組の教室を後にした。
それをじっと眺めていた二人・・・巻と鳥居は、暫らくポカーンと口を開け、やがて互いに顔を見合わせた。
「あれって、わざと?」
「どうだろ?見た感じ、氷麗ちゃんの方は何も考えず何時も通りって感じだけど。」
だよねぇ、と鳥居が相槌を打ち、二人揃ってうんうんと頷く。
「やっぱり奴良の企みかなぁ。」
「あいつ、時々何考えているか分からないっていうかさぁ・・・腹黒く感じない?」
「うんうん、それ言えてる~。」
本人が聞けばきっと顔を引き攣らせながら色々と言い訳をするに違いない、というような噂話に、巻と鳥居は授業が始めるまで花開かせていたという。
事の起こりは、学校の生徒用玄関での事だった。
「あ、リクオくんおはよう。」
「おはようカナちゃん。」
偶然カナと遭遇したリクオが、そのままカナと話し込み始め、それを見た氷麗は思わず下駄箱の影に隠れてしまった。
それは時折見かける光景であり、いつもならそのままリクオとカナは共にクラスへ行き、氷麗は護衛任務のため屋上へと上がるはずだった。
ところがその日は、まるでそのタイミングを待ち構えていたかのように、氷麗に一人の男子生徒が近付いてきた。
「あ、あの、及川さん。」
「ひゃあ!?は、はい!?」
リクオとカナの事が気になり、その男子生徒の接近にまるで気が付かなかったつららは、突然目の前で声を掛けられ驚きの声を上げる。
「あ、ごめん、驚かせちゃって。」
「い、いいえぇ、大丈夫です。気にしないで下さい。」
ただの男子生徒であった事にホッとし、そして誰だったかしらと、見覚えのない男子生徒がリクオ様の御学友ではないかと思い巡らす。
だが、いくら考えても思い当たる節が無く戸惑ってしまう。
男子生徒の方はというとそんな氷麗の様子を訝しむ事も無く、そばかりか緊張で凝り固まったようなぎこちない動きで鞄から包みを取り出し、それを氷麗の目の前に差し出した。
「こ、これ受取って下さい。」
「へ?・・・え、私にですか?」
勢いよく差し出された為、とっさに手で受取ってしまった氷麗は、何故このような事をと首を傾げて男子生徒の顔を見上げる。
「はい、ホワイトデーの・・・」
そこまで言って、その男子生徒は顔を赤くして黙りこむと、突然「それじゃあ!」と叫んで走り去ってしまった。
「あ、ちょ、ちょっと、何かの勘違いじゃ・・・」
氷麗は声をかけ呼び止めようとしたのだが、男子生徒の姿は既に見えなくなっていた。
学校でリクオ様以外の誰かにチョコを上げた覚えは無いけど・・・と氷麗は不思議そうな顔をして、目の前にある包みをじっと見つめる。
きっと誰かと勘違いしたのだろうと結論付け、今度会ったら返せばいいと、とりあえず自分の鞄の中にプレゼントをしまい込んだ。
「ねぇ、氷麗。今しまったの何?」
「わひっ!?リクオ様!?」
いつの間にか自分のすぐ脇に立っていた主の言葉にびくりと体を震わせ、氷麗は慌ててプレゼントを鞄から取り出す。
「こ、これホワイトデーのお返しみたいなんです。」
「ふうん。氷麗って、さっきの人にバレンタインデーに何か上げたの?」
「ま、まさか、そんなことあるわけ無いじゃないですか!」
「だよねぇ。」
不機嫌な顔で自分に質問をしてくるリクオにビクビクしながら、氷麗は早口で、まるで言い訳するかのように答える。
なおもリクオが何かを言おうとした所で、リクオのそれに輪をかけて不機嫌そうな声が響いてきた。
「何やってんのよ、まったく。・・・それって、『お返し』じゃなくてプレゼントなんじやないの?」
声がした方には、また何か変な事を言っている・・・とジト目のカナが、リクオと氷麗を睨んでいた。
「あ、いやこれは・・・って、プレゼント?」
「ホワイトデーにですか?」
息の合った二人の返事に、ますます不機嫌な顔になったカナが、フンと顔を背けながら答えた。
「知らないの?今じゃホワイトデーもバレンタインデーと同じで、告白とか感謝とか、そういうので贈る男の人もいるのよ。」
「へ?それってまさか・・・」
「じゃあ勘違いじゃなくって・・・」
「うん、告白だと思うよ。」
さらりと言われた言葉を二人が理解するのに数秒・・・
「「ええ~~~~~~!?」
二人の声が重なりあって玄関に木霊した。