結局あの後、慌てふためく氷麗をなんとかリクオが宥めて落ち着かせ、お断りの返事を(リクオが陰で付き添って)即座に行わせた。
そして昼休みになり食事を終えた後、リクオは氷麗に一つの提案をした。
「氷麗、朝の事で時間が無くなっちゃったから、ホワイトデーのお返しをするの手伝って。」
こうして現在、リクオは氷麗と共に『お返し』配りを行うようになったという訳だ。
聞けば、昼休みにリクオを迎えに氷麗が教室に向かう途中でも、3人の男子生徒からプレゼントを渡されそうになり
「ごめんなさい~~~!」
とその都度謝りながら氷麗は逃げ出していたそうだ。
今までは完全に隠れて護衛をしていたということもあり、このような経験など全く無かった氷麗だったが、中学になり護衛をしている事がばれてからは、人目もはばからず堂々とリクオの側で手伝いをするようになった結果、多くの男子生徒達を魅了してしまっていた。
その辺りはやはり雪女というべきなのだろうが、氷麗にしてみれば護衛に支障をきたしかねない迷惑な事でしかない。
だが、リクオの手伝いを始めてからは、なぜか自分へのプレゼントがピタリとやんだ事に、氷麗は非常に機嫌が良くなっていた。
「リクオ様♪やっぱりこうしてリクオ様をお手伝いしているのが一番ですね♪」
「日直の仕事や雑用じゃなくて、お返し配りだけどね。」
リクオもまた、今朝とは打って変わってニコニコ顔で氷麗に応える。
互いにニコニコと笑顔を向け合い『お返し』を配っているのを、呆れかえった顔で生徒達が凝視していた。
それが常に続くものだから、流石の氷麗も周囲の自分達を見る目の不自然さに気付き、気になり始めた。
「あの、リクオ様。」
「なんだい、氷麗。」
ザワッ
周囲を気にして氷麗はリクオの耳元にヒソヒソと囁いたのだが、周りから見れば『顔を寄せ合って何やってんだ』という風にしか見えず、にわかにざわつき始めた。
「どうも皆の様子がおかしいのですが、お気付きですか?」
「そう?」
「はい。特にリクオ様がチョコを渡す直前、相手が私を見て驚いているように見えるのですが・・・」
やっとその事に気が付いて気になり始めたのかと、リクオはクスリと笑う。
「うーん、まぁ普通はそうだろうなぁ。チョコ渡すの手伝ってたら。」
「え?驚くような事だったのですか?」
「うん。」
氷麗は主の答えに驚き戸惑い、足をピタリと止めてしまう。
変に目立つ事を嫌っていたのではないのか、なぜ自分にそのような事をさせたのか。
主の考えが理解できず、氷麗は目をぐるぐる回しながら、慌ててリクオに問いかけた。
「じゃ、じゃあどうして私に手伝わせたのですか?」
「そりゃもちろん、氷麗を見せびらかすため。」
「は?」
イマナンテイッタノ?ミセビラカス?
カチーンと固まってしまった氷麗の手を、リクオはニタリと笑いながら掴むと、ぐいっと引っ張り無理やり連れて歩き始める。
「さ、氷麗、あと少しだよ。」
「り・・り・・リクオ様?
あ、あの・・・いったいどういう意味で・・・?」
もはや居合わせた生徒全員の注目の的になっている事に、氷麗は顔を真っ赤にして完全に腰が引けてしまっている。
手を放せば、間違いなくこの場から走り去ってしまうだろう。
「言った通りだよ。
ああそうそう、今更手伝うの止めるってのはダメだからね。」
「な、なんで・・・」
氷麗の心情を見透かしたかのようなひと言に、氷麗は涙目になってリクオに聞き返す。
「そんな事になったらボクは笑い物だ。ボクに恥かかせる気?」
「あう・・・」
そう言われれば、下僕としては返す言葉も無く従うしかない。
その後、氷麗は真っ赤にした顔を俯かせながら、リクオに手を引かれるままに付き従って『お返し』配りを手伝い、そしてその光景は瞬く間に学校全体に広がり、一つの伝説としてしばらく学校を賑わしたという。
end
最初は『次々と妖怪達から渡されるプレゼントに、いったい何だろうと戸惑うつらら。ヤキモチを焼いたリクオが、つららを独占するため何かしでかす。』
という設定だったはずなのですが、出来上がってみれば舞台は学校になっているし、妖怪のよの字も無いし(いや、つららは妖怪ですけど)、リクオが黒いし、また変なモノを作ってしまいました(笑)。
場合によっては裏っぽい描写もアリかと思っていたのですが、入り込む余地ありませんでしたね。
ああ、でも久しぶりに嫁を攻めるリクオが書けて、楽しかったです(^^)。
ホワイトデーにお返しでは無いプレゼントが本当にあるかどうかは、そのシーンに遭遇した事も友人・知人から聞いた事もないので真偽不明です(笑)。
いえね、何かの番組か何かで聞いたような記憶があったので、『そういうのがあっても不思議ないよね~』と採用してみました。