俺の嫁

「黒髪ねぇ・・・そうだ、牛鬼も黒髪だよね。」
「はぁ!牛鬼様だと!?」
「ほら、つららと同じで艶のある真っ直ぐな黒髪だし。
 同じおじいちゃんの時代からの幹部だしね。」
「牛鬼様が雪ん子の・・・・」

この時、牛頭丸の頭の中では妙な構図が浮かんでいた。


『オレと雪ん子が結婚する→牛鬼様との結束が益々強くなる→牛鬼組安泰』

ということは!

朝稽古の後に暖かいご飯とみそ汁とを用意してくれる雪ん子。

昼のシマの見回りの途中で追いかけてきた雪ん子と、捩眼山の山道で修行を兼ねた追いかけっこを楽しむ。

そして夜には疲れた体を休める為、二人でお風呂に・・・


「いい加減にしろ、バカ牛頭。」

げしっといつの間にか夜の姿になったリクオが、ガッツポーズを取りながら呆けていた牛頭丸を蹴り飛ばした。

「なんだよてめぇ!」
「だいたい誰だそれ、つららの姿をしたニセモノじゃねぇか。
 温かい飯?一緒にお風呂?んなもんつららに出来る訳ねぇだろうが。」
「うぐっ。う、五月蠅い!」

何気につららに対し失礼なことを言っているリクオだが、事実つららには温かい御飯も風呂も無理なのだから仕方が無い。
遠野の冷麗は熱い風呂も平気だというのに・・・そこは年の甲と言うものだろうか。

「いいか、牛鬼は俺を導いてくれる役割を担ってくれていた。つまり親父の代わりだ。
 つまりこういう事になるに決まってんだろ!」


『俺とつららが結婚する→父親代わりから義父に→俺が色々大満足』

そして当然

朝には『あなた、朝ですよ。早く起きないと遅刻しちゃいますよ~。』と優しく起こされたり・・・ん?

昼には『はい、お弁当です。美味しいですか?お口に合いますか?』と凍っちゃいるが美味い愛妻弁当を用意してくれたり・・・んん?

夜には『今日もお疲れさまでした、お風呂の用意が出来てますよ。・・・あ、服がほつれてますね、繕っておきますから上着はここで脱いでいって下さい』と身の回りの世話をしてくれたり・・・んん~~~~?

そしてその後はお待ちかねの・・・


「そこまでにしろ、この変態!」

げしっと今度は牛頭丸がリクオを蹴り飛ばした。

「いてぇな、なんだよこれからだって時に。」
「だいたいてめぇ、普段と何処が違ぇんだよ。
 いつもやってる事と同じじゃねぇか。お前の想像力ってなぁ、そんなもんか?貧弱だな。」

ペッと唾を吐きながら、牛頭丸が吐きだした言葉に、リクオは怒るでもなく反論するでもなく、ただ口をポカーンと開けていた。

「なんだ?図星過ぎて反論出来ねぇのか?」
「あ~~、牛頭丸。じゃあ最後のは別として、他に何かあるか?」
「何がって・・・ん~~~~とそりゃあ・・・・ハッ!!」

ある事に気が付いた牛頭丸が、その場から一歩身を引くと、肩をプルプルと震わせ始めた。
リクオはそんな牛頭丸に、ようやく気が付いたか、とニヤリと笑いかける。

「ちくしょう!あんまてめぇいい気になんじゃねぇぞ!!」
「ああ、そうだな。」
「~~~~!!
 このやろう!覚えてやがれ~~~~~~!!」

悔し涙を流しながら走り去っていく牛頭丸を、リクオは勝者の余裕の表情で眺めていた。

「あの~、リクオ様。いったい何があったのですか?」
「おう、つららか。」

何時の間にかやってきていたつららが、リクオが起き上がるのを手伝い、リクオの服に付いた埃をパタパタとはたき落とす。
すぐ脇に氷の長刀が付きささっている所を見ると、自分が蹴飛ばされた所を見て飛び出してきたという所だろうか。
よく見れば、牛頭丸との騒ぎを聞きつけた連中が他にも沢山いるようだ。

「いつもありがとな、つらら。」
「へ?・・・あ、いえ、どうもありがとうございます?」

いったい何の事を言っているのか訳が分からず、つららは奇妙な物を見たかのような顔をしながら礼を述べる。

「これからも、俺の飯作ってくれよ。」
「??・・・は、はい!もちろん!私のお役目ですから!」
「そういう意味じゃねぇンだけどなぁ・・・」
「はい?」

ああ、牛頭丸でも気付く事を、こいつはどうして気付いてくれないんだろうか。
リクオはふうっと溜息を吐くと、とりあえずつららを抱きしめることにした。

「り、リクオ様!?」
「おっと、すまん。牛頭丸にやられた所が傷むみてぇだ。」
「ええ!?直ぐに手当てしないと!
 ほら、リクオ様、私にもたれかかって・・・ってそれじゃあ動けませんよ!
 正面からじゃなくって、横から!・・・違います!ちょっとどこ触っているんですか!」

『これは俺のだ』と主張するかのように、皆の見ている前で、つららの冷たく、そして柔らかい体の感触を、リクオは暫らく抱きしめ堪能していた。
それはもう、見ていた皆がウンザリするほど。


end

 


『男の娘』ネタが消えてしまいましたが、寝入りばなになぜかこのネタを思い付いてしまいまして・・・翌朝さっそく書いてしまいました(笑)。
うん、こっちの方が話の流れに無理がなくて良かったかも。
考えてみれば、二人は既に夫婦同然の日常を送っているんですよね~(^^)。

その事に気が付いたリクオは、きっとそれだけじゃあ物足りなくなって、色々ちょっかいを出すに違いありません。
いえ、既に出している気もしますが。相合傘とか(^^)。


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