「リクオ様~~朝ですよ~~、起きて下さ~~~~い。」
「ん~~~~。」
リクオの部屋へと続く障子を開け放ち、何時ものようにつららがリクオを起こしにやってきた。
ただ、3代目となってからリクオは多忙な毎日を過ごしており、昔のように直ぐに起きれない日が多く、目覚めの悪い日はそう簡単には起きなくなってしまっていた。
「しょうがないですね~~。じゃあ目覚ましソングを歌っちゃいますよ~~~。」
そして最近は、つららが『目覚まし時計』の代わりにと『目覚ましソング』を歌うようになっていた。
本人曰く
「もう3代目になられたのだから、叩いて起こす訳にはいかないでしょう?
で、リクオ様の学校で、目覚ましに音楽を流す人もいるって聞いたのよ。
だから試しに目覚ましソングを歌ってみることにしたの。」
という事らしい。
ちなみに、歌ってもすぐには起きないものの、声掛けだけよりは早く起きたので、本人も楽しいという事もあり、目覚めが悪い時は歌って起す事が当たり前になっていた。
「じゃあ今回は『Sy○phonic☆Dre○m』で。いきますよ~~~。」
つららが気持ちよく歌いだして直ぐに、リクオが「う~~~ん」とうなされ始めた。
その様子はどう見ても悪夢にうなされているようにしか見えないのだが、歌に夢中になっているつららはその事に気が付いていない。
何も知らぬものが見れば、つららが呪いの歌でリクオを苦しめているように見えない事も無い、そんな光景だ。
「り、リクオ様にイタズラをしている?・・・雪女、なんて恐ろしい娘」 昔のどこぞの少女マンガのような青ざめた顔で、ささ美はそう呟いていた。 >つららは、ささ美から1Pの畏れを得た。 >つららは、リクオから10Pの畏れをぶんどった。 妖同士の戦いは"畏れ"を奪い合う『化かし合い』。多くの畏れを集めた者が勝者となる・・・ 「ちょっと待てトサカ丸。変なナレーションを入れないでくれ。」 いつの間にかささ美の背後に立っていたトサカ丸が、一体何処から持ってきたか分からないマイクを片手に妙なポーズをとっていた。 「けっこうハマっていただろ?」 まだ護衛をしている事がばれていない時期、つららは振り向けば直ぐ分かるような位置で後を付けては、リクオが振り返った時にすばやく身を隠し、気付かれていない事をほくそ笑んでいた。 「しかしあれはどうしたものか・・・」 人の恋路を邪魔する奴はなんとかって言うし、とトサカ丸は苦しむリクオの顔を見ても知らぬ顔を決め込もうとしていた。 「そうかもしれないが、我々としては放っておいていい訳でもないだろう。」 結局その日、リクオはその悪夢から目覚めるまで放置されていた。 「なるほど、そういう事ならいい考えがある。」 その日の夜、二人から事のいきさつを聞いた黒羽丸は、腕を組み暫らく考えると静かに目を開け作戦を提示した。 「イタズラによって畏れを奪われたのであれば、イタズラし返せばいい。」 ちょっと待った、それは関係ないのでは・・・とトサカ丸とささ美はその場に固まってしまった。 「なんだ、気乗りしないのか。」 それを黒羽丸は二人がイタズラに乗り気では無いと勝手に解釈し、ならば自分がやろうと腰を上げた。 「ふふ・・・懐かしいな。互いにまだ幼かった頃は、雪女とは互いにイタズラをして遊んだものだ。」 いつもの仏頂面を少し綻ばせながら、黒羽丸は楽しそうにつららの元へと向かって行った。 「おい、どうする?兄貴の奴ノリノリだぜ?」 取り残されたトサカ丸とささ美は、主がうなされている事とかよりも、あの堅物がいったい何をするのかと興味津々となって、離れた場所から見守る事に決め込んだ。
そんな二人の様子を、庭からこっそりと眺めている者がいた。
「あ、ばれた?」
「そういう問題ではない。しかし、あの雪女がイタズラをするとは・・・」
「まぁ雪女はああ見えて悪戯好きみたいだしな。
ほら、リクオ様の護衛をしていた時、見つかりそうで見つからない行動をとって遊んでいたじゃないか。」
「そういえばそんな事もあったな・・・」
出かける時に、リクオのすぐ後ろを歩きながら「いってきます」「いってらっしゃい」の掛け合いをした事さえある。
普段はドジな所があるのに、イタズラが絡むと驚くような素早さで動き回っていた事に、三羽鴉は舌を巻いたものだ。
「ほっとけば良いんじゃねぇの?あれもスキンシップだって。」
「んー、じゃあ兄貴に相談するか?」
「そうだな、そうしよう。」
「お、さすが兄貴。」
「で、どういう案なのだ?」
「「は?」」
「そうだな、丁度今夜はリクオ様もお忙しいはず。いい機会だ。」
「いや兄貴、問題はそこじやなくて、リクオ様を起こす時にだな・・・」
「・・・何か問題があるのか?私は雪女の歌をけっこう気に入っているのだが。」
トサカ丸とささ美は、何故こうなったのだと互いに顔を見合わせる。
「どうすると言っても・・・一体何をするつもりなんだ?」